第5話 美味しさの秘密

猫神さまの世界 第5話




ロベリアさんを連れ立って『ホテル亭』に入ると、さっそくフィリアさんが声をかけてくれる。

主にロベリアさんへだけど……。


「あらロベリア、今日はうちに泊まるの?」


「あ、違うんですフィリアさん。

今日のお礼に僕がロベリアさんを、夕食に誘ったんです」


「あらあらまあまあ」


フィリアさんは、すごい笑顔でロベリアさんに視線を向ける。

その視線にロベリアさんは、頬を赤くしながら顔をそむけてしまう。

そんなロベリアさんの表情に満足したのか、フィリアさんは食堂に案内してくれた。



ここホテル亭の食堂は、一般には解放されていない。

何でも先代があまりにも美味しい料理ばかりを出すので、宿に泊まった客が食堂で食事がとれないほど料理目当ての客が来たため止めたのだとか。


そのため、この宿は常に泊り客がいる状態だったそうだ。

ただ、先代が亡くなってからはそんなに泊り客がいるわけではないようだ。


多分、美味しい料理が出せなくなるのでは?という不安からなのだろう。

だけど、先代の残したレシピが伝わっているらしく料理は問題ないとフィリアさんは説明してくれた。



「ロベリアさんの推薦のこの宿の料理、楽しみです」


「うん、期待していいよ。

ここの料理は先代が考えたものだけど、本当に美味しいからね」


食堂の席に座り、向かい合わせのロベリアさんと雑談をしているとお待ちかねの料理が運ばれてきた。

僕の目の前のテーブルに並べられる料理。


美味しそうな匂いに、僕のお腹が鳴る。

は、恥ずかしい……。


僕のお腹の音を聞かれたのか、ロベリアさんと料理を運んできた女性に少し笑われてしまった……。


「コテツ君、こちらの女性がフィリアの妹のティナよ。

ティナ、こっちの可愛いお腹の音を聞かせてくれたのがコテツ君」


ロベリアさん、なんて紹介のしかたを……。


「初めましてコテツ君、うちの宿を利用してくれてありがとう」


「いえ……」


「フフフ、恥ずかしがっている顔もかわいいわね~」


「コホン、そんなことより今日の料理を説明して?」


「そうね、今日は『ホーブボア』のいいのが手に入ったから先代のレシピの1つ『とんかつ』を作ってみたの。

つけ合わせは、キャベリの千切りとトルマを切ったもの。


シンプルでいいでしょ?


もう1つは『レッグ』の卵を焼いて、うちの自慢の『デミグラスソース』をかけた料理よ。

先代のソースに近づけている義兄のソースを味わってほしいわね」


「それは楽しみね」


とんかつ?ということは、先代って日本人だったのかな?

それに、この白いものはお米か?

……どうやらこの世界の料理はいろんな異世界人たちが開拓しているようだ。


この世界の食材を使って料理をしているんだから、味も楽しみだ。



「美味しい~、やっぱりここの料理は違うわ!」


「すごく美味しいです!」


「ほんと? そう言ってもらえると嬉しいな~」


いや、本当に美味しい。


まずこのとんかつがすごい!

ロベリアさんから聞いた『ホーブボア』って魔物なんだとか。

だけど、魔物の肉がこんなにも美味しいとは。


日本で、よく食べたとんかつの何倍もおいしく感じる。

油の甘みもさることながら、肉の旨味も分かるくらいジューシーだ。

それにご飯がよく合う、お替りをしてしまいました。


『レッグ』も魔物みたいだけど、その卵を焼いたものって見た目オムレツだ。

それに『デミグラスソース』がかけられている。

一口食べてみたが、濃厚な味だ。

すごく美味しい!


特にこの『デミグラスソース』が絶品だ!

日本でこの味を出せるシェフなんて、数えるほどしかいないだろう。

地球の料理が、この異世界でこんなに美味しい料理になっているなんて思いもよらなかった……。




美味しい料理をロベリアさんと食べながら、今後のことを話してみる。

ロベリアさんはいいお姉さんだな、僕の話を聞いてアドバイスをしてくれた。


「ふ~、美味しかった~」


「今日はありがとうね、コテツ君。夕食に誘ってくれて」


「いえ、この宿を紹介してくれたロベリアさんにこそ感謝ですよ」


お互いに感謝をして笑顔になったところに、ティナさんがデザートを持ってきてくれた。


「はい、食後のデザートをどうぞ~」


僕とロベリアさんの前に、皿にのったデザートが置かれる。

え、これってもしかして……。



「あら、このデザートは見たことないわね。

ティナ、これって新作?」


「そうよ、先代のレシピに載っていたものだけど、義兄がアレンジしたものなの。

ぜひ食べてみて」


「先代のレシピをアレンジね~、へぇ~」


うん、これって間違いなくフルーツゼリーだ。

中に果肉が入っているみたいだし、ただ色が透明なんだよね。

地球のゼリーじゃなくて、この世界のゼリーと見て間違いないだろう。


ということは、使われているフルーツはこの世界のもの。

とにかく、一口食べてみる……。



「ん、美味しい~!」


「ほんと、甘いのにさっぱりとしている! 私、これ好きだわ」


「フフ、好評のようでなによりね」


僕とロベリアさんは、デザートが美味しくてすぐに食べ終えてしまった。

この味は、地球では味わったことなかったな……。


「ねえ、これって何のフルーツを使ったの?」


「『アブアボ』を使ったのよ」


「ちょっと! アブアボってダンジョン産のフルーツじゃない! 採算採れるの?」


アブアボ? ダンジョンさん? 採算?


「あのロベリアさん、ダンジョン産のフルーツって何ですか?」


「そういえば、コテツ君は冒険者になったばかりなんだよね?」

「それじゃあ、知らないわよね」


ロベリアさんとティナさんが、しょうがないわねって顔で僕を見ている。


「まず、ダンジョンはわかるわよね?

この辺りにもいくつかダンジョンが存在しているんだけど、そのダンジョンの中で食糧がとれることがあるのよ。


主にフルーツが多いのだけど、その中でも特に美味しいフルーツの1つが『アブアボの実』なの。

この実は、アブアボの木に生っているんだけどなかなか取れないのよ」


「ダンジョンの魔物も、アブアボが美味しいって分かっているからね」


なるほど、ダンジョンに潜って探しに行っても、魔物に食べられて収穫できないってことか。

すごく美味しいフルーツなんだな……。


「でも、そんなアブアボの実を使ったってことは……」


「そう、コテツ君わかる? 私もそこを心配していたのよ」


僕とロベリアさんが、心配そうに見るがティナさんは笑顔のままだ。


「心配しなくても大丈夫よ、さっきのデザートに使ったのはアブアボであってアブアボじゃないから」


「……どういうこと?」


アブアボであってアブアボじゃない?

どういうことだろう、ロベリアさんと同じく全く分からない……。


「フフフ、さっきのデザートのアブアボはね、ある村で育てたアブアボなのよ」


……それってつまり。


「ダンジョン産ではなく、人の手で育てた物ってことなの?!」


なるほど、養殖物ってことになるのか。


「嘘でしょ? ダンジョンでしか育たない『アブアボの木』がダンジョン以外で育つなんて……」


「先代は、ダンジョン産の食材の高さに怒っていたのよね。

もっと安くならないか考えていた。

そして、ダンジョン以外で育てられないかという答えになったのよ」


「でもダンジョン産の食材って……」


「ええ、ロベリアの考えている通り、これまで何人もの人が試行錯誤してダメだった。

でもね、先代はあきらめなかったの。

そして、ダンジョン産の食材がどうやって育っているかの答えを導きだした」


「そ、それは?」


ロベリアさんが、身を乗り出して答えを聞きたがっている。

それに対して、ティナさんはためにためているな~。


「それは『魔素』だったの」


「「魔素?」」


おっと、はもってしまった……。








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