11-10
最後の3曲目――対象楽曲は、当然だが『天ノ狼』である。
個別楽曲ハイスコアは未だにデンドロビウムが有利で、あの時に村正(むらまさ)マサムネが記録したスコアは――ウィークリーランキング内記録にとどまっていた。
つまり、未だに彼女はアドバンテージを持っているという事になる。
【確か、ウィークリーランキングとは別の曲別ランキングでは――90%は到達している】
【しかし、デンドロビウムがトップでも――95%には到達していなかったはず】
【それだけ難易度の高い曲と言う事だ。下手をすれば、アップデートでレベル8への昇格もあり得るな】
【レベル8としては弱いだろう――せいぜい、レベル7の中で上位なだけだ】
【個人差とでも言いたいのか?】
【アレをレベル8にしたら、アナザー譜面はどうなる? レベル13でも新設するか?】
【レベル12が最大の中で、またレベル13を新設してバランス調整される方が逆に降ると思わないのか】
ネット上では、様々な意見が飛ぶ。
デンドロビウムとムラマサの一騎打ちな状態のランキングだが、外野ではこのような議論も――。
(ネット上では様々な意見が飛ぶのは百も承知――)
無言で画面に集中するデンドロビウムだが、プレイに挑む前にも色々と情報を収集しており――若干の焦りはあった。
しかし、それを気にしてせっかくのチャンスを無駄にしてしまう方が彼女にとっては――もっとも致命的なのだろう。
焦っているような表情は特になく、指が震えている事もない。それ程に雑念は捨てて、全てを目の前の譜面に集中しているのだろうか――。
楽曲の方は既に始まっており、イントロの段階でまさかの――トランスには驚きを感じるだろう。
冒頭から、複雑な形状の譜面が降ってくる構成は――誰もが目を疑った。
さすがに全押しを要求する様な箇所はないので、そこだけは唯一の救いだろうか。タブレット端末で全押しとなると、対応方法はいくらでも思いつく。
曲のタイトルから連想される物――それが即答できるのは旧シリーズをプレイしている経験者だろう。
天狼星――と書けば、それがシリウスの別名と分かる人物はいるだろうが、それが楽曲名とどのような関係となるのか――?
(ようやく、この曲が『天ノ狼』としている理由――それがわかった気がする)
デンドロビウムは、譜面配置、楽曲に使われているフレーズ、細かなキー音。更には流れているMVの内容――。
それら全てが、リズムゲームVSに収録されたある曲と意図的に似せている事だった。ある意味でも続編曲と言えなくもないが、担当アーティスト名商が違う。
プレイがBパートに突入する頃には、譜面配置の癖がある程度分かって来ており――ミスタッチなく見事に捌いていく。
この曲は、あの最強譜面と名高い――あの曲へつなげる為の壁なのだ。そして、この曲をクリアできた時には――ある特定の譜面法則に関しての耐性も出来ている。
つまり――中級から上級プレイヤーへクラスアップする為にも必要な試練とも言える物――。ここをクリアできるかどうかがプレイヤースキルを左右するだろう。
(なるほど――そう言う事か)
プレイの様子をモニターで見ていたのはビスマルクである。
彼女も――ある程度の箇所で、譜面に覚えのある配置を発見していた。ウィキ等では――その辺りに言及している記述はなかったが。
何の曲に対する練習譜面なのかは、曲調等で予想は出来るが――それで本当に当たっているかどうかの保証はない。
曲の方は、気が付くとクライマックスへと突入していた。
最後はプチ発狂地帯ともウィキで書かれている程の難所であり、初心者や中級者では挫折しやすい難所でもある。
手を頻繁に動かすと言う表現が――適切であろう譜面配置は、一部プレイヤーがレベル8へ昇格すべきと声を挙げるのも納得だろう。
しかし、それは自分の腕が未熟なだけで、それを棚に上げているだけではないのだろうか? 最低でも、デンドロビウムは――そう思わない。
(どのような譜面であろうと、意図的にチートプレイヤー狩りなどを想定した物ではない限り――)
目の前で起こっている事、それはモニターで視聴していたギャラリーも言葉を失う。
先ほどまで譜面の議論をしていたプレイヤーも沈黙する程――彼女のプレイは壮絶の一言で表現できた。
(その腕を極限までに高めれば――クリアできない譜面は、ない!)
ラスト15秒――彼女の腕は残像が出来るような――高速の捌きを披露していた。
その捌きは的確に譜面を捉えていき、見事にコンボを接続していく。判定が稀に通常判定となるが、それは百も承知だろう。
理論値へ近づけば100%に近づく事になり、ランキングでも確実に1位は取れる。
しかし、デンドロビウムが優先したのは理論値クリアではなかった。彼女が求めているのは――。
「フルコンボクリア――このタイミングで、なのか?」
ビスマルクはデンドロビウムのリザルトを見て、驚くしかなかった。
クリアパーセントは97%――気が付けば、曲別のハイスコアまで更新してのクリアだったのである。これには沸き上がるしかなかった。
他ゲームをプレイしているプレイヤーも思わず――とまではいかないが、センターモニターで視聴していたプレイヤーは驚いている。
見事に記録を更新したデンドロビウムの顔には、汗が――見えた。
身体全体を動かすようなリズムゲームでは汗まみれになる事もあるのだが、全身を使わないようなゲームでは汗は滅多にかかないだろう。
彼女は全力を持って挑み、見事に今回のウィークリーランキングで暫定1位を獲得した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます