始まりの軍師~剣は貴方に心は彼女に~

安芸空希

プロローグ 夢を語るは一人の子供

第1話 始まりの書庫

 書庫の片隅で同じ年頃の子供が座り込んでいた。

 家族に見つからないようにこっそりと。まるで二人だけの秘密といった様子で、本を覗きこんでいる。


「騎士の剣が『まもの』をきりさいた」

 

 内容は騎士が活躍する絵物語。スカートを履いた子供が、文字を指でなぞりながら声に出している。

 どうやら、もう一人に字の読み方を教えているようだ。


「そうして、騎士はお姫さまとしあわせにくらしましたとさ」

 

 読み終えると、一繋ぎのボロを纏った子供が膝を付いて頭を下げる。

 ――と、傍に置いてあった玩具の剣がその肩を叩いた。


「――ゆるす!」

 物語と同じ台詞を口にして、子供はスカートを楽しそうに揺らす。

「これで、きみも騎士のいちいんだ!」


「……ぼくが、騎士?」

「そうだといいな。わたしは騎士になんてなりたくないから。おまえが、かわりになってくれればいいのに」

「それは……むり、ですよ。だってぼくは……」

「そんなことないよ。戦でかつやくして、じぶんの主をみつけることができれば、だれだって騎士になれるんだから」

 

 一人は何度もスカートを翻しながらあっけらかんと、もう一人はひたすら困った様子であたふたと。

 そんな微笑ましいやり取りも、大人の一声でおしまいとなる。


「――おいっ、リンク!」


「やばいっ! よばれてる」

 しかし、声の響きからまだ逃げられると子供たちは走り出した。


「えっ? いいんですか?」

「いいのー」

 

 一方が手を掴んだので、二人は足踏みを揃える。

 絵物語の結末のように、向かう先が幸せに通じていると信じて―― 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る