bLu

笹倉

第1話 Blue

 彼女はいつも泣いていた。ボクらがいるのは一面の青い砂漠の星で、涙も心なしか青く見えた。空よりも澄んだ、脆い青だ。


「悲しくてたまらない」

「うん」

「涙が止まらない」

「うん」


 ボクはそれを受け止めてみせる。みせているだけだ。見せかけの相槌で、彼女の涙が砂漠の色に吸い込まれていくのを見ていた。


 一面青いというのは、実は嘘だ。波打つ砂の中には、白いものが埋もれている。ボクらの身長よりもずっと大きな立方体、それをいくつも組み合わせた巨体。今や動かないそれは、ボクらが所属している『生存機関 ブループラネット』によって「フラグメント」と呼称されている。

 人類を喰らい尽くす異形、死を振りまく怪物だ。怪物は倒さなければならないと、昔のおとぎ話たちも語っている。


 彼女の声はボクの胸に響く。不思議と頭も痛い。このところずっとそうだ。


「行こう、ブルー」


 彼女の嗚咽がある程度収まって、ボクは彼女の頭を撫でた。パッとこちらに上がった顔は二つの蒼の海を湛えている。涙よりも空よりも何よりも、深くて悲しかった。声をかけるのも忘れ、ボクはしばしその瞳に溺れる。呼吸を取り戻すまで数秒、自分の早鐘すら痛くて苦しい。


「……ブルー、急ごう。またフラグメント共が来るかもしれない」

「そうだね」


 彼女の名前を二度呼ぶと、ようやくコクリと頷いた。乱暴に腕で涙を拭った彼女は、真っ直ぐな瞳でフラグメントの残骸を見つめていた。


 ああ、とボクは嘆息する。


 いつまでも嘆息するばかりで、大切な言葉を飲み込むばかりで。

 いつまでもボクは果てのない青を見つめて。

 ……いや、こんな回りくどい言葉はよそう。無駄な言葉をやたらめったら積むのはよそう。

 キミはそれが嫌いらしい以上、ボクもそれを好まないから。


「行きましょう、エコー」

「うん」


 つまるところ、ボクは彼女が好きだった。

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