第10話「反撃のターンへ」


 ゴールデンウィークが空けた5月6日、『オケアノス・ワン』草加店の混雑は休日の時よりも緩和されているが――盛り上がりは変わらない。

それ位に来店しているゲーマーが――と言う事なのだろうか? その他の店舗も来店者数は多いので、草加店だけの現象ではないらしいが。

センターモニターのプレイを見て一喜一憂するプレイヤーもいれば、有名プレイヤーと交流するファンもいたりする。

(本来は、これが理想形なのだが――それをさせてくれないようなSNSテロ等の事案を――)

 相変わらずの受付近くの監視カメラモニターという定位置で様子を見ているのが、タチバナの日常になりつつあった。

彼としては、ネット炎上や一連のリアル襲撃事件と言った物が、こうした交流を出来なくしているとも考えている。

草加市内では様々な条例が機能して、交流を可能としているのだが――それを他のエリアに拡散するには課題が多すぎるだろう。

「なかなか面白い事になっている――」

 クノイチの姿で店内に現れたのは、ファーヴニルだった。

彼女は様々なゲーマーが交流している現場を目撃し、これが本当の意味で理想と言えるコンテンツ流通の姿と確信する。

「これが本来の理想――」

 しかし、それは草加市内の条例等によるご都合主義もまざっているかもしれないし――その他のエリアでは遠い未来なのかもしれない。

彼女の涙は、もしかすると――。

「悲しいムードは似合いませんよ。まだ――残っている課題はあります」

 ファーヴニルの隣に姿を見せたのは、メカクレの銀髪、メカクレなのに眼鏡をかけており――服装も明らかに現代風だ。

それに加えて、身長169センチの割には――貧乳かもしれないとファーヴニルは自分の胸を見て思う。

「名乗るのを忘れていましたね。私は瀬川響――パラドクスと名乗っていますが、過去には――」

瀬川響(せがわ・ひびき)、そう彼女は名乗り、更にはパラドクスとも名乗っていると明言する。

しかし、ファーヴニルには覚えがない。パラドクスとは何者なのか?



 アルヴィス事件は、別の意味でも傷跡を残していた。

【イースポーツそのものにも黄色信号が点滅しつつあるようだな】

【全てはアルヴィスが起こしたアレか】

【SNSテロとは違うが――向こうは一連の事件が致命的と考えていそうだ】

【超有名アイドル商法の亡霊を駆逐したと思ったら、今度はこっちなのか――】

【やはり、芸能事務所が自分たち以外のコンテンツは自分達にとってのかませとしか考えていない――その考えが覆らない限りは】

【WEB小説で書かれている事はフィクションじゃないのか?】

【あれを現実化させようとしていたのは――芸能事務所ではない。むしろ、アレは芸能事務所にとってイメージを悪くする物だ】

【じゃあ――実行しているのは誰なのか?】

 WEB小説の内容を現実化させて不利になるのは芸能事務所側だ。

むしろ、あの内容は―芸能事務所が利益優先でコンテンツを大量生産していると色眼鏡で見ている様な作品であり――。

(本当の元凶は――別にいる?)

 この事実にいち早く気付いたのはビスマルクである。その一方で、現状の彼女では――元凶の正体には気づいていない。

一体、この事件を起こしたのは誰なのか? 仮に気付いたとしても――その人物を発見できるのか?

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