第15話 秘密結社『ミリアの子供達』
「……選択肢は、二つ。わたくし達の仲間になるか。それとも、今ここで死ぬか、ですわ」
エルダーを名乗る少女は冷たい声音でそう断言した。
(――冗談だったらいいのにな)
月明かりが差し込む聖堂の中央。
ちょうど窓の形に四角くなった月影を、五人の黒衣が取り囲んでいた。手にはそれぞれ得物を携えたまま。
聖堂の出入口には閂がかけられた上、鎖と錠で厳重に封印がされている。
そして全ての中心に跪かされたセシュナの両手も、しっかりと手錠がかけられていた。
戦いが終わると同時にこの扱いである。
「選びなさい。セシュナ・ヘヴンリーフ」
傘を模した散弾銃を床に突き立てて、エルダーはこちらを見下ろしている。
こうして見ると、揃いだと思っていた黒い仮面にも違いがあるようだった。
エルダーの仮面には、目元に涙のような白い模様が添えられている。
(本当にいたんだな。『ミリアの子供達』)
悪い冗談なら良かったと、セシュナは思っていた。
その仮面も――その裏に顔を隠した少年少女達も。
学園で密かに囁かれていた怪談。影のように現れては、学生を消し去る秘密結社。
もう笑い飛ばすことは出来ない。
彼らは今、確かにセシュナの前に立ちはだかっている。
「……僕は」
セシュナは、息を吸い直した。震える肺をなだめすかして。
「僕は、本当の事が知りたい。何も知らないまま
仮面の奥で細められたアイスブルーの眼を、真っ向から受け止める。
「吠えますわね。
嘲笑にしては随分と穏やかだった。その分、柔らかく首を絞めるように響く。
だが、怯む訳にもいかない。
「ダナ・ラーミー。オルガ教室第二学年。プレストア
一両日の間に生徒会権限で閲覧した出席簿と素行記録、そして聞き込みで拾い上げた情報を述べる。
エルダーの肩がわずかに震えたのを、セシュナは見逃さなかった。
「……彼女が消えたことを、僕はまだヒルデさんに報告してない。知っているのは
畳み掛けるように続ける。
「あなた達がただの人攫いや殺人者とは思えない。現に、あのモンスターから僕を助けてくれた」
セシュナは言った――黒い仮面の向こうにある、少女の素顔を見透かすような心地で。
「お願いです、エルダー……いや、アレクサンドラさん。本当の事を話してください」
沈黙のまま。
エルダーことアレクサンドラはこちらを見つめていた。
仮に今、彼女が笑っていたとしてもセシュナは驚かない。それぐらいのしたたかさが、彼女にはあるはず。
「……大した度胸ですわね。わたくしとヒルデさんを天秤にかけようと言うんですの?」
「ヒルデさんにもあなた達にも助けてもらった。できるなら力になりたいです」
本当の所を言えば、セシュナが思い浮かべているのは、鷹を駆って風紀委員を追い払ってくれたミロウの姿だった。千切ったパンを齧り続ける姿も。それから、彼女の細い指に填められたカレッジリング。
そして、炎に包まれる黒い少女に投げかけた
「それに、ここまで来たら真実を知りたいです。どうせ殺されるんだったら、なおさら」
「……自分の命がかかっているのに、まだそんなことを言えるんですのね」
かろうじて絞り出したような、アレクサンドラの一言。
「……どうやら彼、本気みたいだよ。
籠手を身に付けた黒衣――フォースが、肩を竦めた。
「ヒルデに事実を知られたら、いよいよ取り返しがつきませんわ。あのカタブツが何を言い出すか」
「だーから、言ってるでしょ。恩は返すって。ま、そもそも巻き込んだのもあたし達だけどさ」
言ってのけるフォースの声には、どこか面白がっているような節があった。
「それにさ、彼の言ってることも分かるよ。『何も知らないまま
額を指先で抑えて、アレクサンドラが小さく頭を振る。
「……鎖を素手で引きちぎる方には、銃口を向けるしかなかったんですもの」
それから、もう一度こちらに視線を向けた。
優雅な仕草で胸元を示して。
「わたくし達は禁忌の守護者。
やはり、というべきなのだろう。
だがそれだけでは足りない。セシュナは質問を重ねる。
「あのモンスターは? あの、真っ黒な女の子は――あんなの、どんな文献にも載ってない。あのモンスターについて何を知っているんです? どうして隠そうとするんですか?」
「あれは人間。正しくは、ダナ・ラーミー
瞬間。
ダナ・ラーミーの死に顔が脳裏を過ぎった。その亡骸が収められていた黒い棺のことも。
あの汚泥のような黒い塊が、彼女だというのか。
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