通った愛
「…遥くん…遥くん?…」
夢の中で雅樹が俺に声をかけている。
俺はふわふわのベッドでウトウトしていたみたいだ。
俺は夢の中では素直になる。
「雅樹…好きだ。」
俺が笑うと、雅樹も笑ってくれる。
なんて素敵な夢なのだろう。
…なのに、俺はすぐに目を覚ますことになる。
「…ン?ッ!?!?」
目を閉じながらも、唇に柔らかい感触がある…しかもなかなか無くならない…?
「あ、起きた。遥くん…具合大丈夫?」
「お前がこんな痴漢行為しなければ元気だ。」
「ひど、まぁ遥くんらしい…フフ。」
でも少しだけ…本当にすこーしだけ、ココにいるのが雅樹でよかった…と思う。
俺のことを”遥くん”と呼ぶその声も、今となればすべて合点がいく。
「…本人だったんだな。」
「ん?何?」
横たわる俺に気を使ってか、雅樹はベッドの横で静かに声を発している。
その静かな声が、過去の心を思い出させる。
「俺は…ずっと同じやつを思っていたんだな。」
俺はそういった直後にハッとして、雅樹に背中を向けた。
こんな事、本人に言うバカいないッ!!
「クスッ…。」
ほらな、やっぱり笑われた…。
「遥くん、こっち向いて?」
「…やだ。」
チュッ
「ッ!?」
壁の方を向いたままの俺の首に、雅樹の唇が降ってきた。
「な、何してッ「可愛いから、つい。」はぁあ!?」
「あまり俺を煽らない方がいいよ?遥くん…。」
反射的に方だけで振り向いていた俺の腕を雅樹がつかんだ。
いつもの抵抗できる力なんかじゃない・・・。
俺が抵抗しないと決めつけているみたい…。
「は、離せ…やだってば。…雅、樹ッ!」
「チッ、はぁ…。」
今日の雅樹はいつもよりずっと考えが読み取れない…。
急に積極的になったり…、かと思えばこうやって舌打ちしたり…。
俺…そんなに悪いことしてる…?
「ねぇ、それってどっちの雅樹に言ってんの?」
雅樹はじっと俺の目を見つめて口だけで笑った。
その声は低く凄んで…
まるで俺を逃がす気がないって体に刻みつけようとしてるみたいに。
言葉は俺の心を深くかきむしって真意を見透かそうとする。
「質問が難しかったかな。遥くんの目に今映るのは、”中田雅樹”?それとも、”坂井雅樹”?」
雅樹は絶対に俺に選ばせようとしてるみたいだ。
…雅樹は俺にどうこたえてほしい?
なんて聞いたらずるい奴だよな…。
分かってるけど…俺は…
「まだ答えないんだ…。へぇ…。」
雅樹は低い声のまま俺の襟に触れた。
かと思うとその指はゆっくり下に降りて、俺の胸のあたりで止まった。
「遥くんの心にいるのは、どっちの俺でもないって解釈でいいのかな…?」
「は…?」
俺のやっと出した声に、雅樹はにやりとしていた口角をすっと下げて俺の目をじっと捕らえた。
「そうでしょ?答えられないってことはどっちもあんたの心に居ないってことなんでしょ?」
雅樹から出た”あんた”って言葉が俺をまた引き裂こうとする…。
「違うッ!!「だったら言ってよ。あんたはどっちが好きなんだよ!!」」
雅樹の切り返しにヒュッと喉が悲鳴を上げた。
・・・なんで・・・?
「なんで分かんないんだよ…。」
「…え?」
「俺はッ、”雅樹が好き”って言ってんじゃん…。」
「ッだからぁ、遥くんはどっち「どっちとかないの!!」」
気持ちに気が付いた…。
必死に悩んでうまくいかなくて、ボロボロになっても、俺は…。
「雅樹は雅樹なんだ。…どっちとかない。」
「…遥くん?」
「だって当たり前だろ?違うところなんか雅樹が作ったもう一人だろ?そりゃ…、似たとこあって当たり前だ。好きになるのなんか当たり前だ…。
”お前はずっと俺の好きな雅樹だったんだ”。
だから選べない。」
俺は息継ぎも忘れて吐き出した。
頭なんか使う暇もないくらい。
なのに、雅樹は固まったきりピクリとも動こうとしない。
「何か言ったらどうなんだよ…。俺だけ喋って寒い奴じゃん。」
雅樹は俺の一言でやっと一つ瞬きをした。
「それ…何も考えないで言ったの?」
「はぁ?考えてるように見えてたっていうのかよ!!」
…変なこと聞くなよ…。
「じゃ、それが遥くんの本音なんだね?」
「…あぁ、…ッ!?」
俺の体は急に傾いて背中にベッドが叩きついてきた。
…いや、俺が叩きつけられたのか…?
でも、なんで・・・?
「遥くんって…なんでそういうことするのかな…?」
雅樹は俺の上にまたがりながら目を伏せていた。
「…ッ何が?」
「俺にそんなに襲われたいの?」
「はぁあ!!??ば、っかじゃねぇのお前。「バカは遥くんだよ。」はぁ?…なッ!!?」
俺が雅樹の体を押すと、押していた俺の手は雅樹につかまれて一つに束ねられてしまった。
「な…にしてッ!?…ヒャッ」
さすがに身の危険を感じて、俺は必死に自分の手首をとろうと束ねる雅樹の手に体を近づけたんだけど…。
「遥くん、おでこ舐めただけで可愛い声出さないでよ。」
「ッッッ…!!!!」
こ~の~や~ろ~ッッッッッ!!!!
「ふざけてるだろ、お前。」
「本気だけど。」
さっきから雅樹の顔色が変わら無すぎて怖い…ッ
「どっちかの俺っていったら許してあげようと思ったのに、両方って答えちゃうから~。」
え、それがいけなかったの!?
「おれ、ずっと遥くんに触れないように我慢してたの分かってるんだよねぇ?」
…そういえばッ、雅樹は自分からふれてきてもキスとかそういうのだけでそれ以上の関係を求めたりしなかった。
「っけど!それはッ「遥くんの本音なんでしょ?」…うん。」
「じゃ、俺も口で言わないと伝わらないと思うんだけど、聞いてくれるよね?」
「…。」
雅樹はにやっと顔を歪ませた。
「何も言われないでこういうの嫌でしょ?」
「…まぁ…そりゃ…。」
雅樹はフフッと笑うと、俺の耳に顔を近づけた。
「俺は、遥くんがずっと前から好きだよ。けど、ひとつだけ高校の時と違う感情があるんだ。」
・・・え?
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