学校
一通りヘーゼンから嫌がらせを受けた後、アシュとリアナは、赤煉瓦で囲まれた校門をくぐる。
名門レッサーナ魔法学校は、学術都市ザグレブの象徴であり、大陸でも最古の歴史を持つ魔法使い養成所である。生徒の選抜方法は、魔法。地位、国籍、人種の差別もなく、優秀な魔法使いだと見なされれば、その授業料も免除され、専門的な魔法教育が受けられる。
校舎に入って、下駄箱に到着。当然だが、靴に画鋲が刺さってピョンピョン飛び跳ねている者は誰もいない。叶わなかったその光景を思い浮かべて、性格最悪魔法使いは、大きくため息をつく。
「はぁ……」
ため息をつきながら、室内用の靴に履き替え――
!?
「ぐわああああああああっ」
画鋲。靴の中に入れられた画鋲が容赦なく足裏を突き刺し、アシュはピョンピョンピョンピョン飛び跳ねる。
「くっ……誰だ……なんて卑怯な」
「……」
これ以上、自業自得が似合う出来事は存在しないと、リアナは思う。
とは言え、アシュに対する嫌がらせも慣れたものなので、応急処置もひと塩に、教室に入る。
所属は、最も優秀な魔法使いが集う特別クラス。他の生徒たちは厳しい試験をくぐり抜けてきた猛者ばかりだが、2人とも、最強魔法使いヘーゼンの推薦だったので、特例でこのクラスに編入されていた。特にアシュは、その成績の優秀さ故に、飛び級。自尊心高きエリートたちが、それを面白く思っているわけがなかった。
入った途端、クラスから向けられる圧倒的敵意。しかしそれは、2人にではなく、性格最悪生徒のみに向けてである。特別クラスに編入して3カ月。すでに彼の人間性を知ってしまっている生徒たち。
「……アシュ」
隣のリアナが肘で、脇腹を小突く。
「わ、わかったよ……みんな、おはよう」
100%笑っていないであろう作り笑顔を見せる。
「「「……」」」
が、無視。
これ以上ないくらいのガン無視で、生徒たちは机に向かっている。
「くっ……才能がないだけじゃなく、性格まで悪いな」
すかさず、悪態をつく性格最悪生徒に、再び敵意が注がれる。
「こらっ、アシュ! あなたは、笑顔が足りないのよ。いい? こうやって……おは――」
「おはよう、リアナ!」「相変わらず今日も可愛いね」「そうそう、私、わからない問題があるんだけど」「い、いやいや俺もわからない問題が」「お前はリアナと仲良くなりたいだけだろう?」「そ、そ、そんなんじゃねぇーし」「嘘だー、ガジン顔赤くなってんじゃーん」「なってねーし」「嘘だー」
「えっと、それでね、アシュも――」
満面の歓迎を受け、リアナは一瞬にして輪の中に連れ去られる。実力至上主義の名門レッサーナ魔法学校の中で、最強魔法使いの娘であり、性格、容姿までも最高である美少女が人気がないわけがなかった。
一方、ほとんど同じ条件を揃えているアシュであったが、その難儀な性格ゆえに、ぼっち。そして、1人ポツンと取り残される性格最低男子は、強がりで「ふっ」と鼻で笑う始末。「群れるのは軟弱な証拠」、精一杯の強がり捨て台詞を吐いて着席。全力で平気なふりをしながら教科書を開く。
キンコンカンコーン。
授業のチャイムが鳴り響き、さっきまでリアナの周りに群がっていた生徒たちが一斉に着席をする。すぐに教室の扉が開き、男性教師が入ってくる。ジャスパー=レイザ。20代半ばで、若手の部類ではあるが非常に有能な魔法使いである。
「さて、授業を始めようか。みんな、教科書の68ページを開いてくれ」
そんな指示を無視して、アシュが真っ直ぐに、手を挙げる。
そんな挙手を無視して、ジャスパーが授業を、開始したが、
「先生! 質問があります」
無視できないほどの大声で、猛烈アピールを繰り返す生徒にとうとう観念した。
「なにかな、アシュ=ダール君」
「はい! 予習していたんですけど、その68ページの一文『魔力の構造』の章の2行目『魔力は神から与えたもうた力であるため、その根源がどこであるかは未だ解明されていない』。僕はこの1文について、1つ検証したい実験があるんです」
「……」
「僕の検証した仮説では、魔力の根源は、左大脳半球上部及び側面に、魔力をつかさどる部位が存在します。魔法を使える者、使えない者に関して、被験者を募って大規模な実験を行えば、これが正しいかどうかがわかります! 先生、どうですか!?」
机、どん!
「……終わったか? じゃあ、授業を始めようか。魔力は神から与え――」
「……」
その的外れな知識探求の情熱故に、圧倒的に浮いている、アシュであった。
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