第1話「ひとつめの死体」①
2018年 6月17日 午前8時
「今日もいい朝だよよよ…。コーヒーでも飲もうかななな…。」
目覚め直後のカピバラが、そんな言葉を発しながらキッチンへと向かう。
コーヒーの袋をお湯の入ったカップの中へと沈め、カピバラはそのカップを片手にベランダへと出た。
「あっ。カピバラじゃん! おはよっ!」
隣のベランダから一人のヒトのフレンズがそんな声を掛けてくる。
カピバラはそんなヒトのフレンズを見つめ、言った。
「ああ。美代。おはよーだよよよ…。」
そんなカピバラを見つめ美代は言う。
「ていうかあんた、まーたそんなだらしない格好なんかして。…少しは身だしなみに気を遣ったら?」
そんな美代の言葉に、カピバラは答えた。
「どうせこの格好で居るのは家の中だけだから、外に出る時はちゃんと着替えるよよよ…。」
「…そう。それじゃあ私は戻るね。今日も出勤早いんだぁー。」
「私も家に入るよよよ…。早めに出掛けたいからねねね…。」
二人はそれぞれそんな言葉を交わして、家の中へと入って行った。
◆
「いただきますだよよよ…。」
カピバラがそう言って箸を手に取り、ご飯を挟もうとした、その時。
「イヤアアアアアア!」
そんな叫び声が隣の部屋から聞こえてきて、カピバラは思わず飛び退いて、尻餅をついたが。
「美代、また朝からホラー映画見てたのねねね…。毎回驚くよよよ…。」
美代はホラー映画好きで有名だった為、カピバラが直ぐに駆け着く…ということもなく、カピバラはご飯を食べ続けた。
そんな行動が、自分を事件に巻き込んでしまう要因になるとは、この時のカピバラには知る芳しもなかった。
…食べ終えた後、食器を片付け、カピバラは帽子や服、靴を身に付けた。
「さーてと。久しぶりの休日。お出掛けに出発だよよよ!」
明るい気持ちを胸に、カピバラは扉を開けて飛びだし
「グチャッ。」
そんな粘着質な音がし、
「…? 今の何だよよよ…?」
そんな声を出してカピバラは足元を見た。
そして、そこにあったものは。
濃くて、赤くて、粘着質の…血。
少し視線を変えると映るそれは、そんな血を腹部から流しながら、目を開けて倒れている、美代の姿だった。
「み…美代…?」
カピバラが美代を片手で揺さぶりながら言う。
カピバラが手を離すと、その身体は力無く、ゴロリと仰向けになった。
「キャーーーーーーーーッ!」
1日が始まったばかりのまだまだ青い空に、そんなカピバラの悲鳴が響いた――。
「被害者は伊藤美代、26歳。調べた所によると、胸や腹を複数回、刃物で刺されたようだ。」
白い壁に覆われ、中央にテーブルが置かれた部屋で、ヒグマが言い、続ける。
「第1発見者はカピバラ。しかし彼女には、その時間帯は食事をしていたというアリバイと、その証拠もあるため、彼女が犯人と言う線は薄いだろう。」
「彼女の親族はどうなんですか。」
かばんがそんな質問をし、ヒグマは答える。
「いや、その可能性は低い。彼女は独身で、母親は10年前に乳ガンで死亡しているし、父親も3年前に事故死しているからな。それに、妹もその時間帯はスーパーでバイトをしていることが、バイト先の証言から分かった。」
「…なるほど。これで親族が犯人という線も薄くなりますね。」
かばんがそう言い、椅子に腰かける。
そんなかばんを見つめてから、ヒグマは言った。
「現場には争った形跡は無い。恐らく、扉を開けたとたんに胸を一突きされ、その場に倒れ、死亡してから、また刃物で胸や腹を複数回刺して、場所を移動させたらしい。」
その場に居たヒグマ以外の全員が頷く。
ヒグマの隣に座っていたリカオンが、ヒグマが言った言葉を一つ一つ確認しながらノートへと書き込む。
「凶器も持ち去られているため、指紋の採取は出来なかったが、血がついた床を犯人が踏んだのか、足跡から靴を特定できた。……KINS《カインズ》のスポーツシューズだった。」
そのノートの中は、殺伐とした内容ばかりで埋まって行った。
しかし、次のコツメカワウソの言葉で、ノートの内容は明るく書き換えられた。
「はいはーい! KINSって、確かキンシコウさんがファッションデザイナーだった時に考えたファッションブランドだよね!」
「マジで?」「本当ですか?」そんな声で、辺りがザワつく。
「静かにしろ! 会議中だぞ!」
ヒグマのその声で、ざわめきは収まり、辺りは静まり返った。
「ヒグマさん……。」
キンシコウがヒグマにそう呟く。
「いいんだ、キンシコウ。気にするな――あの事は。」
ヒグマはキンシコウの呟きにそう囁き返した。
「話がずれてしまったな。えーと。で。そのKINSのスポーツシューズを履いている奴が走っている姿を目撃したという情報が、昨晩七王子に居た者達から多数寄せられた。……かばん。」
ヒグマのその声に気付いていないのかと、サーバルがかばんの肩をポンッと叩いた。
「……あああああ、はい。」
かばんがそんな返事をし、 パソコンへとそのメモリを差し込んだ。
「 ちょ、ちょっと待ってて下さい。」
そんな声を上げ、かばんはカチカチとマウスを使い、パソコンを全員が見えるように動かして。
「……こちらが、その証拠の映像です。」
かばんはそう言って、マウスを一回、カチリと押した。
そんなマウスの音と友に、動画のロードが始まり再生され始めた。
その動画の中で、人々が暗い足元を歩き、楽しそうに会話をする中一人、あのスポーツシューズを履いて走る、ヒトの姿が映っていた。
……途中でかばんがその映像を止め、ヒグマが再び口を開いた、その時。
「すいません!」
勢いよくドアを開け、一人のフレンズが入ってきた。
「 どうしたんだ、カコ。」
そうヒグマに聞かれ、そのフレンズは答えた。
「 また一人、ヒトが殺されました。」
その言葉を聞き、ヒグマは目を丸くして言った。
「なんだと!」
そしてそのフレンズは……カコは、こう続けた。
「 それと……ミライさんが、刑務所から逃げ出しました。」
その言葉を聞き、ヒグマは血相を変えて言った。
「なんだと……!?」
ヒグマの後ろの窓からゆっくりと近づいてくるフレンズを見つけ、かばんは叫んだ。
「ヒグマさん! 後ろ!」
ヒグマが慌てて後方を振り向くも、見るのが間に合わず、何が何なのかも分からぬまま、その正体不明のフレンズに、床へと押し倒された。
「ヒグマちゃーん!会いたかったわー♪」
悶えるヒグマに、そのフレンズ……ミライがそんな事を言って頬を擦り付ける。
「その声は……ミライ! ……っあ、やめろ!」
「ヒグマさん!」
そんな状況に悶えながら、ヒグマは言った。
「まあ、これで人員は増えるからとりあえずよしとしよう……。とりあえず、今は――。」
ヒグマが持っている熊手を上へ掲げながら言い、続ける。
「こンの……。レズ人間があああああぁぁぁァアアアァァァアアアアア!」
そしてヒグマは、その熊手を、前にいるミライへ向かって振り下ろした。
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