食い飽きた天然物の
冠梨惟人
掌編小説
また、この季節が回って来たか、安価な牛丼屋の品書きに少し高めの値段で、鰻が艶のある姿を見せた。
隣国の鰻であることは重々承知しているが台風が頻繁に頭の上を通過していた田舎の夏、実家の前の河川が氾濫する度、荒れた流れに塩ビ管を沈め、風に巻かれた大雨が過ぎ去って晴天となるのを待って回収しに行くと、塩ビ管には逃げ遅れた鰻が嘘のように詰まっている。
何処で覚えたのか、鼻唄まじりに親父は鰻に釘を刺し、新聞で滑りを取り包丁を差し込む。見る見る間に冷蔵庫の中は鰻の切り身で一杯になった。それから二、三日は蒲焼が美味しく食べれた。親父が調合した濃い目のタレに肉厚で脂の乗り切った、ぎっちりと身の締まった鰻は格別だった。
想い出に耽っていると電子レンジが鰻のパックを温め終ったらしく、黒塗りの重箱が目の前に出された。
席に着き、水を一口飲んで山椒を振りかけ箸で千切りながら御飯と一緒に口にかき込む。
柔らかな歯応えと小骨の感触に、違和感をまた、感じた。
更にかき込み目を閉じた。
雲のない、青い空が光る。
思い出を硬く噛むと、食い飽きた天然物の味と親父の得意げな鼻歌まじりの大きな笑みが、熱く腑に流れ落ちた。
食い飽きた天然物の 冠梨惟人 @kannasiyuito
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