乾杯はふたりで

@chiezou1222

第1話 聞いて欲しいの、今。

 京王線が人身事故で止まってる。

 香織は職場が新宿の西口はずれで母が経営しているブティックで

ちょっとした経理と接客をしている。

 「19時38分・・間に合わないかな。」

 親友のゆかりとは20時に代田橋のお蕎麦屋さんで

待ち合わせている。

 新宿から各駅停車で2駅。

 タクシーでも2000円位。

 「どうしても話したいなんて・・珍しいんだから急ぎますかっ」

  西口ロータリーから混んでいる優良タクシー乗り場を避けて、

普通車のレーンに並び10分位で自分の配車が来た。

 「代田橋まで、甲州街道沿いで降ろてくださいますか?」

 静かに「畏まりました」とアクセルを踏んだ横顔はおおよそ40代の

女性。

 香織は先月38歳の誕生日を迎え、そしてちょっと遅めの入籍を

したばかり。

 私も一人で居たら、どうしてたのかな?

 ちょっと前なら笑えないわね・・・。

 真一とこんなに早く一緒に居るようになるなんて

自分でも驚いているし、まあ、38歳嫁に行けと急かされてもいたのだけど。


 来月は彼の工房がある益子に越さなければならない。

 『知らない土地でやっていけるかしら?」

 思わず声に出してしまい、不安が少し募る。


 「お客様、そろそろ代田橋に着きますがどのあたりに?」

 「駅の手前の歩道橋あたりで」

 「このあたりでよろしいですか?」

 「ありがとうございます。領収書頂けますか?」

 忘れ物をしたときに等、必ず領収書をもらう事にしているのは

母の習慣で香織もいつの間にかそうしている。


 歩道橋を渡り、目当ての店に着いたのは20時10分。

 遅れちゃったけど・・タクシーで急いだんだから許してね、ゆかり。

 あまり看板の無いお店の扉を開けながら

 「こんばんわ、今日は待ち合わせなんですが」

 「あら、久しぶり、お待ちかねですよ」

 と、いつもの元気なおかみさんが声をかけてくれた。


 「遅くなってゴメン!人身事故で電車止まってて、車で来たよー」

 「タクシー?かえってゴメン!半分払うよ」

 「いいのいいの、話あるっていうからさ、気になっちゃって、(笑)」

 「・・・。あんまり良い話かどうか・・。香織には聞いて欲しくて」

 「ちょっと待って、取り敢えず生ビール頼んでからねっ」

 キンキンに冷えた陶器のグラスに冷たいビールは絹のような泡の下に

見えないけど、二人は

 「かんぱーい」

 ごくごくって、アラフォー二人で飲み干した。

 「で、話って?」

 

 

 

 


 

 

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