小悪魔な君に恋をする


(『過保護な彼のセリフ』と同主人公です)



ああ駄目だと、思えば思うほど逆に想いは止まらないもんだ。



「あ! 偶然だね!」

「マ、マネージャー?!」


街角で急にかけられた声に、俺の心臓は跳ねた。

俺の通う高校の3年生。先輩。男子バスケ部のマネージャー。

彼女を表す言葉はいろいろあるが、俺にとって一番大事なのは……


「ね、今って暇? せっかく休みの日に会ったんだし、お茶でもしない?」

「え?! い、いいんスか?! あ、もちろん俺が払うんで……っ」

「えーいいよ、後輩に奢らせるなんて悪いからさ。あ、あのカフェにしよ! あそこの新作パフェ、気になってたんだー」


ふいに手をひかれて早足に歩き出す。

握られた手は汗ばんでないだろうか。

顔が赤くなってるのはバレてないだろうか。


この人は、俺の……想い人だ。……片思いだけど。



「んー美味しいっ! ほら、一口食べる??」

「えっなっ?!」


はいっと目の前に差し出されたスプーン。

戸惑っていると、「あれ? 甘いもの嫌い?」と小首を傾げる彼女。

2つ上なのにこの可愛さは反則だと思う。


「い……イタダキマス」

「ん。はい、あーん」


片言で答え、目の前のスプーンを口に含んだ。

アイスの冷たさと甘さが口中に広がる。


「どう??」

「あ、甘いッス」

「あはは、そりゃアイスだもん、甘いよ」


笑いながら彼女は再びそのスプーンでパフェをすくうと、口に入れた。

間接キスとか、意識してるのは俺だけなんだよな……。


彼女には付き合っている人がいる。

残念ながらそれを知ったのは俺が自分の気持ちに気づいたのより後のことだった。

しかもそれが、同じバスケ部で尊敬するキャプテンだなんて。

勝ち目がないにも程がある、というか、彼女はまず俺を男として意識してねぇ……二言目には、


「君っていつも素直だし一生懸命だし、私そーゆーとこすごく好きだな。私にもこんな弟がいたらよかったのに」


……これだ。気に入ってもらえてても素直に喜べないのが男心。


「……俺もマネージャーのこと、好きッスよ」


結構緊張しながら言ったのに。

彼女はその大きな目を細めると、嬉しそうに俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。


「あーもう! ほんと可愛い! 誰かさんとは大違い!」

「……悪かったな、可愛くなくて」

「っ?!」


いきなり後ろから響いた、聞きなれた低い声。

誰かを認識するために振り返る必要なんてなかったのだけど。


「キャ、キャプテン……や、これはその……」

「あれ? どうしたの? 今日は理系は補修じゃなかったっけ?」


全く悪びれた風もなく彼女は言う。

まあ別に偶然出会ってパフェ食ったくらいだし、なんも悪かないんだけどよ。


キャプテンにとっても彼女にとっても、俺はそういう対象ではないんだと言われてるみたいで少し悔しい。


「たまたま早めに終わってな。なんだ1年、お前暇なのか」

「え、あ、はい!」

「そうか、マネージャー、お前も暇だろ。体育館開いてるらしいから、練習行くか」

「え、ほんと? よし、行くよね!」

「あ、お願いします!」


キャプテンが補修を早めに終わらせたのは、おそらくたまたまではないのだろう。

たまの休日、少しでも彼女といたかったに違いない。

きっと彼女もそうだったろう。


でもそうして得た時間も何のためらいもなく、バスケや後輩のために使ってしまう二人に、俺はまだまだ敵わないなと思った。


「あ、そうだ」


店を出る寸前、彼女が俺にこっそりと耳打ちした。


「あの間接キスは、彼には内緒ね」


拗ねちゃうから、とくすり笑ったその笑顔に――



『わかっていたのに虜になった(甘すぎる笑顔の罠で)』



(意識してくれてたのかと嬉しくなったのは内緒)

(今はまだ、可愛い弟でもいいから、傍に居させて)

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