6月の魔法使い
すずめ
第1話
私は、とりえのない人間だ。
満員電車に揺られながら、暗すぎる一言が頭をよぎる。
暗すぎるが、その通りなので否定することはできない。
世の中には、自分の好きなことを極めて、それで生活している夢のような人たちがいるらしい。
うらやましいなと思う。
仕事にしてもいいと思えるほど、情熱を注げる何かを持っていることが。
25年の人生の中で、そんなものに出会ったことがない。
どうも情熱を抱きにくい質らしく、部活も恋愛もするすると受け流してきた。
がたんがたんと、電車が揺れる。
するすると回遊する魚のように過ごした日々は、過不足はなかった。
おそらくこの先も、過不足ない日々が続いていくのだろう。
ふと、窓の外を見る。
(あ、あのアジサイ咲いたんだ)
思考の海に飲まれそうになっていた私の目に、鮮やかな青がうつる。
停車駅のすぐ近くにある、小さな庭にはみずみずしいアジサイが花をつけていた。
この路線を利用し始めてからずっと、その小さな庭を観察していた。
小さな庭に咲く季節ごとの花を、私は毎日楽しみにしていた。
ひそかに秘密の庭と呼んでいるそれは、過不足ない私の日々の少しのうるおいなのだ。
扉が閉まる直前に、湿った空気が鼻をついた。
どうやら雨が降るようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます