10-2
ファーヴニルの隣に現れた女性――彼女はパラドクスと名乗った。
別に名乗った瀬川響(せがわ・ひびき)も本当の名前なのかどうか疑わしい――。
「あなたは――何者?」
パラドクスの顔を見ても、ファーヴニルには覚えがなく――見知らぬ第三者に声をかけられたような気分になっている。
しかし、メカクレやメガネは覚えがなくても――。
「これならどうですか?」
パラドクスがファーヴニルの言う事ももっともなので――メガネを外してみせた。
そこで、ようやくパラドクスの正体がわかったのである。
(カトレア――!?)
声には出さないが、その人物が実は過去にカトレアと名乗っていた事に気付く。
賢者のローブが印象に残り過ぎた為に、ファーヴニルも顔は覚えていなかったようである。
「分かっていただければ――それで結構です」
パラドクスは再びメガネをかけ直すが――彼女の視力が悪いわけでもない様に見えた。
それなのに――と言う事は、彼女のメガネは伊達メガネなのかもしれない。
「話があると言うのは――」
「そうですね。残っている課題は――山ほどあるのですよ」
「話が、いまひとつ見えてこないが――」
「一つの事件だけを追っていると、そうなりますね」
「アルヴィスの件だけではないのか?」
「まぁ――。リシュリューの件も、魔女狩りをしていく途中で発見したような物でしょうか」
ファーヴニルは、パラドクスの言う事に若干の不自然な部分を感じた。
彼女の言う課題とはアルヴィス事件ではないのか? それ以外に事件があるとすれば――?
「それに――今回の黒幕は、思いもしない所に――」
パラドクスは何かを伝えようとしたのだが、それを遮るかのようにギャラリーが沸きだした。
どうやら、新記録を更新したらしい。それによって、上位のスコアが変動していたのだが――。
「「これって、まさか――!」」
揃って同じ事を思い、口にするのだが――まさかのシンクロだった。
それ程に、その人物が新記録更新をした事は両者にとっても衝撃だったのである。
「これで15曲目――思った以上に難易度の高い譜面だったけど」
今までのインターネットランキングを破った人物、それはガーベラだった。
ガーベラの累計スコアはデンドロビウムよりも下に位置しており、ある意味でも――ブラックホースと言える存在だろう。
イベントでのランキングはガーベラの方がデンドロビウムを上回るのに、一種の逆転現象が起きている。
彼女が記録を更新していたのは、デンドロビウムが1位記録を保持していた譜面ばかりだ。
ある意味で、デンドロビウムの存在をリズムゲームVSから消し去りたい――そう思われても仕方のない行動でもある。
いつものコスプレ気味な衣装ではなく、今回は地味な私服と言う事もあって――ぽっちゃり体型が際立ちそうな予感もした。
それも彼女の集中力の前では――全く気にしていないのだろう。周囲は指摘したり写メを撮ってSNSへアップしようとしていたようだが。
「あと――5曲」
若干息づかいが荒く、疲れも見えているような――。それでもガーベラはラストとなる3曲目の曲を選曲し始めている。
疲労がピークと言う訳ではないのだが、疲れている状態でプレイしてもスコアが上がるとは到底思えない。
(これ以上――デンドロビウムに遅れをとる訳には)
イベントのランキングでは上のはずなのに、そちらとは関係のない楽曲ではデンドロビウムにリードされている。
その状況がガーベラには許せなかったのだろうか――タブレットを操作する手も、通常のプレイよりも荒く見えていた。
今のガーベラには、デンドロビウムのスコアを破ることしか考えていないようにも感じ取れる――その様子は何かに取りつかれたプレイヤーに重なったという。
【ガーベラの様子がおかしい】
【イベントランキングは1位なのに?】
【まるで、何かに――】
【何かって?】
【それが分かれば苦労はしない。仮にデンドロビウムだとすれば、イベントのスコアでは大きく差が開いているはずだ】
【しかし、デンドロビウムはイベントの楽曲を1曲だけ放置気味にしている】
【それだ。何故、彼女はあの楽曲だけプレイしないのか】
【解禁していないだけか――それとも、アーティスト的な事情?】
【アーティストはあり得ないだろう。大手芸能事務所のアイドルがいないのに――】
【もっと別の理由があるとすれば、イベントまで手が回らないと言う事だが】
【別のリズムゲームもプレイしている彼女ならば、それが有力だな】
ガーベラの不調は、早速SNS上に拡散し――話題となっていた。
彼女としても、こう言う拡散は不本意かもしれないが、これに関して言えば自業自得と言えるだろう。
常に全力を見せるのはゲーマーでもバーチャルゲーマーでも同じだ。しかし、それは体調が万全の場合である。
体調こそは万全だったが、連続プレイが重なった結果として――今回の不調につながったのかもしれない。
大きく炎上しなかったのは、彼女がプレイの順番は守っていた事だろう。
連コインは筺体的な事情で不可能とはいえ、仮にやっていたら――炎上不可避なのは間違いない。それは、デンドロビウムがやっても同じ事になる。
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