おちこぼれ魔導士と絶対姫
@Homuhomutaii
第一章 絶対姫
第1話 邂逅
《序》
魔法、それは誰しもが一度は願うものだろう。
そしてそれは人々の空想の中のものだった……
しかし、それはもう過去のこと。
西暦2000年、この日ある意味でノストラダムスの大予言はあたったのだ。
世界は文字どうり変わった。
魔法が現実のものとなったのだ。
魔法の発現に伴い、日本では新たに魔法省が設立された。
さらに、魔法に関する犯罪の取り締まりのため、警察内では魔法局が、
司法では魔法犯罪専門家も必要となった。
そんななか世界中で誰もが憧れる職業が現れた。
そう、魔導士である。
各国は魔法の軍事的利用もかねて魔導士の育成にこぞって力をいれだした。
これはそんな世界に住む少年の物語。
いずれ世界の
――◇――◇――◇――◇――◇―
「みのる、起きろー!」
聞きなれた怒鳴り声とともに頭上から冷水が降ってきた。
「ひゃっ」
あまりの冷たさに久遠くおんみのるは跳ね起きた。
「年度初めの授業から寝るなんてありえないだろうが。まったく二年にもなって 情けない。
入学から一月でなんてざまだ。残りの授業は立って受けろ」
見ると教卓では半袖短パン姿、筋骨隆々な男が腕組しながらたっている。
魔法構成学担当の白沢だ。
水属性の魔法が得意なので、生徒からは水ゴリラとよばれている。
いましがたみのるを襲った冷水も、奴が魔法で生み出したものだ。
教室内に沸き起こる失笑。
みのるに向けられるのは嘲りと侮蔑の視線。
頭から冷水を浴びせられたみのるを気遣う言葉をかけるものなど誰もいない。
中にはみのるに同情する生徒もいるだろうが、そうすれば他の生徒から同類扱 いされかねないので表立って行動できないでいる。
ここは、国立魔法学園東京校。
2001年にできた日本初の魔導士養成学校だ。
そしてここでは魔法がすべてを決める。
まともに魔法を使えないみのるは学園カーストの最底辺に属する、いわば負け 組だった。
最底辺のFクラスの中で、さらに最底辺。
それがみのるの現状だった。
脱水の魔法をつかえなかったので、やむなくみのるはずぶ濡れのまま授業を受 けた。
それを見越して魔法を行使したのだから、水ゴリラは相当たちが悪い。
教師ならば、出来の悪い生徒には親身に接するべきであろうが、完全実力主義 のこの学校ではそんな生ぬるい偽善は通用しない。
幸いにも次の時間は昼休みのため着替える時間はある。
それまでの辛抱だ。
キーンコーンカーンコーン、チャイムが授業の終わりをつげる。
挨拶をすますとみのるは着替えの体操着を持ち教室を飛び出そうとした。
「みのる君、脱水の魔法かけようか?」
聞きなれた優し気な声だ。
負け組の自分にこうして声をかけてくれる人など一人しかいない。
振り返ると女性としてはやや背が高めの少女がたっていた。
背中の中程まである茶髪をツーサイドアップにしており、たれ目がいかにも優 しそうである。
幼馴染の
「小鳥、大丈夫だよ。自力ででなんとかするよ。」
「でも……」
小鳥の瞳を直視できなかったみのるは、言葉の最後まで聞かずに教室を走り出 た。
そのままスピードを落とさず廊下を走り抜け、必要時以外人のよらない実技棟 まで移動する。
本当は小鳥の優しさに甘えたいが、自分なんかに優しくしては小鳥が周りから軽蔑されてしまう。
みのるに話しかけるだけでもほかの生徒にとってはあり得ないことなのに、善意から魔法を掛けたなどとなっては小鳥の立場があやうくなってしまう。
それだけは避けたかった。
実技棟はエの字型の高等部校舎のうち北校舎西の端に位置している。
魔法実技の際の施設で、幾重もの頑丈なと魔法障壁により普段は入ることができない。
まして今日は全学年魔法実技がないので教師すらいない。
だが、みのるにとってはむしろ好都合だった。
「ディスペル」
みのるが一声発すると、人一人通れるぶん位の穴が障壁に開いた。
無論、光学迷彩もかかっているので並みの魔導士には見えないだろうが、幼いころから訓練を受けてきたみのるにとっては容易に見える。
みのるが通ったあとには再び障壁が構築された。
「はー、やっと一息つける」
月曜の実技棟はみのるの学園における唯一の休息所だ。
100m四方の広大な実技棟内部にみのるを攻撃するものなどだれもいないはずだった。
「あら、誰かと思えば落ちこぼれ君じゃない? 見たところ一人みたいだけど、 どうやって障壁をかいくぐったのかしら……」
凛とした鈴の音のような声が響きわたる。
見ると先客がいた。
腰まで届くぬばたまの黒髪をお嬢様結びにした、長身の少女が柱にみを持たれ かけてたっている。
切れ長の目は鋭利な刃物のごとく、そして瑠璃色の瞳は聡明さをたたえてい る。
彼女は二学年に在籍する、学園カーストのトップにして、生徒会副会長、別名 アブソリュート・プリンセス、
「それよりなんであんたのような殿上人がこんなとこにいるんだ?」
「自分のことは棚にあげて、人のことを聞きたがるなんて。まぁいいわ。
私も息抜きにきたのよ。今の学園では魔法力の強弱だけでその人の価値を決め る風潮が強まっているわ。確かに魔導士の強さはその人の魔法技能に依存する けれど、それだけがすべてではないでしょう? なのにそれだけがすべてだと 思うなんて間違っていると思うの。だからこの学校から始まり、この国をそし て世界の魔導士における格差を少しでも減らせたらなぁ、なんておもうんだ。
いけない、話しすぎちゃったわ。今のは忘れて頂戴」
雲の上の人、その形容が相応しい麗人。
だがその胸の内は魔導士の問題を解決するという難問を本気で取り組むよう な、そんな殊勝な人だった。
「俺は永遠の夢、いいとおもうな」
永遠は一瞬意外そうな顔をしたのち、顔を赤らめた。
「ふふっ……てっきり笑われると思ったけど、そういってもらえて嬉しいわ。
私生徒会の業務があるから行かなくちゃ。あなたとはまたすぐに会えそうなき がするの。またね。」
矢継ぎ早にまくしたてると、彼女は去っていった。
俺はまだ湿っていた服を着替え実技棟をあとにした。
この時の彼女の言葉がこんなにもはやく実現するとは予想すらできないみのるだった。
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