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 3月15日、別のゲーセン等に遠征している関係で『オケアノス・ワン』草加店に足を運んでいなかった人物がいた。

それは――南雲(なぐも)ヒカリである。ここ最近は据え置き型のリズムゲームをプレイしていた関係もあるかもしれない。

一部のゲームではバージョンアップがされており、筺体配置も変化している様子だが――リズムゲームVSは、やはりというか定位置をキープしている。

下手に位置を変更しても意味がないと考えているのか、他の機種を移動している関係で動かせないのか。この辺りの真相は不明と言ってもいい。

 この辺りはオーナーであるタチバナが話す訳もないだろう。

南雲自身、タチバナとは面識はないが――遠目で見る程度には顔は知っている程度だ。

「なるほど――こういう状況か」

 一応、ユニコーンの参戦に関しては把握済みであり――そこまで情報を仕入れていなかった訳ではない。

ただし――ランキングはノータッチだったらしく、ガーベラのスコアに関しては驚く部分もあった。

こういうときは現地のセンターモニターをチェックするに限るだろうか?

インターネットでも検索は出来るが、こちらでは全国の店舗が対象の関係で情報を絞った検索には向かない。

不可能と言う訳ではなく、やろうと思えば出来なくはないのだが――ここに関しては月額の課金要素となる。

月額課金に手が出せない訳ではない。しかし、そこまでしてプレイ仕様と言う訳ではなく――現段階ではそこまでする必要性がないという事だろう。

「ここ最近は別のゲーセンへ行っていたが、ここまで変化していたとは――予想外と言うべきなのか」

 彼女としてもライバルプレイヤーが増えている事には驚くのだが、不安と言う印象は一切持っていない。

逆に強力なライバルが出現すると言うのは、リズムゲームでは逆に有利とも言える状況となる。

 格闘ゲーム等の対戦要素が強く絡むゲームでは、一方的に負けることだってあるだろう。しかし、リズムゲームではスコア以外で影響する要素は少ない。

一部のリズムゲームではイベントなども実装されていて、そこで差を付けられるかもしれないが――リズムゲームVSで該当するようなイベントは実施されていなかった。

 しかし、注目するべき場所は――別にもあった。いつの間にか、リズムゲームVSでアップデートがされていたのである。

アップデートは基本的にイベントが始まる予兆という認識がリズムゲームのプレイヤーにはあった。よほどの機種出ない限り、そう言う認識で通じているのだが――。

今までイベントの『イ』の時すら出てきていないような機種で、一体何が始まるのか?

 他のプレイヤーも若干集まり始め、南雲は他のプレイヤーに場所を譲る事にした。

肝心のシステム更新等は、タブレット端末でメッセージとして表示されるので問題はないと考えての事である。

インターネットランキングは始まっているのだが、一部プレイヤーにとっては蚊帳の外状態なので――誰でも参加できるようなイベントとは違うだろう。



 順番待ちに入る前、南雲はタブレット端末で更新データの確認をする事にした。

プレイヤーがさほど集まっていない事を踏まえての行動だが、その内容には驚くべき記述があったのである。

《現在使用されている一部システムに関しては、諸般の事情により一時停止する事になりました》

 この記述を見ても南雲は衝撃を受けていない。ここで記載されているシステムは彼女にとっては元々ないに等しいような物だ。

様々なリズムゲームを渡り歩いていた彼女にとって、ある意味でも公式チートとネット上でも言われているスキルシステムは――。

 しかし、この状況に納得しない人物もいるのは確かだろう。

そういったリズムゲームをプレイしてきたプレイヤーからは不満の声もある。

【あのシステムって、何処かのメーカーが独占していたのか?】

【MVとしてアバターを使うのは、他のゲームでもあるだろう。それこそ、独占したとなれば多くのゲームが著作権侵害でアウトだぞ?】

【じゃあ、アバターを動かして演奏する箇所か?】

【アバターではないが、レースフィールドを走るパルクール的な物ならば過去にはあった。しかし、そのメーカーが訴えるとは思えない】

【大手? 大手が訴えたのか?】

【アバターは他社ゲームでは? つぶやきの引用ミスと見せかけた炎上戦法か?】

【今回の止められているのはスキルシステムだろう。これは下手に知らないプレイヤーが見たら、まとめサイトや企業の運営するつぶやきまとめに引用されてアウトでは?】

 つぶやきのタイムラインでも、この一件はトップニュースとなった。

リズムゲームVS側の判断ミスと言うよりは、むしろ別メーカーにもジャンル被りの疑いがあるのだが――。

しかし、アバターシステムはリズムゲームVS以外の作品で使用されているシステムであり、今回の一件とは関係ない。

もしかすると――炎上狙いで意図的につぶやきコピペで引用しているのだろう。



 同タイミングで草加駅にいた人物は、今回の更新に関して慌てていたのである。

これに関しては、自分の知らない場所で行われており――想定外と言わざるを得ない。

《現在使用されているシステムに関しては、諸般の事情により一時停止する事になりました》

「予想外だったと言うか――」

 キッズ向けの要素をリズムゲームに組み込んだはずが、まさかの初心者救済枠のスキルシステムを停止されるとは――。

そこに気付かなかった人物、それが真田(さなだ)ソラだった。彼女としてはいくつかの人気リズムゲームをピックアップし、そこから被りがない事は確認したはず。

自分も――このメッセージを草加駅に設置されたARゲーム用のセンターモニターで気付かなければ、ここまでの反応はしない。

「大至急、洗い出しを行って――」

 しかし、彼女は見落としてしまったのである。マイナー作品もチェックし、そこの権利を侵害していないか確認するべきだったのだ。

一歩間違えればパクリと言う事で炎上する事は必至だ。その為、類似システムを用いているリズムゲームを調べるように指示をしたが――。

果たして、このタイミングで電話連絡して問題はないのか? 仮に脅迫状やネットのまとめサイト、それこそ炎上系アフィリエイトサイトの情報を鵜呑みにしたとしたら――?

そして、こうした炎上商法が大手企業による罠だとしたら? 様々な憶測をしたとしても――おそらくは時間の無駄だろう。

(こちらとしては下手に炎上はさせたくない。リズムゲームのジャンル自体がオワコンとレッテル貼りされるのは避けないと――)

 真田としては、何としても炎上案件にはしたくない事情がある。リズムゲームVSをサービス途中で終了にするのは簡単だろう。

しかし、今までプレイしてくれたファンにはどう謝罪を行うのか? それこそ、損害も計り知れないのではないか――。

彼女にはリズムゲームを再び盛り上げようと言う理由も、リズムゲームVSを制作するきっかけになったのは間違いない。

この状況を打開する為にはどうするべきか――。

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