異世界で食堂を開くのが夢だった話
ゆわか
異世界にきちゃった
異世界で食堂開くと、メッチャ儲かるらしい。
そう聞いていた。
実際、異世界で食堂開いた体験談的な書物が
アニメや映画にもなったりして
飛ぶように売れている様を目の当たりにしていた。
だから、私はごく普通の女子高生を営む傍らで、日々料理の研究に注力し
体力をつけるため、毎日食材を足で運び、フライパンで小石を躍らせた。
(なんかそういう修行をしているのをどっかで読んだ)
そう・・・・・・いつ異世界に飛ばされてもいいように!
しかし、現実はそう甘くは無かった。
ゼンゼン辛かった。
そもそも・・・・・・だ。
「なんであたし、男に転生してるのよー!!」
つい叫んでしまった。
周りにいたモブさんたちの目が痛い。
特に、目の前にいる異世界管理局のお兄さんの視線が鋭く突き刺さる。
しかし、以外にも優しい言葉を掛けてくれた。
「大変だよね。
急に異世界に転生なんて」
「そうなんです!
もうホント、これからどうしたらいいのか!
助けてください、お兄さん!」
「お兄さん・・・・・・?」
「え?」
「私、一応オンナなんだけど」
「ぎゃああああ!
す、すみません、すみません!
とんだ失礼をばばばばば!」
油断した!
綺麗な人だなーとは思っていたけど
なにせ異世界だし、美人が女性とは限らないじゃない?
それに鎧がゴツくてつい、男と思い込んでしまった!
「落ち着いてください、気にしてないから。
ただ、一応訂正はしておきたくて」
「ですよね、ですよね!
ホントにごめんなさい!」
「それで、これからどうします?」
「どう・・・・・・と言われましても・・・・・・
あ、一応、食堂とか開けたらいいなー的な?」
「食堂ですか。
希望されるなら、支援はしますが」
「が?」
「見てもらった方が早いですね」
さて、読者の皆さまにはここで少し異世界についてご説明申し上げます。
私が異世界管理局のお姉さんから聞いた話では
どうやら今、私がいるこの管理局という場所は
異世界と異世界をつなぐポータル・・・・・・駅のような場所なのだそうです。
昔、管理局が無かった頃は、そこらかしこに放り出されたそうですが
今は事故、あるいは違法な手段によって異世界に召還または転生した場合、必ずここに出現するようにシステ
ム化されているのだとか。
全うな手段で召還及び転生が行われた場合は、ここにはこない。
つまり私は、なんらかの事故(術に失敗したとか、時空嵐が起きたとか)あるいは、違法な手段(魔物を呼び出そうとしたとか、禁じられた術式を使ったとか研究していたとか)によって転生させられてしまったということです。
はっきり言って、意味が分かりません。
ともかく、異次元の旅人が遭難しないよう、なんかすごい人がそういうシステムを作ったということなのでしょうか。
そして、ここに現れた異世界人・・・・・・私とかは、この管理局の居住区で暮らすことがゆるされているそうです。
「どうする?」というのは、ここでどんな仕事をするかという意味なのでした。
家に帰るという選択肢はないのでしょうか。
説明終わり!
そんなこんなで、管理局のお姉さんに連れられて居住区まで来たわけですが。
「こういう状態なんだけど、ホントに食堂やる?」
「え、えーと・・・・・・」
居住区は、食堂でひしめき合っている。
どこの世界のあれだかよくわからないけれど、そこに並ぶ建物がすべて食事関係であることはすぐにわかった。
メッチャ激戦区じゃん!!
こんなとこで設けようと思ったら一体どんな戦略を練ればいいのやら。
この喧騒を見る限り、お客さんやお隣さんやライバル店の方々ときゃっきゃうふふなイメージはゼロ。
何かもう、絶望すら感じる。
「近年、本当に転生や召還が増えていてね。
しかもその全てがここに集まるシステムのおかげで
本当に急激に人口が増えてね。
それにしても、なぜみな一様に食堂を開きたがるんだ?」
「な、なぜなんでしょうね」
他の世界でも、異世界で食堂やるブームなんだろうか。
出遅れた、完全に出遅れた!
どうせ転生するなら、なんでもっと早くしてくれないんだ!
「で、どうする?」
正直、この状況で食堂なんてやってられない感たっぷりなんだけど
他にこれと言って職業訓練してこなかったし
やっぱり食堂やるしかない気がする。
「食堂・・・・・・やります・・・・・・」
「そう、頑張ってね。
じゃ、あなたの家に案内しようか」
「よろしくお願いします」
てっきり、ひしめき合う建物のどれかかと思っていたが
私が案内されたのは、町外れの一軒屋。
正直言って、過疎った農村地より寂しい印象を受ける。
「転生者が多すぎて、このままじゃパンクしちゃうっていうんで
拡張したところなんだ。
中心街から離れてしまって申し訳ないけど
その分、土地は多めに・・・・・・」
「神さまグッジョブ!!」
「は?」
「い、いえ、なんでも!」
やった! つまりこれって、この地区じゃ一番目の食堂ってことよね!
これはワンチャンあるんじゃね!? ね!?
「とりあえず、資本金と当面の生活費と。
一応すぐに暮らせるようには整えてあるけど
食堂を開く場合は、衛生管理局のチェックも入るから
この資料をよく読んで、間違いのないように」
「はい、ありがとうございます!」
「あのさ、無理して商売しなくていいんだよ?
キミ、ガタイはいいんだからさ、冒険者とかでも・・・・・・」
「と、とんでもない!
見た目がどんなに歴戦の勇者っぽくても
中身はただの女子高生なんですから!
冒険者なんて、無理ですって!」
「そ、そう・・・・・・?
まあ、もし気が変わったら
他にも色々仕事はあるし、職安に行くといいよ」
「はい、ありがとうございます!」
「返事はいいんだけどなあ」
「え?」
「いや、なんでもない。
じゃあ私はこれで」
元の世界にいるお父さん、お母さん、お兄ちゃん、そして妹よ。
私はこの世界で生きていきます。
強くたくましく美しく。
というわけで、あわただしく開店準備を進め、いよいよ開店と相成ったわけですが。
なぜかお客が一人も来ません。
客は来ないのに、どうゆうわけだか強盗は来ます。
転生で授かった、たくましい筋肉のおかげで、なんとか殴る蹴るで撃退はしているものの、この地区うちしかないのに治安悪すぎませんか!?
あ、剣も一応持っていますが、正直使うの怖いのでまだ一度も抜いたことはありません。
このままでは、おまんまの食い上げです。
というわけで、管理局のお姉さんに相談してみることにしました。
「それ、強盗じゃなくてモンスターだから」
「は?」
「翻訳機で、言葉が翻訳できなかったでしょ?
そういうのはモンスターだから、冒険者に討伐を依頼するといいよ」
驚愕の事実です。
すごく身近にモンスターが出現します。
「ていうか、聞いてないんですけど、モンスターがでるとか!」
「話しましたし、資料にもちゃんと書いてあるよ」
「ぐう!!」
一生の不覚です!
異世界といえばモンスター、モンスターといえば異世界!
なのに!
モンスターがいるという認識を怠ってしまっていたとは!!
ていうか、そういえば確かにモンスターぽいなっては思ったけど!
でも異世界だし色んな変わった種族の人いるし、こいつらもそういう変わった種族かなーって!!
なーって!!
思っちゃっても仕方ないよね!ないよね!
でもさ、居住区にモンスターがでるのは、何かイベントがある時とかじゃないんですか?
普通、出ないですよね、居住区にモンスター。
やっぱりモンスターが出て当然って言われるの、納得できない!
「冒険者に依頼するとなると、大体コレくらいかかるけど」
私の混乱をよそに、淡々と話を進めるお姉さん。
そこには出せなくはないけど、出したら生活やばいかなという金額が書かれていた。
「も、もう少しお安くなりませんか?」
「自分で退治すれば、払うどころか貰えちゃうけどね」
「え?」
「モンスターを倒せば、食材も、素材も、お金も手に入るってことだよ」
あー、はいはい、異世界の常識ですよね。
知ってた。知ってた。
でも、料理しかしてこなかった平凡な女子高生にそれはハードルが高い。
そのように感じます。
男子高校生とかだったら、無駄に格闘訓練とかしてる人いそうだけど。
引きこもりながら体鍛えるっていう設定は正直意味不明だけど、いざ異世界に来てみれば意味を成すのだなあ。
ていうか、異世界来た途端にコミュ障治るってどゆこと?
(治ってはいない、常識が違うだけ)
まあいいけど。
とにかく、目の前にある究極の二択をどうするか、それが問題だ。
身を削って冒険者を雇うか、心を削ってモンスターを狩るか。
といっても、答えはきまっている。
ごくごく平凡な女子高生の私が、血しぶきブシャーに耐えられるはずがない。
その上、食材や素材を切り出したりなんてとんでもないことだ。
卒倒しなければ気が狂うにきまってる。
そこ、殴る蹴るはいいのかとかツッコミいれない!
痛いだけの暴力と、血が溢れ出たり死んだりするようなレベルの暴力を一緒くたにしてはいけない。
そう、つまり私の答えはこうだ。
「冒険者に依頼をお願いします」
「わかった、じゃあ行こうか」
管理局のお姉さんは、現役の冒険者も兼業しているそうだ。
うん、わかってた。
だっていかにも戦う人っぽもの、その鎧。
「どこいくんだ? ひょっとして討伐?」
不意に可愛らしい美少女が声をかけてきた。
私にではなく、管理局のお姉さんに。
いかにも異世界の女の子という感じのヒラヒラした洋服。
シャンプーが大変そうなロングヘアを二つに束ね、頭には大きなリボンが!!
ふむふむ、これは魔法使い系ですな。
いやいや、ヒーラーかな?
と、その手に握られたモノに目を向けると、可愛らしい杖・・・・・・ではなく、結構大きなハンマーが。
ははは、ギャップ萌え狙いですか?
キライじゃないです。
「ああ、新地区の方にちょっとね」
「へえ、新地区にさっそく転生者が来たのか。
よーし、オレも手伝ってやるよ」
「依頼者の話では、さほど手はかからない様子だから
サポートは不要だよ」
「そんなこと言わずにさあ、いいだろ?」
「あがりが減るからイヤ」
「何言ってんだ、オレとあんたの仲だろ?
報酬なんていらねえよ。
第一、オレがあんたに報酬求めたことあったか?」
「それがそもそも迷惑だといっている」
「いいじゃねえか、オレの気持ち知ってるだろ?」
「私の気持ちも知っていると思っていたが?」
何かすっかりカヤの外で話が進んでいる。
どうやら管理局のお姉さんは、この少女にいいよられて困っているようだが・・・・・・
あの言葉遣い、ひょっとしてこの子も転生者?
しかも、中身は男と見た。
お姉さん、すっごい美人だし惚れちゃうのはわからなくもないけど
嫌がってるのにしつこく言い寄るのはよろしくないんじゃない?
「あのー、ちょっといいですか?」
「ダメだ、うっせー、だまれ」
ダメだこいつ、思ってたよりあかんやつや。
早く何とかしないと。
いや、別に本当になんとかしようとは思ってないけど。
関わると面倒そうだし、そっとしておこう。
「依頼人に無礼を働くな!」
ゴオンとそれなりにいい音がした。
甲冑のゲンコツは痛そうだ。
殴ったほうもそれなりに痛かったようで。
お姉さんは腕を、美少女は頭を、それぞれ抱えてうずくまっている。
笑っちゃいけないんだろうけれど、今にも噴出しそうな自分がいる。
耐えろ、耐えるんだ、私!
「ともかく、私一人で十分だ。
お前はお前の仕事をしろ」
「ちぇ、いけずう」
すねながら、美少女は退場した。
正直ほっとした。
ふふふっ。
「今、オレのこと笑った?」
「ひいいいいいい!!」
戻ってくるな、心臓に悪い!!
お姉さんからもう一つゲンコツをもらって、美少女は今度こそ本当に退場した。
はずだ。
転生したらモンスターだった、というよりはマシなのかもしれないが
性別が変わってしまっていたというのも、困りものだ。
彼が美少女に転生しなければ、もっとましなキャラだったかというと、そういうわけでもないが、少なくとも私が美少女に転生していれば、ウハウハな、いや、慎ましやかに暮らしていけたことだろう。
彼と私の中身が入れ替われれば、いいのになあ。
さて、所変わって私の家。
モンスターが出現するまで、食事をしてもらうことになった。
はじめてのお客さま。
私の美味しい料理をたーんと召し上がれ。
「あ、ありがとう」
お姉さんは、遠慮がちにそう言った。
私がワクワクしながら見守る中、お姉さんは黙って、一口、二口と食事をすすめる。
そして食事を終えた。
「ご馳走様、美味しかったよ」
と、やや困り顔で言った。
これはつまりアレだよね、美味しくなかったってことだよね。
そういう時の反応だよね、これ。
まずかったけど、一生懸命作ってくれたら美味しいって言ってあげなきゃ!的な感じですよね。
「ありがとうございます」
私は出来る限りの笑顔でそう応えた。
真意を悟ってしまったと気づかれては、お姉さんの気遣いが無駄になってしまう。
いや、むしろ気づいたけど怒ってないよーっぽくした方がいいのかな?
考えれば考えるほどわからない。
向こうの・・・・・・元の世界で私は、それなりに料理の練習をしそれなりに味に自身もあった。
家族も友達も、美味しいっていってくれていたけど、本当はちがったんだ。
本格的に店を開く前に気づけてよかった。
お姉さんの助言どおり、職業は冒険者にしよう。
そうだ、それがいい。それが一番いいんだ。
多分、それが運命。
でもなんだか、もやもやする・・・・・・
そんな事を思いながら、食器を洗う水音を大きくたてて、鼻水の音を掻き消す私。
「やーん、泡が顔に付いちゃったー」
最後に私はそういって、ばしゃばしゃと顔を洗う。
よし、これで泣いていたと気づかれることはない。
しかし、筋肉質な男が「やーん」とか言ってるのかと思うと
自分のことながら笑える。
ああキモイ。でもカワイイ。
そーだ、オネェ冒険者としてやっていこう。
ギャップ萌えギャップ萌え。
・・・・・・うん、なんかヤダ。
後片付けも終わり、私がエプロンをはずそうとしたその時。
「どうやら、来たようだ」
お姉さんはりりしい表情でそういった。
表に出てみると、家の周りをモンスターが取り囲んでいるようだった。
昨日までより、数が多い。
それに、なんだか異様な気配までする。
どうやらモンスター達はボス的なヤツを連れてきたようだ。
「キミの話から想像していたより、ずっと骨のある連中のようだな。
今までよく一人で追い返せていたものだ。
キミは見た目異常に戦士として優れているようだね」
「い、いえ、昨日まではもっと雑魚いのばっかりで・・・・・・」
説明し終わる前に、モンスターたちが襲い掛かってきた。
私もお姉さんも、一撃、多くても二撃で雑魚達を沈める実力がある。
しかし雑魚といっても、いかんせん数が多いし
何よりお姉さんがモンスターを豪快に真っ二つにするから、なるべく見ないようにはしてるけどどうしても見切れちゃうので、私は意識を保つのが難しい。
一刻も早くボスを見つけ出して倒す必要を強く感じる。
「もう! ボスはどこなの!?」
「まずいな、このままじゃこちらが先に消耗してしまう」
と、その時。
「ひょーっとして、白馬の王子様をお呼びかな?」
見たことのあるガラの悪い美少女が現れた。
「私達に必要なのは、腕の立つ戦士だ」
「はいはーい、どっちもオレ様のことだよなー。
雑魚は任せとけって!」
そう宣言すると、手にしたハンマーで雑魚どもを打ち払う。
どうやら彼は本当に、ヒーラーでも魔法少女でもなく、戦士だったようだ。
その惨状があまりにエグくて、吐きそうだったし
彼が、去ったフリをしつつお姉さんの後をつけてここまで来ていたということに
若干怖気がしたが、予定外のボス出現で戦力不足は否めなかったので助かった。
ということにしておこう。
雑魚に気を取られていなければ、ボスを見つけるのは難しいことではなく
いくらか剣を交わした後、ボスモンスターはお姉さんに討ち取られた。
「とったよ」
「首、見せてくれなくていいですから!!」
お礼を言う心の余裕はありませんでしたが、後でちゃんと言いました。
一応一緒に退治したので、報酬の金額を三等分し、少し家計が助かり
私の住む地区も、モンスターが入れなくする装置も、数字通知に設置してもらえるというので一安心・・・・・・かな。
「あー、腹減った!!
なんか食わせろ!」
ずうずうしい美少女がなんか言ってる。
「中央地区にたくさんお店があるんだから
そっちで食べれば?」
「なんだよ、ここも一応食堂だろ?」
「食堂は、やめることにしたの」
お姉さんが驚いた顔でこちらを見る。
どうしよう。
私がお姉さんの気遣いに気づいたってばれたかな?
「はあ? なんだよ
モンスター退治手伝ったんだから、ただ飯くわせろよ!」
うるさい。
「ひょっとして、味に自信がないとか?
食堂やりたいとかいっといて?」
うるさい、そうだよ。
「まー、誰でも最初は上手くいかねーもんだって。
美味いってほどじゃなくてもさ、人間が食べられるもんなら
そのうち上達するんじゃねーの?」
うるさい、いい加減なこというな。
「おい、いい加減にしろよ。
オレ様は腹がへって気が立ってんだ!
さっさと飯もってこい!」
うるさいうるさいうるさい!
ああ、なんてデリカシーのない美少女!
もうガマンできない!
「わかったわよ、そんなに食いたきゃ食わせてやるわ!」
バーンと机を叩いて厨房へ駆け込む。
この無駄な筋肉のせいで、机にへこみができたようだが、今は気にしてる余裕がない。
どうせならうんとまずいものを食わせてやる!
食材を刻みながら、思いつく限りの悪態を想像する。
いくらかは口に出てしまったかもしれない。
ともかく私の苛立ちは頂点に達していた。
そして、味付けをしようという頃には
落ち着きを取り戻し始めていた。
私が最後に人に振舞う料理が、本当にわざとまずく作ったものでいいの?
でも、自分の感性で美味しく作ったところで、まずいといわれるだけじゃない?
だったら最初からまずく作ったほうが、傷つかずにすむのでは・・・・・・?
でも、まずく作ったほうが美味しいと大喜びされたらどうしよう?
色々な考えが交差する。
結局、私は自分の思う美味しい料理を作った。
これでいい。
これでまずいとはっきり言われたなら、私もあきらめがつく。
お姉さんの気遣いが無駄になってしまうのは申し訳ないけど
でも私、そんな気遣い欲しくなかった。
まずいなら、まずいって、口に合わないって、はっきり言って欲しかった。
そうしたら私、きっと今よりずっと傷つくだろうけど。
「さあ、どうぞ召し上がれ!」
この美少女はきっと罵詈雑言をぶちまける。
そしたら私は遠慮なく、ぶん殴ってやるんだ。
よくも悪口を言ったな、少しは相手の気持ちを考えろ! って。
あれ?
気を使われたくないんじゃなかったっけ?
いや、そうじゃなくて、えーと、んーと・・・・・
ああ、もうわかんないよ!!
考えがまとまらなくて、頭をくしゃくしゃにする私の耳に
思いもよらないセリフが飛び込んできた。
「美味い! なにこれ、めっちゃ美味い!
こんな美味いもんはじめて食ったぜ!!」
「はあ? 何言ってんの?
あんた舌がおかしいんじゃない!?
お世辞のつもり?」
「なんでオレ様がお前に世辞をたれなきゃならねーんだ。
美味いもんを美味いって言って、何が悪い!」
「で、でもお姉さんは・・・・・・」
二人して、お姉さんに視線を移す。
「わ、私も美味しいといったはずだが?」
若干挙動不審気味に応えるお姉さん。
食事を頬張りながら、美少女が語るは衝撃というほどでもない真実。
「あー、この人はダメだぞ。
味がわからないからな」
「味・・・・・・音痴ってこと?」
「んー、そうじゃなくて、味を感じない・・・・・・んだっけ?」
説明しきれなくて、お姉さんに会話を振る食事のマナーが最悪な美少女の願いに応え、姉さんが語り始める。
「ああ、生まれつき、味ってものがわからないんだ。
何を食べても・・・・・・例えば、パンと石をなめてみても、食感が違うだけで同じ味に
感じるがキミたちはゼンゼン違う味を感じているんだろう?
パンは美味しくて、石は美味しくない。
でも、私には美味しいというものがわからないんだ。
だから、できるだけ他人と食事はしないようにしている」
「そんな・・・・・・どうして黙っていたんですか!
どうして無理して美味しいなんて!
最初から理由を言ってくれれば、無理に食事をすすめたりしなかったのに!
私、てっきり遠慮してるのだとばかり・・・・・・」
「すまない。
理由を話すと、治療方法を探そうと必死になってくれる人もいるから
それがちょっと面倒くさくて、適当に美味しいっていっておけば
お互いにWINWINかなーって」
うそついたの、私への気遣いじゃなかったし!!
知っておくべき事実と、あまり知りたくも無かったお姉さんの暗部にふれ、私は言葉にならない脱力感に襲われるのだった。
結論として、私は予定通り食堂を開くことにした。
例の美少女が意外にも広報上手だったのか、そこそこお客さんも来てくれる。
最初はどうなることかと思ったけど、希望通りの生活をおくっていると言っていい。
味のわからないお姉さんも毎日通ってくる。
栄養のバランスがよく、事情も知っているので遠慮が要らないという理由らしい。
それにしても、味がわからないというのはどういう気持ちなんだろう。
本人は、生まれたときから「美味しい」を知らないから、子供の頃には多少あこがれたものの今さら「美味しい」を知りたいとは思わない、なんて言っていたけど
本当の本当は、「美味しい」を知りたいんじゃないだろうか。
そう思うと、「治療法」を探したくてうずうずする。
本人が嫌がるから、気づかれないようこっそり探そう。
手始めに図書館通いかな。
「キミ・・・・・・料理の本の間に、味覚の本が挟まっているようだが?」
即効でバレて、ストーカー美少女がゲンコツをもらいました。
ありがとう美少女、今後も私の盾になってね。
おしまい。
異世界で食堂を開くのが夢だった話 ゆわか @yuwaka
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