6月の魔法使い

すずめ

第1話

私は、とりえのない人間だ。

満員電車に揺られながら、暗すぎる一言が頭をよぎる。


暗すぎるが、その通りなので否定することはできない。


世の中には、自分の好きなことを極めて、それで生活している夢のような人たちがいるらしい。

うらやましいなと思う。

仕事にしてもいいと思えるほど、情熱を注げる何かを持っていることが。


25年の人生の中で、そんなものに出会ったことがない。

どうも情熱を抱きにくい質らしく、部活も恋愛もするすると受け流してきた。


がたんがたんと、電車が揺れる。


するすると回遊する魚のように過ごした日々は、過不足はなかった。

おそらくこの先も、過不足ない日々が続いていくのだろう。


ふと、窓の外を見る。


(あ、あのアジサイ咲いたんだ)


思考の海に飲まれそうになっていた私の目に、鮮やかな青がうつる。

停車駅のすぐ近くにある、小さな庭にはみずみずしいアジサイが花をつけていた。


この路線を利用し始めてからずっと、その小さな庭を観察していた。

小さな庭に咲く季節ごとの花を、私は毎日楽しみにしていた。


ひそかに秘密の庭と呼んでいるそれは、過不足ない私の日々の少しのうるおいなのだ。


扉が閉まる直前に、湿った空気が鼻をついた。

どうやら雨が降るようだ。





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