転校してきたギャルに好かれたんだけどどうしよう

拓魚-たくうお-

第1話 転校生が来たんだけどどうしよう

 突然で申し訳ないが、今日、このクラスに転校生が来る。委員長から今朝伝えられた——正確にはそれを聞いたクラスメイトから届いた——唯一の情報は、その転校生が女性であるということのみ。

 その情報によってクラスの男子が未だかつてない程騒ぎまくってるのは言うまでもないだろう。


 「なあ黒崎。どうしよう。すげえわくわくしてるよ俺。」


 おいお前もか。この発言の主は、生野佑馬いくのゆうま。平凡、もしくはそれ以下である僕にとって唯一の友人といっても過言ではないこの高身長イケメン。黙ってれば絶対モテるんだけどなこいつ。そして黒崎というのは僕の苗字。日常的にこの苗字を呼ぶのもか担任の先生くらいだ。我ながら本当に友人の少ない可哀想な人間だと思う。


 「めっちゃ可愛い人きたらどうする!?」

 「明るい子だったらそれでいい。」

 「いやいや、絶対清純な子だな。」

 「優しい子だったらいいなあ!」

 「まだかな。はよ来てくんねえかなあ。」


 勝手極まりない憶測や願望が教室中を飛び交う。まあ気持ちは分かる。いやむしろ共感の域だし勝手な妄想だってしてしまう。だって高校二年だぞ。二学期だぞ。一番楽しいこの時期に来る転校生なんて気になって仕方ないだろ。

 ちょっと取り乱しすぎたねごめんね。




ガラガラガラ…


 急に教室のドアが開いた。その瞬間、いや、その刹那せつな、教室中の男という男がいつもの三十倍くらいのスピードで着席した。生野も含め。それにしても早すぎるだろ。どんだけ転校生に良いとこ見せたいんだよ。

 「えーっと、まああれだ、もう全員知ってんだろーけど、転校生イベントだ。」

 いつにもましてけだるげなこの中年男性、もとい担任の山下。みんなこの先生のことは好きではないようなのだが、僕は結構好きだ。なんか、同じ匂いを感じる。

 「つーわけで、まあ入れや転校生。自己紹介でも適当にやんな。」



 「うぃーっす」

 教室の外から聞こえたあまりにも可愛らしい声に息を飲んだ音が、教室のあちこちから聞こえた。その言葉が、あまりに軽い返事であることにも気づかずに。


 「うぃーっす!夏川唯菜でーっす!なんか親の都合でこっち来たんだけどさ、マジ校舎もちょーキレイだし今からすっげー楽しみなんだよね!マジやべー、みんな仲良くしてな、うち結構前の学校とかでも…


 なつかわゆいな、だろうか。黒板に書かれた暗号とも思えるほど難解な丸文字を僕が解読し終えたところで、彼女の長い長い自己紹介が終わった。

 素直な感想を言おう。正直、このタイプの人は好きではない。軽い口調、馴れ馴れしい態度、容姿で言えば、金髪に露出の多い制服の着こなし方。どれをとっても、いわゆるギャルという部類の人間だろう。自己紹介の途中にチラチラと見えた豊満すぎる胸に興奮をあらわにしている者もいるが、さすがに僕はそこまで単純な男ではないし、人を見る目にも割と自信がある方だ。

 頭の中で散々な批評ひひょうをしていると、しばらく黙っていた先生が口を開いた。


 「あ、やべ。席用意すんの忘れてたわ。誰か職員室前から机取って来てくんね?」


 どんだけやる気ないんだよあんたは。まあ当然、手をあげる生徒などいない。ここは四階で職員室は一階だから、二つの意味で骨が折れる。


 「だよなあ、まあいいわ。俺が持って来るから、夏川、ちょっと待っとけ。んで、HRホームルーム終了。解散。」


 バタン、とドアが閉まった途端、クラスの人という人が一斉に立ち上がり黒板の前に集まった。それはさながら、獲物えものを見つけた野獣やじゅうの群れのようだった。やりますねえ。


 「ねえねえ唯菜ちゃん!彼氏とかいるの?」

 「夏川さんってさ、前の学校で好きな人とかいなかったの?」

 「ねえ今日私たちと一緒に帰ろうよー!」

 「おれ成田!!よろしく!!」


 純粋なお誘いに、デリカシーのない質問や聞いてもない自己紹介。おちつけ成田。

 男子も女子もお近づきになろうと必死なご様子。僕は興味ないし関係ないので一向に構わんのだけどね。


 あれ、まてよ。

 みんなのお祭り騒ぎによって思考が掻き消されてしまっていた。そういえばあいつ夏川唯菜の席、どこになるんだ。

 僕のクラスは元々、男子十五人、女子十四人の合計二十九人。

 席は横に六列、一列に五人ずつであるため、(6×5=30)により、二十九人のクラスには一席分の空きスペースがある。

 察しの良い方ならもうお気づきだろうが…


 「はあ…机、持って来たぞ…。誰か黒崎の横にこれをゲホッゲホッ」


 そう、その空きスペースというのは教室の一番左後ろ、要するに僕の隣なのである。


 「ちょ、先生疲れすぎじゃね。ちょーうける」


 どうしよう全く笑い事じゃない。

 そんな僕の気持ちなど御構い無しに、委員長が教室の一番左後ろ僕のとなりに机を持って来て、夏川さんがそこに腰を下ろした。

 隣の席だ。当然目が合ってしまったので、軽く会釈をした。

 すると彼女は一瞬驚いたような顔をして…あれ、え、泣き出したんだけど。


 「ねえ…?カズ君?カズ君だよね…?」


 そう言い放った直後、彼女は僕に抱きついてきた。

 あまりに唐突なことだったので全く思考が追いつかないのだが、一つだけさせておきたいことがある。













ご め ん ぼ く カ ズ 君 じ ゃ な い






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