8-4


 午後2時――その決着は予想通りと言うべき展開になっていた。

「リズムゲームに愛を感じない者に――この私は負けない!」

 そのビスマルクが放った一言が全てを説明するに適した言葉とも言える。

実際、アルヴィスのプレイは初見プレイとしては悪くなかったのだが――そのプレイスタイルには周囲を沸かせるような要素はなかった。

対するビスマルクは――言うまでもないだろう。リアルチートとは別の意味で、ビスマルクはアルヴィスに対し圧倒的なプレイで勝利したのである。

『馬鹿な――プロゲーマーの場数は、お前が以前に戦ったなりすましのリシュリューよりも上のはずだ』

「それがお前の敗因だ。小手先だけでのデータだけで勝てると思ったのか――」

『不正データやチートを駆使して勝ったとしてもむなしいだけだ。だからこその――』

「チートを使わなかった事だけは褒めるべきか」

 ビスマルクの視線はアルヴィスの方には全く向けられていない。

それを見たアルヴィスも逆ギレまがいに思いをぶつけるのだが、全く振り向くような気配もなかった。

『ここまでだと言うのか――』

 結局、アルヴィスの言うイースポーツに対する思いもこの程度なのか――と切り捨てるような気配もする。

その後は――アルヴィスが『オケアノス・ワン』を後にするのだが、それをビスマルクが見送るような事はなかったと言う。

(リズムゲームの特殊性を盾にして、様々な勢力が論戦を繰り返す――議論をするのが悪いとは言わないが、意味を履き違えている人間が多すぎる)

 プレイが終了したビスマルクも、筺体から離れていく。その後にはセンターモニターの方へ近寄り、リズムゲームVSのエントリーを行っていた。

結局、彼女の思いはアルヴィスに伝わったのか? 今回の事が原因で新たなネット炎上が起こるかもしれない――そう思っている。



『イースポーツの環境は激化しつつある。それに日本が遅れてしまうかどうかは――プレイヤー次第なのかもしれない』

 その日の夜、動画サイトではバーチャルゲーマーのユニコーンが何時もとは別の表情でオープニングトークをしている。

これに関しては周囲も驚いていたのだが――。

『日本でバーチャルゲーマーが拡散したのは、単純に実在実況者が夢小説の題材にされる現状を踏まえた一種のプライバシー対策――そう考えていた時期もあった』

『しかし、本当にそうだったのか? バーチャル動画投稿者は今に始まった技術ではない。むしろ、こう言った使われ方も想定されていたはずだろう』

『中には芸能事務所とのタイアップで売りに出そうとする様な存在もいるかもしれないが――それ自体を非難するべきではないと思う』

『仮にそこだけを非難すれば――別の意味でも日本のコンテンツ流通は立ち行かなくなるし、一部のアイドル投資家の様な存在を生み出す事にもなるだろうか』

『私たちは岐路に立たされているのかもしれない。バーチャルゲーマーが、そこで終わるのか――更に発展できるのかを』

 ここまでシリアスな話し方でユニコーンは語りかけていた。何時もの動画を期待しているユーザーからは目が点になっている状態――。

一応、彼女が言いたい事も視聴者は理解できる。ユニコーンの考え方自体には反対するユーザーもいる事はいて、抵抗活動も確認されていた。

しかし、些細な抵抗は焼け石に水だと認識しており――無意味な事をユーザーも認識しているである。



 リズムゲームVSのブレイクする前――デンドロビウムの動画に注目度はさほど集まっていなかった。

地下アイドルとか――その辺りを連想させるような状態だったのは言うまでもない。

むしろ、彼女が注目され始めたのは『デミゲーマー』でも『リズムゲームVS』でもなかった。

「これが彼女――デンドロビウムだと言うのか?」

 動画に映っていた女性――外見は若干違えど、特徴はデンドロビウムと変わりがない。

彼女がプレイしていたのはリズムゲームVSの前バージョンだと言う事が、ゲーム画面を見れば丸わかりだろう。

しかし、本当にそれだけが――彼女を特定できたきっかけなのか?

「今のバージョンより以前から――」

 動画を見ていたビスマルクは、何かの違和感を感じている。

本当に、彼女は初めから最強と言うリズムゲーマーだったのか? 自分達とは違う次元に生きていたゲーマーが転生したのでは――と。

その考えが馬鹿馬鹿しく思えたのは、リシュリュー事件やアルヴィスと対戦して――そう感じ始めたというのもある。

 ある意味でも、彼女はデンドロビウムのプレイを見て思い知った。

そのスキルは――今までのリズムゲームをプレイしてきて蓄えてきた経験なのだ、と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る