休日

「ところで、俺が二日酔になるってなんでわかったんだ?」


「え?だって、あれだけ飲んだんですよ!ならないわけが無いですよ。」


うぐっ……


『今日が土曜日でよかったですね。』と言うと、坂井は部屋を出ていった。



そうか、今日、土曜日だったか。




安心したら、また眠気が襲ってきた……。

俺はゆっくり意識を手放した。


・・・・・・・・・



~坂井雅樹ver.~

俺が朝飯を作って、部屋をのぞくと、先輩は眠りについていた。


その優しい寝顔に、思わずクスッと笑ってしまう。


「……き……。」


俺は、寝言が気になって、少しだけ近づいた。


「……ま……さき……、雅樹……。」


フッ、まだ忘れてなかったのか。


先輩の目からは、静かに涙が流れた。

その涙を指で拭うと、くすぐったかったのか、フルフルッと身じろいだ。




泣くくらいなら……昨日のうちにすべての記憶を飛ばしてしまえばいいのに。





……。







フフッ……。







相変わらず、馬鹿だね。





先輩……いや、西島 遥くん。




やっと手が届くんだ。


ゆっくりその糸を手繰ってあげる。



・・・・・・・・・



「……ぱい……せ~んぱい……。」


「……んあ?」


ふにふに……


「お前なに人のほっぺ押してんだよ。」


「え?だって先輩泣いてたから。」


え、泣いてた?

目をこすると、袖に涙のあとがついた。



俺、夢見ながら泣いてたのか……。

それをコイツに見られたのか……情けない。



「……ご飯できてるので食べましょう。」




「あ、あぁ。」


キッチンに出ると、サラダと目玉焼きと、わかめスープが準備されていた。


「こんなに豪華なの……いいのか?」


「そんな、滅相もない。ハハハ……ほら、僕お腹減りましたよ。食べましょ食べましょ!!」


犬かこいつ……。

でも、確かに相当腹が減ったしな。

「「いただきます。」」



坂井の飯は、案外美味くて、ペロリと完食した。


「はは、先輩よっぽど減ってたんですね~。

「まぁな。じゃなきゃこんなに食えねぇよ。」


我ながら減らず口だけど、このくらい言わないと、ダメな気がした。

だって、後輩の飯褒めたら……なんか気を許したって思われそうだし。


「あ、そうだ。明日、良かったら出かけませんか?」


は?


「なんで?」


「僕、ここに来たばっかりで慣れてないんです。案内してくださいよぉ!!!!」



あれ……急に押されてるんですけど……。


「や、ヤダっていったら?」


「……二日酔いして、狼になったって三田さんに言います。」



「み、三田さん……だと?」


三田さんは会社のお局様で、会社の裏事情は全て知り尽くしている、噂ずきのおばさんだ。


そんな人にそんなこと知られたら……嘘でも嘘にならない!!


「わ、わかった……明日、明日な!!」


「やった☆」


☆じゃねえよ、コイツ。





次の日、俺は坂井を連れて、買い物に出かけた。


クソッ……せっかくの俺の日曜日が……。


まぁ、ブログ更新最近出来てなかったから、久しぶりに写真でも撮るか……。


元はといえば、後輩の仕事手伝ってるから、毎回帰りが遅くなるんだけどな!!!!!!




途中の公園のベンチを見つけた俺は、「便所!!」とだけ言って、坂井に座ってるように促した。


坂井はきょとんとした顔のまま俺に従った。



ふぅ、やっとまともに写真が撮れる。

俺は、散り始めの桜並木に目をやった。


こんなに豪華に咲くんだな……。

俺は思わず、ケータイを向けた。


パシャッ


ん?

俺はまだピントを合わしてる最中だったんだけど。


しかも俺の右の方からその音は聞こえた。



俺が向くと、そこには……




「……さ、坂井!?」


「エヘヘ、撮っちゃいました。」


……舌出してヘラヘラ照れ笑いしてんじゃねえっつの!!


「おまっ、それ絶対消せよ!!!!!!」


「やーです☆」


コイツッ!!


「やーです☆じゃねぇんだよ!ほら、消さねえなら早く渡せ!!」


俺が坂井の携帯を取ろうとした…が失敗…こいつの高い背のせいで、上げられた手は俺の頭上天高く届きそうもない…。


「早く渡せ……っての!!」


仕方なく、坂井の伸ばした手に思いっきりジャンプをした。



すると……ッ!!


「おっと……」


二人してバランスを崩して倒れ込んでしまった。


痛……くない?


俺の下には、坂井がいた。

……ニヤニヤして。


「フフッ、先輩のエッチぃ~。」


「なっ、そ、そんなんじゃねぇよ……。す、すぐにどくから……。」


俺は体を起こした……のに、坂井に両手首を掴まれて、倒されてしまった。



「ちょっ、離せって……」


「嫌です。」


「お前いい加減に……ッ!!」


俺が顔だけ上げて抗議すると、手首を掴む力が少し強くなった。


「それはこっちのセリフですよ。」


「……は?」


「僕、嘘つかれるなんて思いもしませんでしたよ。僕はトイレに行くからってベンチに座ってたのに、やけに遅かったんで見に来たら……はぁ。……写真撮ってるし。」


「別にッ、嘘ついたつもりは……」

「無くても俺はやだったんです!!…俺、怒ると怖いんですよ?」


そう言いながら、俺の手首はギリギリと音を立てて締まり始めた。


「……ッ、は、離せったら。」


パッ


坂井の手は案外簡単に離された。



「桜なら、もっといいところありますよ?」


「は?お前買い物するんじゃ……」


「気が変わったんです。行きましょ、遥さん。」



ドキッ


……急に名前で呼ぶなんて……そういうのは女にやれよ……ったく……。










ところで、アイツ……ここら辺わからないから案内しろっていってなかったっけ…?



「着きましたよ!!」


「……おぉ。」


俺は無意識に声を出した。


こんなにきれいなところあったのか……。


「ここなら写真よく取れると思いますよ~。」


坂井はまさにドヤ顔で、ちょっとムカついたけど、こんなに綺麗なところ教えてもらったんだし……お礼は言わなきゃな。













「あ、ありがとな…。」


俺は顔も見れずにうつむいてこう告げた。


「フフッ、本当に感謝してます?」


「はぁ?お前、俺がお礼言っ……」


俺が顔を上げると、坂井は俺の顎に指を添えた。


「じゃ……ギブアンドテイク……ですよねぇ。」


ゾクッ


コイツ、こんなに怖かったっけ?



「な、何すればいいんだよ。」


坂井は俺の問いに優しく微笑んだ。


「僕と写真撮りましょッ♪」


「……ッ!!」


はぁあ?


「嫌とは言えないですよね?僕、酔い潰れた先輩を運んで、次の日も二日酔いの先輩の面倒を一生懸命……」


「あ゛~!!!!わかったよ、撮るよ。」


「フフッ、そう言ってくれると思ってました。」




なんだ、この敗北感は!

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