金本と豊川が全面的に起訴事実を認めたため、二人は一か月の拘置期間で執行猶予付きの判決を受けて釈放された。

 「お世話になりました」金本はさっそく伊刈のところに挨拶に来た。

 「実刑にならなくてよかったな」

 「伊刈さんの上申書が効いたんですよ。まじめに処理しようとしていたと書いていただきました」

 「ほんとのことだからね」

 「それにやっと高千穂重機と縁が切れました。かえって禊になりましたよ」

 「ソウル交易の現場は応急措置をやったよ。ドラム缶の底が抜けちゃって近所からの苦情が毎日だったからな」

 「そうらしいっすね。きれいに片づいたんですか」

 「いや中和したあとドラムに入れて置いてある」

 「よく中和できましたね。さすが役所ですね」

 「そうでもないよ。穴を掘って重機でドラム缶を叩き割って石灰と土砂をかけただけなんだ」

 「ほんとですか。それでいいんだったら、みんなそれやりますよ。それなら一本五千円でできますよ」金本は目を見張った。

 「金本さんがそれをやったら無許可処分業で逮捕だよ。それに応急措置といっても役所がやるといろいろあって思ったほど安くなかった。請求書を見てびっくりしない方がいいよ」

 「いくらくらいですか?」

 「金本さんと豊川さんの二人に五百万ずつくらいかな」

 「そんなにですか」

 「公共事業は民間の倍以上高くなるからね。それだけじゃないんだ。ドラムに詰めた中和物の焼却処分がまだ残ってる」

 「それいくらかかるんすか」

 「もともとピッチだからまともに頼んだら一本五万だろうな」

 「じゃあと二千万かかるじゃないすか。ちゃんと処理すれば売れたんですよ」

 「しょうがないな」

 「俺はこれから稼いで返しますが豊川にはムリですよ。結婚したばっかで子供もちっちゃいんですよ。タイ人の奥さんでね」

 「シンディさんだよな」

 「知ってるんすか」

 「警察から聞いて訪ねてみた」

 「伊刈さんも世話好きですね」

 「旦那が有罪になれば在留許可の更新が難しいそうだよ」

 「豊川がいない間どうしてたんすかね」

 「同郷のお姉さんが面倒見てたけど、ずいぶん不安そうだったよ」

 「どうしようもないですね。なんとか豊川だけでも勘弁できないんすか」

 「高千穂重機がやってくれればいいんだけどな」

 「そういえば九重さんも挙げられたんだそうすね」

 「別件だけどな。警察の面子だろう。二十万の罰金払ってもうとっくに出てきてる。これも禊みたいなものだよ」

 「そうすか。でも捕まったことは捕まったんだ。何もないよりいいですよ。ちょっとすっきりした」金本は溜飲を下げたように言った。

 「関東興油を調べようと思ってるんだけどネタはないかな。関東興油が大量に作ってる不正軽油はどういうルートで売られてんだ」

 「それは勘弁してください。それを言ったら俺どころか九重さんも命がないです」

 「そういう世界なのか」

 「油はおっかないですよ」

 「まあ命がないと言われたらどうしようもないけどな」

 「伊刈さん油はもう諦めてください。そのかわりいいネタを教えますよ。それで九重さんと交渉してみてください」

 「いいネタって?」

 「オデコには売らないでくださいよ。そしたら俺やばいすから。伊刈さんだけに教えるんですからね。九重は偽造高速券とか偽造パスポートとかそういうの扱ってるんすよ」

 「北海道で投げられたピッチにも九重が出したものがあったんだろう。警察は証拠を見つけられなかったみたいだけど何かないのか」

 「証拠ならありますよ」

 「ほんとか」

 「ちょっと耳貸してください」金本は伊刈に身を寄せた。

 「九重さんには女が三人いるんすよ。三人目のトモカって女の口座を北海道の入金に使ったはずです。あの女ススキノのソープ上がりですから」

 「わかった。つまり全部高千穂重機がらみってことだね。そのネタうまく使わせてもらうよ」

 金本は頼もしそうに伊刈を見送った。

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