11-9
同日午後1時頃、シャトルバスが『オケアノス・ワン』草加店へ到着――降りてきた乗客の中にデンドロビウムの姿があった。
ただし、バス内はあまり広くないと言う事もあって声をかける様な事はなかったようだが。
(何としても――あの状況を変えないといけない)
店内の自動ドアが開き、入店するデンドロビウムは――そんな事を考えていた。
他の客はメダルゲームやダーツコーナー、クレーンゲームの方へ向かう中でデンドロビウムは迷いなく2階へと向かう。
(あれって、もしかして?)
(それは違うだろう。ヘッドフォンが確認出来ないし)
(店内に入ってから用意するのでは?)
(しかし、ヘッドフォンで音楽を聴く通行人は他にもいるだろう)
降りてきたデンドロビウムを見たギャラリーは思うのだが、特徴のヘッドフォンが見えなかった事もあり――気付かなかった。
スク水で分かる村正(むらまさ)マサムネ、トレンチコート+メイド服と言う新たな特徴を植え付けたユニコーンに比べれば――。
デンドロビウムとしては、ゲーム外で目立つのは避けたいと言う事もあるかもしれない。
あくまでも、アイドルがステージに立っている時とそうでない時――と言う切り替えに似たような物だろうか?
既に2階では様々なゲーマーがリズムゲームVSをプレイしている。その中には、ビスマルクの姿もあった。
既に彼女はプレイを終了し、別の筺体へ向かおうとしていたのだが――見覚えのある人影を発見し、センターモニターの方へと向かう。
(あのタイミングでユニコーンが来たのは予想外だった。一体、彼女は何をするつもりなのか――)
現在のランキング順位をセンターモニターで確かめているビスマルクは、ユニコーンが唐突なタイミングで姿を見せた事に驚いていた。
彼女もリズムゲームVSをプレイしている事は動画で確認済みだが、ウィークリーランキングの様なイベントに参加す事自体がなかったのである。
基本方針を変えたのか? もしくはランキングにデンドロビウムがいる事が気になったのか――ネット上で憶測が立てられていても、当てにはならないだろう。
「スコア的にはどうだろう――」
「一応、あのデンドロビウムが1位なのは変わらないが――」
「あの? 2人いたような気がするが」
「そうだったな。カタカナのネームがあるだろう、そっちのデンドロビウムだ」
「なる程。そう言う事か――」
ギャラリーもデンドロビウムがどちらを指しているのか――という疑問はある。
しかし、ランクを見れば一目瞭然。プレイヤーネームの色で判断する作品、称号で確認する作品もあるが、リズムゲームVSではランクで確認する。
なりすましと言われている方は、レベル10だったのも――致命的と言えるのだろうか?
(もうすぐ始まるか――)
ビスマルクが中継を見て、別のプレイヤーが参戦した事に気付く。
プレイヤーランクを見れば本物のデンドロビウムなのは明らかか。偽者の方はログイン履歴を見ると、既に――。
(プレイヤーネームを変更した場合、数日は変更できない仕様になっている。おそらく――)
プレイヤーネームを一度変更すれば、数日間の変更はリズムゲームVSでは出来ない。これにはランキング荒らし等を防止する役割があるらしいが――。
それ以外にもあるとすれば――ある意味でもネット炎上防止と言えるだろうか?
午後1時25分――デンドロビウムのプレイが始まった。特徴的なヘッドフォンを耳に装着し、集中力も高め始める。
1曲目、2曲目を難なくクリアしていく中で――リザルトは前回のプレイよりも1%上がった程度に落ち着く。
「これではハイスコアも望めないか――」
「そうは限らないだろう。決めつけるのは時期尚早だ」
「全ては3曲目で決まる」
「しかし、本当に90%台を出せるのか?」
「出さなければ1位は難しいだろう。既にムラマサが――?」
ランキングの方は既に新しいものに更新され、そこにはムラマサの名前が1位に記録されていた。
それを見たギャラリーからの歓声も、おそらく彼女には聞こえないだろう。仮に聞こえても、その声が大きく聞こえる事はない。
「「「なん、だと!?」」」
「ムラマサが――1位?」
「バーチャルゲーマーがリアルゲーマーを越えたのか?」
「リアルゲーマーって……ゲーセンでプレイする以上は全員がリアルでは?」
「しかし、動画サイト内ではバーチャルゲーマーとリアルゲーマーは棲み分けられている」
「一連の実況者を題材とした夢小説の一件から――リアル実況者が動画を投稿する事が少なくなり、やがてバーチャルゲーマーのアプリが登場した」
「こう言う流れになる事自体が宿命なのだろうな」
「しかし、バーチャルがリアルを越えるのは――SFの話だ。デンドロビウムは歴戦リズムゲーマーだぞ」
様々な議論はされるのだが、その声もデンドロビウム本人には聞こえていないだろう。
彼女にとって、こう言ったゲーム外の議論は何も生み出さない――そう感じているのかもしれない。
「運営側もクリアできないようなコースをランキングの対象にする訳がない」
他のギャラリーから若干遠目でビスマルクは様子を見ている。
彼女としては、3曲目は難関だとしても――クリア不能なコースを作る訳がないとは考えていた。
同人ゲームやフリーソフトなどであれば、ネタとしてクリア不能と思われそうな発狂譜面は存在するかもしれない。
(ユニコーンはソレをメインとしたようなフィールド出身という話もある――)
そして、ビスマルクは別に何かを考えている。ユニコーンが微妙にリズムゲームを語る時――気持ちがこもっているように感じられた。
それは――動画を見て感じた物だが、今を思えば――そう言う事なのだろう。
「全ては――3曲目で決まる、と言う事か」
デンドロビウムのプレイは、3曲目を残すのみ。
どれほどのスコアを叩き出すのか――ビスマルクは見届ける事にする。
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