1-2

「そうは言うが――我々にも責任と言う物がある。そこは理解して欲しい」

 アミューズメント施設『オケアノス・ワン』草加店のオーナーは、バーチャルゲーマーの村正(むらまさ)マサムネに頭を下げてお詫びをする。

その理由は、パパラッチやネット炎上勢力まがいの行動を起こした男性客が行った盗撮行為にあった。

 基本的にARゲームを扱っている施設では通常のスマホはジャミングで使用不可になっているのだが、彼が使用していたのはガワがスマホなのは確かであるが――実際には違う物である。

これだけ高度な――と言うよりもチートまがいのガジェットが流通していた事実にも驚くしかない。やはり、こうしたチートを根絶する事がゲーム業界にとっても重要な事なのだろうか?

「――さて、どうした物か」

 紺色系統のスク水を着用しているムラマサは腕組みをしながら、悩んでいるようでもあるが――まさかのチートガジェットが使われていた事実に動揺を隠しきれない。

彼女としても、今回の行為に関して責任を感じている。ファンの民度低下が色々とネット上で叩かれる原因となり、もはや大手芸能事務所以外は排除されて当然な流れもあった。

そこまでの空気になっていたのは過去の時代であり、今は――そこまで特定芸能事務所ばかりが優遇される事はない。

そう言った手法が海外で大炎上し、芸能事務所側が海外撤退を宣言したからである。

(しかし、今も昔も――ネットアイドルや2.5次元に厳しいのは確かか。あの芸能事務所がゴリ押し商法を続ける限りは――)

(私たちは特定芸能事務所のかませ犬ではない――それを証明する為には――)

 数分ほどムラマサは黙り込み、その様子は周囲のギャラリーも不安にさせていた。

下手をしたら、彼女が暴走して炎上してしまうのではないか――そうとも考えているギャラリーもいたのである。

「とりあえず、今回の件は――お互いさまと言う事にしましょう」

 ムラマサの提案もあり、オーナーもそれを了承――結局は、お互いの意見を尊重しつつ譲歩した結果なのかもしれない。

系列店側でもルールを厳密に守るよう注意喚起をする事で、一応の決着が図られた形だろう。

(どちらにしても、あのチートガジェットは放置できないけど――専門家に任せた方がよさそうね)

 ムラマサとしてもチートガジェットの一件は放置できない。

純粋にゲームを楽しめなくなった環境を生み出した元凶が、こうしたチートを使ってのプレイであるとネット上でも言及されている。

しかし、単純にチートばかりを叩くのは――何か違うとも考えていた。それを手にして使用する方が悪いとも言えるのだが。

 謝罪が終わると、オーナーの方は別の場所へと向かっていた。おそらくは受付にでも呼ばれたのだろうか?

彼はこの店舗のオーナーなので、忙しいのは――ムラマサではなくても把握できるだろう。

(まずは――?)

 そんな一連のやり取りをしている間にも、ムラマサは先ほどのプレイヤーを見失っていた。

リズムゲームVSでコンプコンボを達成できるプレイヤーなんて一握りしかいない。

このゲームに限った話ではないが、リズムゲームでフルコンボはある程度の技術があれば何とかなるが、理論値に関しては容易ではないだろう。

それを初見プレイで達成したら、それこそリアルチートとネットが騒ぎかねない状況である。



 しかも、彼女がコンボを達成した難易度は――ムラマサが懸念している事を見事に的中させる物。

つまりは――。

「おいおい、難易度のレベルを見忘れていたが――」

「ソレは俺も思った。難易度5辺りまでならば、熟練プレイヤーでもコンプコンボは出来るだろう」

「あの機種だとフルコンボは出来ても、エクセレントクラスは放置するのが常識――粘着をして調子を崩す方が逆に危険だと聞く」

「上級難易度しかプレイしないようなプレイヤーと違って、彼女は低難易度も重視していた。まさか――?」

 センターモニターでは過去の記録をさかのぼって、ハイスコア達成者をチェックできる。

そこから本日のプレイ履歴からさかのぼった結果、彼女がコンプコンボを叩き出した難易度が判明した。

【レベル8】

 周囲のギャラリーの声を聞き、ムラマサはセンターモニターの場所まで向かうのだが――そこで目撃したのは衝撃の事実だった。

まさか、上級難易度に近いと言われるレベル8譜面をコンプコンボでクリアする光景を見逃してしまうとは――そこに関しては悔しい物がある。

それだけの実力者であれば、直接会って話をしたかった―ーとも思っていた。せっかくのチャンスは、失われたのである。



 リズムゲームVSのゲーム画面は、7つの縦ラインからノーツと呼ばれる物が上から下に向かって流れてくる。

流れてくるノーツをタイミングよく捌く事で、流れてくるノーツの色が変化し、黄(パーフェクト)、青(グッド)、黒(ミス)でスコアが変化していく。

大抵のリズムゲームが良判定と失敗判定、その中間の普通判定でスコア計算する機種が多く、判定が良と失敗だけは少なくなっていた。

これも時代の流れなのかもしれないが――。

「まさか、レベル8を――あのカスタマイズで突破するのも初めて見た」

「そう言えば、そうだな。スコア系とかコンボ系のスキルを付けるプレイヤーが多いのに――」

「ゲームによってはハード判定や超高速で動くマーカーにも匹敵すると言う――スキルなしプレイを、このゲームで行うとは」

 周囲の声を聞き、ムラマサは耳を疑う。スキルと言う単語に、カードゲームか何かか――と。

ある程度は知識をかじっているような単語が出てくるのであれば、このゲームはプレイできそうだ――そう考えている。

「このゲームって、ジャンルは何かしら?」

 すぐにでもプレイしたい気持ちが沸いてきたムラマサは、男性プレイヤーの一人にこのゲームのジャンルを尋ねたのである。

その答えは――彼女が凍りつくような反応になるのも当然なジャンルだった。

「リズムゲーム――ネット上では音楽ゲームとも言われているジャンルだ」

 彼の発言を聞き、もう一度ジャンルを尋ねようとしたのだが――大事な事なので二回言いました的なオチも見えている。

まずは――リズムゲームVSは混雑しているので、周囲を見回して他の類似ゲームで体感する事にした。

『オケアノス・ワン』ではリズムゲームを豊富に扱っている店舗もあり、草加にあるこの店舗もリズムゲームでは草加市内で最大に近い。

ギター、ドラム、太鼓――と言った実在する楽器をベースにした機種もあれば、ボタンをタイミング良く叩く物、画面をタッチするタイプ――色々とあった。

悩んでも仕方がないので、待ちプレイヤーがいない機種をプレイする方向にした。待機列に並ぶだけでも時間の無駄ではないが、より多くの機種をプレイしたい事情もある。

本来の目的は、リズムゲームではなくて別のゲームなのだが――ムラマサは、すっかり目的を見失っていた。



 ギャラリーの一部もムラマサの出現には驚きの声もあった。

彼女は動画サイト内でも有名プレイヤーだが、リズムゲームにはノータッチだったはずだからである。

「リズムゲーマーと言えば、もっと違う人物な気配もしたが」

「ユニコーンはどちらかと言うとキャラゲーとか――そっち分野だよね」

「リズムゲームが得意なバーチャルゲーマーって――思い当たるのがいないな」

「有名所がいないだけだろう? ルーキーのバーチャルゲーマーならば数人いるかもしれない」

 タブレット端末でバーチャルゲーマーを扱うサイトを見ていた男性は、ムラマサが違うジャンル出身である事をサイトを見て知った。

隣の男性もムラマサは知っていたが、バーチャルゲーマーに関してはあまり知識がない。下手にニワカで物を騙ると炎上しかねないので、サイトで情報を収集している。

「ルーキーでも数えるほどだ。バーチャルゲーマーと言っても、実況者にバーチャルアイドルを足したような物――実況者のナマモノ夢小説対策でしかない」

 ある発言をした男性に対し、その様子を見ていたある人物が近寄って来た。

「そう言うニワカ発言は――あまりここで堂々と見せびらかす者じゃないと思うけどね」

 その人物は緑色のミディアムヘアー、頭には2本のアンテナっぽいアホ毛――それを彼女は右手で弾きながら、近寄って来たのである。


「お前は、まさか――」

 男性が後ろを振り向くと同時に、彼はとんでもない人物に喧嘩を売ってしまったと理解して途中で言葉を濁らせた。

厳密に言えば、言葉が出なくなったのが正しいか? 目の前の人物は――露出度は高くないが、くのいちのような外見をしている。

その姿でブルーライト対策の丸眼鏡デザインサングラス――ギャップ萌えでも狙っているのだろうか?

(馬鹿な――あいつが、ここに来るのは考えられない)

(別人のコスプレ――そうだ、アレは素人コスプレイヤーだ。そうに違いない)

 二人とも言葉を失っていたが、これ以上の騒動を起こせば出入り禁止は避けられないと感じているのは間違いない。

その二人が取った行動は、その場から逃げることである。結局、彼女も追跡はしないので逃げられたのだが。

(この衣装がまずかったのかな――)

 くのいちの彼女は、色々と思う部分はありつつも――少し顔を赤くしてその場を後にした。

『オケアノス・ワン』草加店内には、コスプレイヤーの更衣室もあったりするのだが――彼女は草加市内でコスプレが許可されている条例を逆手にとり、自宅からこの姿で来店している。

(せっかくここまで来た以上は、何かプレイ出来るゲームを――)

 その彼女の眼にとまったのも――リズムゲームVSだった。

リズムゲームの知識は皆無に近いのだが、物は試しでトライしようと考える。

 しかし、センターモニターに添付されているインストカードには――。

《プレイされる方は、受付にて専用コントローラをレンタルしてください》

 ゲームの筺体に視線を向けると、タブレット端末と思わしき物を接続してプレイしているように見える。

そして、それが専用コントローラなのは把握出来るだろう。しかし、レンタルとは――どういう事か?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る