2-2 身を守るということ


 明日の朝には出発すると言うこと、商人がダルムという名前であること、そしてサラという女性とは夫婦なのだという話を聞いてから、双子は素泊まり用の街の一角にある宿屋に部屋をとった。先ほど食料店で買った固いハムと朝はやなが持たせてくれたパンを食べて、夕飯は済ませてある。

 りんじゅが部屋についているシャワーを使って出てくると、ベッドに座りながらこうやは荷物を広げていた。それははやなから受け取った、父親が残した武器であった。こうやは一緒に渡された説明書きを真面目な顔で読んでいる。

 こうやの持たされた武器はシンプルで装飾の無い黄色い片手銃だ。図形を組み合わせたかのごとき形をしており、その弾丸は木の実という不思議な銃である。木の実1つで1発では……無いらしいことは、それを収穫した際に確かめてあった。そのため、荷物に積んだ木の実の量は、通常銃を武器として旅をする者達よりも少なくすんでいる。

 濡れた頭をタオルでガシガシと拭きながら、りんじゅはこうやのすぐ隣りに腰かけた。


「何やってんだ?」

「うん……。いきなり実践になった時使えなかったら困るから、確認しておこうと思って」


 その返答に、確かにそうだとりんじゅは手を止めた。あのように啖呵を切っておきながら、なんの役にも立たずただの荷物になってはあの夫婦に申し訳がたたない。イオリアまで連れていってほしいのだと言った二人に、働き次第では報酬までくれると言ってくれたのだ。


 りんじゅは肩にタオルをかけたまま、自分の荷物を漁った。すぐに目的の物を見つけて、元の位置に戻ってくる。りんじゅが手にしたのは、己の武器として受け取った片手程度の大きさをした小さな筒だった。

 それを手に持って、少し意識を集中させる。握ったまま筒の下方にある赤いボタンを押すと、次の瞬間りんじゅの手の中には彼の腕と同じ長さ程の片手剣が現れた。それを少し縦に、横に振ってみる。それはズシリとした重みがあった。

 りんじゅの持たされた武器は説明書きによると、頭の中で思い浮かべた物へ形状変化をする筒だ。それを読んだだけではにわかに信じがたいが、家を出てからもう何度も二人はこの変化を目の当たりにしていた。現に今もりんじゅの手の中には剣が存在している。


「本当に面白いよね、それ。どういう仕組みなんだろう。ペイシアさんの言ってる、精霊技術ってやつかな」

「さあなー。でも、ちゃんと知ってる物じゃないとしっかり機能してくれないみたいだ。剣とか槍は父さんのコレクションにあったから知ってるけど、……ほら」


 そう言ってりんじゅが作ったのは鎚だった。トンカチを大きくしたようなものだが、それは振り回してみるとすぐに形が崩れてしまう。対象物を具体的に想像できなければ、武器としては使えそうに無いらしい。白いボタンを押してもとの小さな筒に戻す。目の前に掲げてみた薄黄色いそれに、なんだか胸が高揚した。


「これから相棒になるんだ、もっとちゃんと使えるようにならないとな」


 はじめての魔物への対策や明日以降の事、各々の武器の事。話すネタがつきぬまま、二人は日付を跨ぐまで話をしていた。







 港町の朝は早い。

 海に朝日が反射し、辺りが少しずつ明るくなり始めている有明の頃。すでに出発している漁船以外の船が少しずつ準備を始め、静まり返っていた街に音が少しずつ戻ってくる。

 りんじゅとこうやが宿屋から出てきたのも、丁度その頃だ。少し夜更かしをしてしまった二人はまだ眠い目を擦り、あくびを噛み殺して体を伸ばした。聞こえ始めた海鳥の鳴く声と、澄み渡った港の空気が爽やかで心地よい。

 旅荷物を詰めたリュックに加え、りんじゅは長い袋を担いでいた。朝ご飯にとっておいた最後のパンを腹にいれながら、待ち合わせの場所へと向かう。

 昨日好意で双子を雇ってくれた夫婦は街の入り口に馬車を用意して待っていた。荷物を積み込んでいるところだったようで、二人に気づいて「おはよう」と挨拶をしてくれる。それへ返してから双子は荷造りを手伝った。

 夫婦が使用している馬車は二匹の馬に引かれたもので、四角い箱を布の屋根で覆った様な形をしていた。前も後ろも空いているので、後方からの敵にも備えることができる仕組みだ。護衛として雇われている双子はそこに位置した。


 ゆっくりと動き出した馬は、街から遠ざかる程に早さをを増していく。この分なら夕方には着くだろうと、手綱を握りながらダルムは言った。

 しばらくのんびりとした平原が広がり、やがて視界はただっ広い大地と空しか見えなくなる。しばらく進んでから小さな川を渡り、昼頃には一度休憩をとった。

 今日一番働いている馬たちの背を撫でていると、サラが軽食とお茶を四人分用意してくれる。芋と挽き肉を味噌で和えたものと、一口大に切り分けられたいくつかの果物、そして握り飯だった。昨晩宿屋の台所を借りて作ったらしい。昼食はとても美味しく、それらはきれいに食べ尽くされてしまう。元気に食事をする二人を見ながらサラは「美味しそうに食べてくれて嬉しいわ」と笑った。

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