14歳の朝、少年は死んだ。その瞬間から少年は語り始めた。

@ennoshin

第1話

 恐怖に引きつった姉の顔。

 目覚めて僕が初めて目にしたものはそれだった。

 雨の朝。

 誰かの悲鳴。

 そして母の顔。

 僕は走った。

 ここにいてはいけないと思った。

 パジャマ姿のまま、僕は雨の中に飛び出した。

 ドアを開ける時に、自分の手の先に鉤爪が生えていることに気づいた。

 迷路のようなアコアグタムの路地。

 狭いところにギュウギュウ詰めに家を詰め込んだからこうなる。

 僕の姿を見て驚く人。

 近所の森谷さんの奥さんだ。

 僕は犬歯の伸びた歯でざらつく唇をかみながら、奥さんの頭上を軽々と飛び越えた。

 僕の手足は妙に長くなり、運動神経の鈍かったはずの体は猫のような敏捷さで宙を駆けた。

 そぼ降る雨の中で、僕は自分の体温の上昇を感じた。

 ふいに何も怖いものがなくなって――

 なぜか笑い出したくなる衝動に駆られた。

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