真偽

「…え?本当ですか?」

坂井は怪訝そうに顔を覗いた。


「お前に嘘をついてどうする。俺なりにお前の気持ちを受け入れた、それだけだよ。」

「…そうですか…。ありがとうございます!!」


…相変わらずのデカイ声で少し笑えた。



コイツは…付き合うって意味、ちゃんとわかってんのか?


…知らないふりをして少し揺すってみるか。

「…でも、付き合うって…何したらいいんだよ。」


俺の質問に坂井はニヤリと口だけで笑った。

…嫌な予感…。


「それは…1つしかないですよね?」

坂井は一歩俺に近づいた。


俺は慌てて一歩離れる…。


坂井がまた近づく…俺が離れる、近づく離れる、近づく、離れッ…


トンッ…。


無情にも、俺の背に壁が邪魔をする…横に除けようとしたけど、既に坂井は長いリーチで追いついて、腕で行く手を塞いでしまった。



「先ぱぁい…、どうして逃げようとするんですぅ?」

「べ、別に逃げてねぇし…。」


「フフッ、じゃ…」

坂井は俺の顎をクイッと指で上げた。坂井は雅樹とあまりに同じ顔で、すぐに目をそらした。


「遥先輩、ちゃんと 俺 のこと見て?」

坂井の一人称が変わるだけで、喉の奥がヒュッと音を立てる。


「…やだ。」

…。


「はぁ、しょうがないですね。」

坂井は小さくつぶやいた。


その直後に、唇に温かいものが当たった。…それが坂井の唇だとわかるのはすぐだった。


「ッな、何すんだよ!!」


…キス魔め…。俺は坂井を睨みつけた。


でも、改めてじっくり見たせいで、雅樹と同じ顔だと思い知らされて、俺の心臓は大きく加速していった。


「先輩、まつ毛長いですね。」

「…あ゛?」


「綺麗です。」

「」


そんな事、言われても嬉しくない………。嬉しくないハズなのに、顔が熱い。



「そろそろ、みんな来ますね。ではまた後で、"遥さん"。」

「…。」

やっぱり、坂井といると調子狂う……。


どうやら坂井の感覚はあながち間違いではなかったみたいだ。


10分位経ったら、波のように社員が押し寄せてきた。

坂井は端から挨拶して回っていた。


アイツ…世渡り上手いな、うん、絶対に!!!!

…ち、違うし、さっきはドキドキとかしてなかったし!!

負け犬の遠吠えとかいうなし、べ、別に悔しいわけじゃないし!!

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