第14話 真実
岩の壁で囲まれた地下深くへ続く長い階段を下りている間、ルカの左右をアルベドとミキが寄り添ってくれた。そのすぐ背後にはライルが付き、3人を見守りながら階段を下っていく。その心遣いがルカは頼もしくあり、嬉しくもあった。
やがて階段が終わり、短い直線通路をくぐって地下一階に到着した。アインズとルカ達は目の前の光景を見てその場に立ち尽くしていた。
そこはさながら、地下の大神殿といった様相を呈していた。正面には幅20メートル程の広い参道があり、天井を見上げると優に50メートルはある高さだ。その左右両側には、完全なシンメトリーで整然と並んだ巨大な石柱が、神殿の天井と床を支えて等間隔で無数に並んでいる。石柱の隙間から左右を覗くと、最奥部が見えないほど遠くまで伸びており、一体どれほどの広さを持つのか計り知れないほど広大な地下空間を形成している事が把握できた。よく見ると、床と天井・石柱自体が弱い青色の燐光を発しており、それが神殿内部を照らして荘厳さを醸し出していた。
唯一方向感覚を持てる中央の参道も、その先が見えないほど遠くまで続いている。
「ミキ、ライル、間隔を取り
「「了解」」
「アインズ、私達の後をついてきてね」
「分かった。...それにしてもこのダンジョンは広そうだな。ユグドラシルでもこの規模のものはそうそうお目にかかれるものではないぞ」
「確かにね。それだけに何が起こるか分からないから、慎重に進んでいこう」
「了解した」
そこからしばらく参道沿いに奥へと進んだが、敵が現れる気配は一向になく、道の先も変わらず奥へと伸びている。まるで無限回廊にでもいるかのような錯覚にアインズが陥っていた時、先頭を歩いていたルカがふと足を止めた。
その場で腕を組み、参道の先を見て何かを考え込んでいる。しかしやがて腕を解くと、アインズ達の方へ振り返り口を開いた。
「アインズ、ここからチームの編成を少し変えて二手に分かれようと思うんだけど」
「二手に分かれる?あまり得策とも思えんが...」
「幸い敵も居ないようだし、この神殿の左右がどうなっているかを確認したいんだけど、だめかな?」
「...ふむ、確かにな。このまま中央ばかり進んでいては埒が明かなそうではある、了解した。それでチームの編成はどうするのだ?」
「ミキとライルをそっちに移すから、アウラとシャルティアをもらってもいい?」
「うむ。何か理由があるのか?」
「アインズの方には
「なるほどな、承知した。ではシャルティア、アウラよ、ルカのチームに加われ」
「はい、アインズ様!」
「承知しました、アインズ様」
「ミキ、ライル、アインズチームの護衛よろしくね」
「「ハッ」」
アウラはルカに笑顔で駆け寄り、飛び込むようにして左腕に絡みついてきた。その後ろから真紅の鎧をまとったシャルティアが静かについてくる。
「では私達は東を見てこよう。ルカは西だ」
「了解。何か見つけたら
「お前もな」
2チームは左右に分かれて石柱の間を前進していった。
アウラはルカと手を繋いで鼻歌を歌い、嬉しそうにスキップしながら歩いていた。
「ルカ様!あたしも超位魔法撃てるようになったんですよ、知ってました?」
「ああ、アインズから聞いてるよ。ビーストロードを極めたんだよね?」
「そうなんですよ!!そりゃあまあマーレに比べれば大したことはないかもしれないですけど....あ~でももっと撃ってみたいなー。敵出てこないかな~」
「こらこら、そんな物騒な事言っちゃだめよ? それに、その背中に背負った山河社稷図もあるんだから。それで大抵のモンスターは相手にできるんだし、アウラは
「そりゃーまあそうなんですけどねー。でもあたしもやっぱりルカ様みたいにドカーンとやってみたいなー」
「フフ、そうだね。でもアウラ、君の力は緊急用のものだからね」
「緊急用?あたしの魔法が?」
「そう。例えば私やアインズの超位魔法使用回数とMPが尽きてしまい、もうどうしようもなくなった時に、アウラの超位魔法が役に立つんだよ」
「そ、それってつまり、あたしの魔法が最終兵器って事ですか?!」
「ああ、その通り。だからむやみやたらに撃ちまくったりしちゃだめよ?」
「...わかりました~ルカ様。フフ、ちょっと今のちゃんと聞いてたシャルティア?!あたしの魔法は最終兵器で超強力なのよ」
「...フン、
「へへーん、いざその時になって泣いたりしても知らないよー」
「あんですってえ?!」
ルカを挟んでケンカを始めてしまった二人を、後ろで見ていたアルベドが諫めた。
「二人とも、いい加減になさい。ルカも困っているではありませんか」
「....はぁ~?あんた、ルカ様を呼び捨てにしちゃったりして、
「なん...ですって? こっのヤツメウナギ!!」
「大口ゴリラ!!」
「...では見せてあげましょうか?今この場で、私の
「....上等だボケぇ、
その瞬間、2人の体に巨大なドギついオーラが立ち昇った。ルカはそれを見ながら冷めた目線を送る。
それを最後方で眺めていたイグニスとユーゴがルカに近寄り、耳打ちした。
「そ、その何というか、いつもよりも賑やかですねルカさん」
「まあ俺は、美女に囲まれてこういうのも悪くないって感じですけどねぇルカ姉?」
しかしそれを聞いていたアルベドとシャルティアが怒号を飛ばした。
「黙れ人間!!...捻りつぶすぞ」
「おい人間、ちょいとレベルが高いからって調子に乗るなよ雑魚が....ルカ様からの言いつけさえなければ、お前らなんぞ今すぐ即刻灰にしてやるとこだ!!」
「ひいっす、すいません!!」
「ぐほぉ~、シャル姉おっかねえ.....!」
イグニスとユーゴはルカの背中に隠れてしまった。
ルカはそれを受けて苦笑しながら頬を掻いた。
「あーアウラその、悪い、何とかして....」
「んもぅ~、しょうがないな。ほらアルベド、シャルティア、そろそろ終わりにするよ!」
「フゥ~....フー....」
「.....ふしゅーーー......アルベド、この続きは後日ゆっくり.....」
「いいわ。いずれ白黒はっきりさせましょう」
「二人共、私から見ても同じくらいの力を持ってるんだから、同種族になったんだしもっと仲良くしないと。ね?」
「べ、別に本気でケンカしてるわけじゃありんせん」
「そ、そうです、これはいつもの事。気にするほどの事ではありません」
「そうなの?...う、うんまあいいや、終わったなら先に進もっか、ね?」
ルカは彼女達階層守護者をまとめているアインズの気苦労を思い知らされたのだった。
そこから20分ほど歩くと、正面に何かの入口と壁らしきものが見えてきた。手前から入口の奥を覗くと小さな小部屋となっており、その中心に一つ宝箱が置かれている。
「ルカ様、これって....」
「うん、トラップだよ。危ないからもう少し下がってアウラ、みんなも近づかないでね」
『
『ああ、こちらも同様の部屋を見つけた。今ミキとライルに探りを入れてもらっている。突き当りの壁面沿いにいくつかまだ部屋があるようだ』
『アインズ、一つ思い当たる事があるんだ。そのまま部屋には入らず、中央の参道まで戻ってきてもらえる?』
『宝箱の回収は行わなくても良いのか?』
『ああ、恐らくだがどうせ大したものは入っていない。トラップが発動して現れるモンスターと戦う方がリスキーだ。それに、
『! どういう事だ?』
『詳しくは会ってから説明するよ。今は
『分かった。こちらもミキとライルを引き揚げさせる』
『よろしくね』
ルカ達は今来た道を戻り参道でアインズ達と合流した後、ミキとライルをこちらのチームに加え直して、編成を変えたメンバーを元に戻した。
「それでルカ、ここに来たことがあるというのはどういう意味だ?」
「ああ。前にナザリック第九階層で話した時、ユグドラシル
「うむ、確かアルカディアとオブリビオンに、
「そう、その
「...なるほど、それで東西を確認させた訳か。しかしそれが本当なら、ここの探索が大分楽になるな」
「そうだね、
ルカの案内により、あれだけ広いと感じた地下神殿をあっさりと乗り越え、地下2階への入口まで辿り着いた。しかしアインズはその入口を見て唖然としていた。
「...このひょっとすると見逃してしまいそうな小さい洞穴が、正解ルートなのか?」
「フフ、そうだよ。あれだけ神殿押しで来たのにこれだから、なかなかに意地悪だよね」
「と言うより、極悪だぞこれは。なるほどな....時代は変わっても、ユグドラシルの運営方針は一緒という訳だな」
「基本全てがノーヒントだからね」
「このダンジョンをお前が記憶していたことは、むしろ私達にとって幸運だったのかもな」
「そうだね。
「了解した」
ルカ達はそこから、地下2階の水晶宮・地下3階の火炎宮・地下4階の氷雪宮を順調にクリアし、ついに最下層の地下5階・虚空宮へと到達した。壁面や天井・地面がワイヤーフレームのように全て透明となっており、その外部には宇宙空間らしき星々がちりばめられているという、非常に位置関係の把握しづらい造りとなっていた。
「こ、ここは何というか足元がおぼつかないエリアだな」
「私が
「...あと一息だな、ルカ」
「....うん」
アインズは、ルカの目に涙が浮かんでいるのを見逃さなかった。彼女は涙を拭い、無理にはにかんで見せた。そんな彼女にアインズは愛おしさを感じずにはいられなかったが、今は目的に集中しなければならない。前に立つルカの背中をそっと押し、アインズ達は先へと進んだ。
北西の端から南東のエリアまで慎重に歩を進め、ルカ達は目的地点と思しき部屋の一角まで辿り着いた。しかしそこは、縦20メートル・横15メートル程の長方形を成した何もない伽藍洞のような部屋だった。
「ミキ・ライル!周囲を細かく調べてくれ。以前に私が来た時こんな空間は無かった。もっと入り組んだ部屋の小さな一角に
「了解しました、ルカ様!」
「了解!」
ルカ達3人の顏に焦りが見え始めた。それを察し、アインズも全員に部屋の捜索を指示した。しかし総勢13人がかりで探したにも関わらず、そこには何も発見されなかった。
「ルカよ、別の部屋を捜索してみるか?」
「....いや、今までの階層の位置関係から、何らかのオブジェクトの位置が大幅に改変されているとは考えにくい。だとすれば、絶対この空間に何かあるはずなんだ」
「そうか。....ルカよ慌てるな、落ち着いて探せ。
「....私にしか出来ない事?」
「そうだ。お前は私達とは違い、未来から来たのだ。ユグドラシル
「私に出来る事...物理攻撃・
ルカは考えた。攻撃系に関してはAoEを除いて全て除外、回復系やバフも意味があるとは思えない。あるとすればこの場に
ルカは頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。隣で聞いていたアインズも一緒に腰を屈め、ルカの肩に手を乗せた。
「ルカよ、逆に考えてみるんだ。お前がこの場でまだしていない事は何だ?」
「そう言われても...残った可能性としては、AoE、探知、超位魔法、偵察......ちょっと待て、偵察?」
「思いついたか?」
「いや...分からないけど、ちょっと試してみたい事があるんだ」
ルカはそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
「私達が...いや、イビルエッジが偵察に使用する魔法は、ユグドラシル
「試してみる価値はありそうだな」
「...うん、やってみるね。
目を瞑ったルカの左側に等身大のアイテムストレージにも似た時空の穴が開き、ルカの体をゆっくりと飲み込んでいく。その姿が完全に掻き消え、時空の穴が閉じると一切の気配すら感じなくなった。
現空間と遮断され、耳鳴りがするほどの静寂に包まれたルカは、その状態で部屋を隅々まで見回した。
そしてルカは見つけた。部屋の中心に煌々と浮かび口を開ける
周囲は一様に驚いていたが、ルカは左手を胸に押し付け、右手を
「...女神...やはりあなたは....」
デミウルゴスは誰にともなく独りごち、その姿に涙した。ルカはそのまま、アインズの方にゆっくりと首を向けた。
「アインズ...あ、あたし....」
「...フッ、また一つ証明して見せたな。真実を...」
アインズはルカに歩み寄り、ローブの袖で涙を拭った。
「さあ、この先はガル・ガンチュアだ。準備が必要なのではないか、ルカよ?」
「あ...うん、そうだね、その通りだ。みんな!聞いてくれ。この先は一方通行だ。しかもヨグ・ソトスのようなレイドボスクラスのモンスターしか出ない、超危険地帯だ。ここで回復とリバフ・装備確認をして、最後の戦いに備えて準備をしてほしい。何か必要な補給物資があれば何でも言ってくれ、この時に備えて用意しておいた」
「了解!!」
その場にいた全員が武器を胸に叩きつけて応じた。
フルバフが完了し、
「...私が先に行くね、アインズ」
「ああ。我らもすぐに行く、心配するな」
「分かった。待ってるよ」
そう言うとルカは、隠された
そこは灰色の大地が覆う荒涼とした世界。あると信じていた場所。ルカはそこへと遂に辿り着いた。地面には細かい粒子状の砂が大地に被さり、緩やかな風が砂と共にルカの頬を撫でていく。その場に跪き、両手で砂をすくいとると手を握りしめ、指の間から零れ落ちる砂の感触を確かめた。ルカは立ち上がり、地平線を見た。遥か彼方、漆黒の空の下に浮かび上がる灰色の山脈。あそこに向かって歩くのだと自分を奮い立たせ、ルカはその大地に、この世界で初めてであろう第一歩を踏み出し、足跡を刻んだ。
ミキとライル、アインズ達とイグニス・ユーゴが続けてその地に転移してきた。10メートル程先にルカの立ち尽くす姿を確認したアインズは、その先の周囲を事細かに観察した。所々に大きなクレーターがあり、緩い丘陵もいくつか見受けられる緩急のついた土地だった。
アインズはルカの隣まで歩き、彼女の顔を見た。しかしルカは、遠くに見える山脈から視線を外そうとしない。アインズもそれに合わせるように、山脈に目を向ける。
「...ここが、ガル・ガンチュアか」
ルカはゆっくりと頷いた。
「この匂い、この空気、この風...間違いないよ」
「うむ。...さて、これからどうする」
そこでルカはやっと山脈から目を逸らし、アインズと後ろに控えるチームを見て声を張り上げた。
「みんな!あそこに見える山脈の中にカオスゲートがある。左端に見える山脈の切れ目、あそこから山脈の谷間を抜けて、カオスゲートのある神殿へと向かう。目指すは北西だ。ここが私のいたユグドラシル
「「「「「「ハッ!」」」」」」
全員の力強い返事と共に、ルカ達は北西に向けて前進した。クレーターや丘陵をなるべく避けるようにして平地を選び進んでいたが、突如そこへモンスターがポップした。そこに現れたのは、全長が軽く40メートルを超えた巨大な白蛆のような、非常に醜悪かつグロテスクな姿をしており、全身をビクンビクンと波打たせてこちらに突進してきた。
「状況、ルリム・シャイコース!!全員距離を取れ、氷結魔法に注意!こいつの弱点耐性は重力・毒・炎だ!マーレは毒を、シャルティアとデミウルゴスは炎の超位魔法準備!!」
「りょりょ了解ですルカ様!」
「この時を待っていたでありんす!アルベド見てらっしゃい」
「承知しましたルカ様!」
「アルベド、コキュートス、前衛を頼む!!アウラ、セバス、敵の左右から炎属性の武技を集中的に叩き込め!アインズ、距離を取り後方から重力魔法の支援よろしく!ミキ、ライルはアインズの直衛に付け。可能なら超位魔法を放て!」
「了解!!」
「イグニス、ユーゴ!前衛と後衛の間に入って回復と炎の火力支援を頼む!!」
「了解です!」
「任せてくだせぇ!!」
「行くぞ、
ルカ、マーレ、シャルティア、デミウルゴスは空中へ飛び上がった。4人が両腕を天高く掲げると、白・緑・赤・黒の巨大な魔法陣が交差する。
眼下ではコキュートスがブロックに徹し、アルベドが削るというコンビネーションがうまく機能していた。敵の真横からアウラとセバスが炎属性武技を叩き込み、ルリム・シャイコースはその濡れた白い体をのたうち回らせている。イグニスはコキュートスとアルベドの回復に専念し、ユーゴは炎DoTをしっかり決めていた。
後衛ではアインズとミキが並び、
上空に浮かんだ4人の頭上に巨大な高エネルギー体が収束し、その力は周囲の大気を歪ませていく。キャスティングタイムが終了し、準備が整うとルカは
『よし、今だ!!全員ルリム・シャイコースから離れろ!!』
地表にいる全員が弾けるようにして一斉に後方へ飛び退いた。
ルカ達4人は呼吸を合わせ、一斉に両腕を下方に振り下ろした。
「超位魔法・
「
「
「
ルカの生み出した超重力がルリム・シャイコースの巨体を抉り取った所へ、マーレの放った重毒素の雨が容赦なく降り注ぎ、シャルティアとデミウルゴスの放った獄炎の太陽が追い打ちをかけるように巨大な爆発を引き起こした。
特に強力だったのがマーレの放った超位魔法で、3人の攻撃によりバックリと開いた傷口に強酸性の毒雨が注がれ、体内から一気に腐食を促した。逃げ場のない雨を浴び続けたルリム・シャイコースは断末魔の絶叫を上げ、その体が完全に溶け落ちてなくなるまで毒雨は降り続けたのだった。
「うっわエッグ....」
それを見たシャルティアはさすがにドン引きだった。
「素晴らしい!!マーレ、あなたの超位魔法は実に芸術的ですね!」
デミウルゴスはさすがアーチデビルといった体で大喜びだった。
「え、えと、あの、その、そんなにエグかったんでしょうかルカ様?」
キョトンとした顔で無垢に聞いてくるマーレを見てルカは返答に困ってしまったが、空中を飛んで隣に移動し、マーレの肩を抱き寄せた。
「大丈夫だよマーレ。君があそこで止めを刺してくれなければ、もっと大変な事になってたんだから。気にしないでいいの」
「そそ、そうですよね、分かりましたルカ様...」
「みんな下で待ってるよ。さあ降りよう」
その後もルカとアインズ達は、行く手を遮る数々の丘陵やクレーターを超え、その都度現れるレイドボス級のモンスターと激闘を繰り広げ、幾多の戦いに勝利していった。そうして北西の山脈入り口につく頃には、アインズ達のレベルも遂に150へと到達したのだった。
北西の山間部は幅300メートル程あり、その谷間を縫ってルカ達は東へ向けて前進した。途中敵が出現しない事を確認して、上級ポーションによるHPとMPの回復も抜かりなく行っていった。ルカ達は警戒しながら進んでいたが、それに反してモンスターがポップしない。ルカは誰に言うでもなく、自らの疑問を口にした。
「....おかしい」
「何だ、どうしたルカ?」
「前にも少し話したが、私はユグドラシル
「それをお前が一人で倒しながら進んだのか?」
「まさか。もちろん
「なるほどな。しかしユグドラシル
「もちろんその可能性もあるとは思うけど...どうも引っかかってな」
「ふむ、まああまり気にし過ぎても仕方あるまい。私達のレベルもカンストし、目的は達した。後はお前達の目的だけなのだからな。敵が出ないに越した事はないさ」
「そうだね、確かに」
「あとどのくらいで着くのだ?その神殿には」
「えーとちょっと待って...」
ルカはオートマッピングスクロールを開き、現在地を確認した。
「あの正面の丘を超えた辺りで、そろそろ見えてくると思うよ」
「そうか。お前の望みが叶うヒントがあれば良いのだがな」
「まあ、あまり期待してないけどね。それよりも、ここまで辿り着けた事が大きな前進だよ。...ありがとうアインズ、君達が居なければ、とてもじゃないが私達だけでは到底無理だったよ」
「フフ、それはお互い様だ。気にするな」
話をしている内に丘の上へ着き、先行していたアウラがはしゃぐように言った。
「ルカ様!!ひょっとしてあの建物がそうじゃないですか?」
「こーら、あんまり前に出過ぎちゃだめだよアウラ!ちょっと待ってね今確認するから。
ルカの視界がズームインされる。前方約400メートルに建物を発見した。...間違いない、カオスゲートのある神殿だ。
それを見た瞬間、緊張の糸が切れたようだった。顔には自然と笑みが溢れ、ミキとライルにもそれを知らせて喜んだ。いつの間にか横にいたアルベドも、それを聞いて一緒に喜んでくれた。
神殿まであと200メートル足らず。ここまでの激闘もこれで終わると知り、シャルティアやコキュートス、デミウルゴスまでもがホッと一息ついていた。
「ルカ様ー!ほら早くー!!」
「あーん待ってよー、ずるいよお姉ちゃ〜ん!」
神殿を目前にしたルカの気の緩みが、アウラとマーレを見る一瞬の隙を与えた。神殿入り口に差し掛かったアウラとマーレの上に、突如何かがポップした。
ルカがそれに気付いた時は、もう手遅れだった。
「ちょっ...なによこいつ!こっの...!」
アウラは咄嗟に山河社稷図を取り出し、相手に投げつけた。
「まま、
「だめっ!!アウラ、マーレ!!!」
そう叫んだ時には既に遅かった。鋭く太い触手がアウラとマーレを射抜き、二人は声を上げる暇もなく地面に叩きつけられた。
ルカは抜刀もせず飛び出し、目にも止まらぬ速度でアウラの元へ着くと、その体を左腕に抱えた。続いて踵を返しマーレの元へと両膝を着くと隣にアウラの体を寝かせ、その何かがいるすぐ真下で二人の体を並べた。ルカがそのまま魔法を詠唱しようとした時、ミキとライル、アインズを含む階層守護者達が一斉に攻撃体制に入ろうとしていた。
「攻撃しちゃだめ!!!みんな下がって、早く!!」
「し、しかし!!一体なん...だ?こいつは...」
「いいからそこでじっとしててアインズ!!!絶対に攻撃しちゃだめ!!みんな私の言うことを聞いて!!」
その命を削るような絶叫を聞き、全員が動きを止めてルカを見守った。ルカはすぐにアウラに目を落とした。左肩が吹き飛び、鎖骨が見えるほど無残に肉が抉り取られて血を流していた。マーレを見ると、右胸に風穴が空いて折れた肋骨が内側から外へ飛び出している。二人共突然襲った重症でショック状態に陥り、完全に気を失っていた。このままでは命が危険だと判断したルカは、二人の頭を両腕で抱きかかえるようにして、魔法を唱えた。
「
(キィン!!)という鋭い音と共に、周囲の空気が微細振動を起こし始めた。横たわるアウラとマーレ、二人の頭を抱きかかえて伏せたままのルカの体が青白い光に包まれ、その凝縮された光はどんどん大きくなりアウラとマーレを包み込んでいく。そして3人の体自体も微細振動を起こし始めると光がさらに大きくなり、ルカ・アウラ・マーレの体が徐々に宙に浮き始めた。その瞬間、光が弾けるように周囲に広がり、アインズ達10人の体までも包み込み、遥か彼方、山脈を超えてその光は拡大していった。その強烈な光を避けようとアインズは腕で顔を覆った。
「くっ!ぐおおお....!」
やがて光は収束し、その中心にいるルカの体へと戻っていく。宙に浮いた3人の体が徐々に下降し、地面に着いた。ルカはすぐに二人の傷の具合を確認した。アウラもマーレも服は破れていたが、左肩と右胸に負った酷い傷が嘘のように完全回復しており、二人共寝息を立てていた。ルカは二人の頬を撫でながら涙を流し、そっと肩を揺すった。
「...アウラ、マーレ。起きて」
「...ん〜、あれ、ルカ様?」
「う〜ん、くすぐったいよお姉ちゃあん...って...あ、あれ?るるる、ルカ様?」
「...ごめんね二人共、私が目を離したばっかりに、こんな事に...」
「ちょっと、どうしたんですかルカ様!あたしたち大丈夫ですって」
「えと、あの、何で泣いてるんですかルカ様?」
「...覚えてないんだね。ううんいいの、ごめんね。二人共立てる?」
「ハイ!...って、それよりもこいつ、さっきの!!」
アウラはルカの背後に向かって山河社稷図を構えた。
「だめアウラ!!こいつに攻撃しちゃだめ。マーレも!いい?お願い、今だけは私の言うことを聞いて。ね?」
「わ、分かりました...」
「よ、よく分かりませんけどあのその、攻撃しなければいいんですね?」
「そう。二人共立って、アインズ達のいる所に行こう?」
ルカは二人の手を引っ張り上げてゆっくりと立たせ、後ろを見せないようにした。そのまま二人の肩を寄せて、アインズ達のいる方へと連れて行った。
歩いた先にはミキとライルが待機しており、アウラとマーレをそれぞれ保護した。チームを見ると、ほとんどの者はルカを見据えて立っていたが、アインズ・アルベド・シャルティアの三人だけが片膝をついていた。
「ごめんねアインズ、アルベド、シャルティア!!アウラとマーレが重症だったから、やむを得ず...」
「...フフ、アンデッドを相手にあんな強力なヒールをいきなり使うとは、やってくれるじゃないか」
「私もこれは...初めて負うダメージです」
「は〜、やるならやると先に言って欲しかったでありんす...」
「ほんとごめんみんな!でもそのおかげでアウラとマーレはもう大丈夫だから。ミキ、アルベドをお願い。イグニス、シャルティアを治してあげて!私はアインズを治すから」
「かしこまりました。アルベド、しっかり」
「シャルティアさん、お任せ下さい」
「アインズ、肩の力を抜いて、行くよ...」
三人は同時に魔法を詠唱した。
「「「
(ボッ!)という音を立てて、三人の掌に巨大な黒い炎が宿った。アインズ、アルベド・シャルティアの体内に、膨大な負のエネルギーが流れ込んでいく。
「...ふー。死ぬかと思ったぞルカよ」
「全く、人騒がせですねルカ」
「...この私が人間ごときに癒やされるとは、情けない...」
「あの、シャルティアさん、他に痛むところはありませんか?」
「安心しなんし、どこもありんせん。お前、イグニスと言いましたね。私をフル回復させるとは、相当鍛えてあるのでありんしょう」
「ええ、まあ。何せ俺の師匠はルカさんですから」
「...なるほど。イグニス、お前の事は覚えておくからありがたく思いなんし」
「はい、光栄ですシャルティアさん!」
「...フン」
シャルティアはそっぽを向いたが、まんざらでもない様子だった。
「...ところでルカよ。あれはどうするのだ?」
アインズはルカの背後にいる何かに向かって指を指した。
「ああ。...やはりあいつだ」
ルカは後ろを振り返り、アウラとマーレを傷つけた存在を見つめた。その場にいる全員が見上げる中、そいつは微動だにしない。
アインズ達とカオスゲートのある神殿との間に立ち塞がるその存在は、正に異様だった。
そこにいたのは、直径が約100メートルを超える巨大な緑色の球体だった。その球体の内部にある内臓らしきものがドクン、ドクンと時折脈打っていたが、そいつは基本的に宙に浮いてその場から動こうとはしない。
「...こいつの名はトゥールスチャ。ガル・ガンチュアで最強にして最悪のモンスターだよ」
「こ、この何かのオブジェクトのような球体が、モンスターだと言うのか?!」
「そう。弱点耐性は存在しない。そして今見ての通り、こちらから攻撃を仕掛けなければ、こいつは何もしてこない。但しこちらが一撃でも攻撃した瞬間、範囲内にいる近距離の敵を優先してランダムに触手で反撃してくる。その攻撃命中率は100‰、物理無効や防御系の魔法・スキル、その他アイテムによる特殊効果も全て無視してこちらにダメージを与えてくる、貫通属性の攻撃だ」
「つまり奴の攻撃は防ぐ事も、避けることも出来ないという訳か。ならば敵の攻撃範囲外から火力で押し潰すというのはどうだ?私達全員で超位魔法を一気に叩き込めば...」
ルカは首を横に振った。
「奴の攻撃範囲はこちらが持つ一般的な遠距離魔法の射程と同じ、120ユニットだ。こちらの魔法が当たるということは、奴の攻撃もこちらに当たる。そしてアウラとマーレ、つまりレベル150だった二人を一撃で仕留めるほどの攻撃力がある以上、ただ取り囲んで超位魔法を撃つだけでは、こちらが全滅する可能性もある」
「...そんなにHPが高い...のか?」
「ああ。少なくとも1グループの超位魔法による集中攻撃程度では、奴のHPは半分も削りきれないと思ってくれ。そしてこれが肝心なのだが、奴は
「な、何ちゅう厄介な敵だ...嫌がらせとしか思えんな。と言う事は、全員を範囲外に退避させて、超遠距離からアウラのスナイピングでチクチク削るというやり方も通用しない訳か」
「うん。奴を倒すには、2グループ以上でのチーム連携による超位魔法の波状攻撃が最も有効だが、それでも半壊・若しくは全滅しかねないというリスクは消えない」
「...この際、無視して通るというのはどうだ?」
「それは出来ない。あそこを見てくれ」
ルカは150メートル先にある神殿の入り口を指差した。
「トゥールスチャの巨体が神殿の入り口を塞いでしまっている。奴は基本ポップした場所から一歩も動かない。だからタゲを取って誘導する事も出来ないんだ」
「何と迷惑な奴だ...ルカ、何か策はあるのか?」
「ああ、一つ提案がある。これは私のギルド狩りでよく使っていた戦法なんだが...」
「聞かせてくれ」
「トゥールスチャの攻撃は必中だが、常時発動しているパッシブスキルには影響を及ぼさない。つまり私達の持つ
「...つまりお前達が前衛、私達が射程範囲ギリギリの後衛に立ち、お前のチームと私のチームとで順番に超位魔法を放ち、波状攻撃を行うということだな」
「ああ。これなら後衛組が受ける反撃確率を最小に抑えて攻撃を回していける。予備のバックアップとして、イグニスとユーゴには範囲外の150ユニットまで下がってもらい、万が一後衛組に被害が出た時の回復要員として待機してもらう」
「フフ、行けそうじゃないか。皆聞いていたとおりだ、この作戦であのモンスターの駆除にかかる!各員配置につけ!!」
「ハッ!!」
前衛のルカ・ミキ・ライルは正面のトゥールスチャから60ユニットの距離を取り、そこから更に後方、魔法射程範囲である120ユニットギリギリのラインにアインズ達が並び、扇状に展開して布陣が終わった。
ルカは全員に
『各員へ。ます前衛が先に攻撃を開始する。その後前衛は敵の攻撃を回避。その後私の合図と共に後衛が攻撃開始、それを受けて前衛は再度攻撃を回避。この繰り返しだ。各自この回線の指示をよく聞いて、速やかに行動してくれ、いいな!』
『了解!!』
『全員超位魔法準備!』
ルカとアインズ達が一斉にトゥールスチャへ向けて両手を前に掲げると、色とりどりの巨大な魔法陣が折り重なり、前方と後方に美しい魔法陣の壁を形成した。
正の波動と負の波動が混じり合い、強大なエネルギーとなって地を揺るがした。
『前衛、これより攻撃を開始する』
ルカ達は息を整え、両腕を敵に向けながら腰を落とし、回避に備えて身構えた。
「超位魔法・
「
「
3人の凝縮された無属性の力場がトゥールスチャの中心を射抜き、上空に向かって大爆発を起こした事で戦いの狼煙が上がった。即座に敵の触手が超高速で迫ってきたが、ルカ・ミキ・ライルはその場から掻き消えるように左右へと躱して反撃を逃れた。
『前衛、回避完了!!後衛部隊攻撃に移れ!』
『了解、全員呼吸を合わせろ。超位魔法・
「
「
「
「
「
「
「
アインズ達8人の放った超高エネルギー体が同時にトゥールスチャへと着弾し、その丸い体が歪な形へとねじ曲がっていく。そして再び強力な大爆発が起き、トゥールスチャから反撃の触手が伸びてきた所をルカ達は
第一波の攻撃が終了し、戦果を確認するためにルカは
『アインズ...!』
ルカは嬉しさを堪え切れずに声が上ずっていた。
『ああ、今確認した。これなら第二波攻撃が終わらぬうちに片が付くな』
『...アインズ、1つお願いしていい?』
『何だ、言ってみろ』
『実は最後の手段として取っておこうと思ったんだけど、その...最後はみんなで前に出て、一緒に攻撃しよう? 私の無敵化魔法を使ってね』
『...フッ、そんな隠し玉をそういえばお前は持っていたな。なるほど、こういう場合にも併用して使えるという訳か。...分かった、いいだろう。聞いていたな守護者達よ!栄えあるラストアタックは皆で行うぞ。ルカ達の元まで前進せよ!』
『ハッ!!』
ルカとアインズ、ミキ・ライルを挟み、超位魔法が使えないイグニス・ユーゴも攻撃に参加する事になった。左右に階層守護者達が間隔を取りつつ横一列に整列した。
「みんな、超位魔法準備!それが終わったら、私が君達全員に10秒間無敵化出来る魔法をかける。イグニス、ユーゴ。敵に反撃される心配はないから、好きな魔法を心置きなく撃ってね!」
そしてアインズと守護者達の体の周囲に、巨大な魔法陣が輝き始める。
「ルカ、お前は攻撃に参加しないのか?」
「2つの魔法は同時使用出来ないからね。だから私は、これを使う。残り1回きりしか使えないけど」
ルカは中空に手を伸ばし、アイテムストレージから銀色に輝く1つの指輪を取り出した。その指輪には、大きな彗星が地面に落下するような紋様が刻まれていた。
ルカはそれを左手の薬指にはめた。
「フフ、なるほどな。分かった」
「よし、行こうか。
ルカが天を仰ぎ左右の手を大きく広げると、そこにいた全員の体が金色の光のベールに包まれた。
そしてアインズの隣に立ち、正面を見据える。
「行くぞ守護者達よ!私に呼吸を合わせて一斉に攻撃開始だ、いいな!」
「ハッ!!」
ルカは左手を高く掲げ、薬指にはめた指輪に意識を集中した。すると無敵化の最中にも関わらず、何故かルカの体の周りに巨大な青白い魔法陣が浮かび上がった。
ルカは左に立つアインズを見つめ、笑顔を向けて頷いた。
「超位魔法...」
「超位魔法...」
ルカとアインズは二人で口を揃え、そして同時に腕を振り下ろした。
「「
二人の放った同一の魔法が重なり合い、超高熱源体がトゥールスチャの頭上に叩き落とされた。そしてそれを皮切りに守護者達は一斉に超位魔法を放射した。
攻撃が終わり、トゥールスチャは跡形もなく消滅した。ルカの左手にはめられた指輪が音もなく崩れ去った。
「今のは課金アイテムだろう。
「...うん。お守り代わりに昔から愛用してたんだけど、こんな記念すべき機会でもないと、使い道もないからね」
「...フフ、確かにな。...ん?何だあれは」
トゥールスチャを倒した爆心地の中央に、青く輝く何かが浮遊していた。アインズとルカはそれに近寄り確認すると、それは直径30センチほどの水晶のような球体だった。アインズがそれを手に取ると、まるで持ち主を認めたかのように青い光が和らぎ、その手に収まった。
「...何だこれは?ルカよ、お前はこれを見たことがあるか?」
「...いや、私も見たことがない。そもそもトゥールスチャを倒した回数自体が少なかったから。というかそれ、ひょっとして超レアなんじゃない?鑑定してごらんよアインズ!」
「うむ。
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アイテム名: アクトオブグレース
装備可能クラス制限: エクリプス
装備可能種族制限: オーバーロード
効果:
耐性: 世界級耐性125%
神聖耐性80‰
炎耐性80‰
氷結耐性90‰
アイテム概要: 死・腐敗・衰退を糧とする、外なる神の心臓。これを装備するものは狭間の世界から流れ出る波動エネルギーの力を享受出来る。また装備者の記憶(LV3)と引き換えに、同一エリアに存在する背徳者を広範囲に渡り断罪する事ができる(3000unit)。
耐久値: ∞
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「...な、何じゃこの化物アイテムは...」
アインズはアクトオブグレースを握りしめたまま唖然としていた。
「え、そんなにすごいの?私にも見せて! ....あーなるほどね。すごいじゃん、これユグドラシル
「え?!い、今か?」
「うん!大丈夫だよ危険はないから」
「う、うむまあ、いいだろう」
そういうとアインズは腹部に装備された赤い玉を取り出し、アクトオブグレースをそこに収めた。すると新たなアイテムを装備した事により、黒・赤・青のオーラが次々とアインズの体を覆い、そのアイテムに付随された特殊効果が適用されている事を示した。
「う...うおおお!!力が...力が溢れてくる...!」
「おおー、かっこいいよアインズ!そのお腹の玉が青色に変わっただけで、随分と印象変わるね! あたしはそっちの方が好きかなー」
「そ、そうか?まあこのアクトオブグレースは、私が元々装備していたこの赤玉の上位互換である事が分かったからな。この赤玉の力も凄まじいのだが、このアクトオブグレースはそのさらに上を行っているな」
「ふーん。本当にアイテムが効いてるか、確かめてあげる。
ルカの指した指先に円形の小型ブラックホールが形成され、アインズに向かってゆっくりと放たれた。
「ち、ちょ!!おま!!!やめああああああ!!!」
ドズン!!という音と共にアインズにぶつかり、黒いエフェクトが体を覆うが、体を硬直させていたアインズの体が重力で押し潰される事はなく、体から弾けるようにしてエフェクトが消え去った。
「うん、バッチリ効いてるみたいだね。今の魔法は丁度レベル130だから、魔法無効LV130ってのは嘘じゃないね」
「....お ま え なーーーー」
「そんなに怒んないの、実戦使用しないと自信つかないでしょ?良かったじゃない今試せて」
「...う、うむまあこのアイテムが強力な事は分かった。しかしこれは今装備するものでもあるまい。元の赤玉に戻して...」
「えー、戻しちゃうのー?せっかくだから今日一日くらいはそのままでいなよ!私はそっちのアインズの方が好きだな〜」
「...ぬ、そ、そうか?お前がそこまで言うなら、このまま装備しておく事にしよう」
「うん。この後何が出てくるかも分からないからね。そうしておいた方がいいよ」
「そうだな、分かった。さて、休憩も済んだ。そろそろ神殿に行くとするか。私も早くカオスゲートとやらを見てみたいしな」
「うん」
アインズとルカが共に神殿入り口へ向かうと、ミキとライルが素早く立ち上がって二人の後方に付き添い、階層守護者達とイグニス・ユーゴもそれに付き従った。高さ20メートル、全幅30メートルほどの神殿に入ると、両脇には石柱が並び、その最奥部には石碑らしき祭壇が佇んでいる。そのすぐ手前まで歩き上を見上げると、そこにあったのは高さ15メートル程の、表面に解読不能な謎の文字が刻まれた漆黒のモノリスが鎮座していた。
下に目を落とすと、モノリスと同じ物質で作られたと思われる黒い台座があった。ルカがそれに左手を触れると、頭上に(カオスゲート)という表示が映し出された。ルカはアインズを見やると、アインズは大きく頷いてそれに応えた。
ルカは再度台座に目を落とし、
それはモノリスに刻まれた整然とした文字とは異なり、まるでノミか杭を使い、手掘りで刻んだような荒々しい文字だった。ルカとアインズはそれに気づき、台座に刻まれた文字を読んだ。
“我が子を待つため、悠久の時を超えて彷徨う者なり 我がを子待つため、崩壊を越えてこの場で待たん 我が子を待つため、死を奪った罪をここに償わん 我が子を待つため、異界との接触を拒まぬ者なり 我が子を待つため、異界を欺く事を厭わぬ者なり 我が子を待つため、全てを破壊する事を厭わぬものなり
Guīmìng bù kōng guāngmíng biànzhào dà yìn xiàng mó ní bǎozhū liánhuá línguāng zhuǎn dà shìyuàn”
「...何というか、少し病んでるね」
「うむ。そういう側面も垣間見られるな」
「この一番下の言葉って、多分ラテン語だよね?私はさっぱりだけど、アインズ読める?」
「えーと、ちょっと待て...なになに? (人は空ではないが、光が輝いている...)ああ、なるほど分かった。これは仏教の真言の一つだ、以前見た事がある」
「意味が知りたいな。翻訳して?」
「ちょっと待て。えーと...
「うーん、読み方だけ言われても分からないよ。意味は何?」
「簡単に言うとだな、大日如来の大光明の印よ、宝珠と蓮華と光明の大徳を有する智能よ、われ等をして菩提心に転化せしめよ。....つまり死んで体から離れた後に、ちゃんと成仏しますように、という意味だな」
「ふーん。私仏教とか宗教とか全然興味ないんだけど、アインズは詳しいのね。ラテン語も読めちゃうし」
「いやまあ、いわゆる雑学王というやつだ。生きていく上で何の役にも立たないが、知りたくてしょうがない事というのは、誰にでもあるものさ。そう思わないか?」
「フフ、もちろん。ただ、私は科学者。オカルトとかはあまり興味ないんだ。集団心理としての傾向には興味あるけどね。ところで、アインズは日本人?」
「何だ唐突に? ああ、日本人だが、それがどうかしたか?」
「そっか。私はイギリス人なの」
「いっ!イギリス人なのにそんな日本語ペラペラなのか?」
「だって、何年か日本にも住んでたもの。でもこの世界に転移する直前は、アメリカにいたんだけどね」
「そ、そうだったのか。何か新鮮というか、久々に地球を感じたな。異国交流というか...」
「何言ってんの。私は味噌汁も納豆も大好きよ?」
「...そうか。そう言われると親近感が湧くな」
「...フフ、まあリアルの話はここらへんにしよう。 この言葉の意図はよくわからないけど、何にせよ行ってみてこの目で確認するしかない。じゃあカオスゲートをアクティブにするけど、準備はいい?」
「ああ。いつでもいいぞ」
ルカが台座に両手を乗せると(ブゥン!)という音を立てて、目の前に暗闇を想起させる真っ黒なゲートが開いた。
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■魔法解説
超位魔法・
名前の通り月食を起こしたような薄暗くも赤い大質量の月を召喚し、超高速で相手に衝突させる重力魔法。
超位魔法・
強酸性かつ強度の腐食性を持つ雨を敵の頭上に降らし続ける毒属性の超位魔法。この魔法自体がDoTに近い持続性を持つ為、総合的な火力では
超位魔法・
小型の太陽を敵の頭上に作り出し、超高熱で炙り焼きにしたあと敵に落下し、大爆発を引き起こす炎属性の超位魔法
超位魔法・
敵の頭上から溶岩の雨を降らせ、地面からも超高熱の溶岩が湧き出でて挟み込み、対象者を焼死させる超位魔法
超位魔法・
2つの小惑星を召喚し、敵の中心で衝突させる事による重力と超高熱を発生させる時空系超位魔法。
超位魔法・
木星の大赤班を思わせる巨大な鉱石を含んだ暴風を引き起こし、敵を包み込んで切り刻み、大ダメージを与える
超位魔法・
鋭利な円錐形の超巨大な大質量金属を召喚し、敵の中心目がけて超高速で敵を打ち砕く超位魔法
超位魔法・
巨大なブラックホールを召喚し、その表面にある事象の地平線に触れた敵を引きずり込み、物体・霊体関係なくその存在を捻じ曲げて粉々に打ち砕く星幽系超位魔法
超位魔法・
射程120ユニットの中心から80ユニットの広範囲に渡る敵のHPを吸い取り、術者のHPに変換するエナジードレイン系超位魔法
超位魔法・
地面から巨大な氷山を発生させ、鋭い氷の山頂で敵を貫きつつ囲むと共に、最後大爆発を起こす氷結系超位魔法
異界より身長200メートル級の3匹の巨人(兄弟)を召喚し、その絶叫で敵を麻痺させた後に手にした破壊の鉄球で対象者に無慈悲な攻撃を加え続ける召喚系最強魔法。一度召喚すれば対象が死ぬまで消える事はなく、ひたすらに強力な打撃を敵に加え続ける。これから逃れる為には、術者を殺すか、巨人を殺すか、術者が魔法を解除する以外に方法はない。尚術者の命令には絶対服従する
魔法が生まれる以前より存在したとされる古代呪文で、”虚無”と呼ばれる無属性の高エネルギー体の波動を制御し、敵に突進させて死に至らしめる。その姿は術者のイメージによって左右され、マーレの場合は翼を6枚生やし、2本の角を生やした巨大な悪魔だった
超位魔法・
敵の眼前に炎が燃え盛る超巨大な断頭台を召喚し、対象者を真っ二つにして傷口を焼き、その狂気の痛みで敵を悶絶死させる。
超位魔法・
竜人のみが使用できるドラゴンブレス系最強魔法。その息吹により敵を凍り付かせて動きを封じ、その後その氷が溶岩へと変わり敵を燃やし尽くす氷結・炎属性の2局面を持つ超位魔法
超重力のブラックホールを作り出し、相手の体を包む事でその体を1/10000まで圧縮し、大ダメージを与える魔法
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