小さな恋のお話
那玖
ラプンツェルのような
「おはよ、委員長。俺と付き合わない?」
「結構です」
またフラれた。これで10敗目。
毎朝の告白に眉一つ動かさないこの子は、うちのクラスの委員長。
こう言ってはなんだけど、お堅い彼女は恋愛なんかに興味ありませんって感じで。
いつも無愛想なあの子が彼氏の前ではどんな顔で笑うんだろうって、そんな好奇心からアプローチをかけた。
……のだが、恋愛に関しては百戦錬磨な俺でも、まだまともな会話をした記憶がない。
あの手この手で攻めてるつもりなんだけど……これだけ手ごたえがないと、自信無くしそうだ。
「はぁー……難攻不落ってか……」
一時間目は英語。当てられた問題に流暢な英語で答える委員長を見ながら、俺は呟いた。
「ぁ……あの……あの!」
「わっ?! 委員長?!」
寝てる間に、5時間目どころか終礼が終わっていたらしい。
委員長の声にも起きないなんて、さすがに疲れたんだな、俺。
「起こしてごめんなさい。疲れてますよね」
「うん、どーもそうらしい……って、え、何で……」
何で委員長が俺の体調を知ってるのか。
そう聞くと、委員長は怪訝な顔をした。
「? 昨日、部活で対外試合だったでしょう?」
「えっ? もしかして委員長、見に来てたの?」
「はい」
「それは俺を見に……」
「違います」
そこまできっぱりと否定されると逆に清々しいよ、委員長。
ていうか、初めて彼女とまともに会話した気がする。
そういえば、何故委員長は俺を起こしたんだ?
それを聞こうとする前に、彼女は一枚の紙を差し出した。
「進路調査書です。提出は今日までなんですけど、うちのクラス出してないの貴方だけなんです」
あー、そう言えば一週間くらい前に担任が配ってた気がする。とっくにどっかにやってしまったけど。
「無くしてるんじゃないですか?」
「はは、ばれた?」
「……そう思ったので、一枚貰っておきました」
今書いてください、そう言ってシャーペンも一緒に差し出す委員長は、ほんとにしっかり者だと思う。
うちのマネージャーにならないかな……
「なりません。それより早く書いてくれますか?」
「あ、声に出てた? 恥ずかしー」
「……」
「ごめんごめん、書くよ」
俺は委員長から紙とシャーペンを受け取ると、枠の中に一言、『バスケをやります』とだけ書いた。
「はい、どーぞ」
俺が差し出した紙を一瞬見ると、委員長は少し柔らかく目を細めた。
「……貴方らしいですね」
あ、すみません、勝手に見てしまってと謝る委員長。
俺はそれよりも彼女が一瞬見せた微笑み…とは言えないものの、普段は見せないあの表情に目を奪われた。
こんなに可愛かったのかとか、気づいてしまえば、長い綺麗な黒髪、細くて白い指、意識しだすと止まらない。
いつの間にかこんなにも惚れこんでいたようだ。
この俺がここまで本気になるとは思わなかった。
プリントをまとめて出て行こうとする彼女を留めて、その長い髪を一掬いとった。
「何……」
「髪、すごく綺麗だよね」
ラプンツェルみたい、そう言ってその髪にキスをした。
さすがにやりすぎたか、そう思って顔を上げると、少しだけど顔を赤くした委員長と目が合った。
「っ……プリントを提出しないといけないので、失礼します」
「あっ……行っちゃった」
予想外の反応に驚いてる間に、背を向けて去ってしまった委員長。
「少しは脈あり……なんかな」
緩む頬を押さえながら、俺は体育館に向かった。
『魅惑の髪に口づけを』
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