転生なさる皆様へ
小曽川ちゃこ
第1話 相談窓口
☆転生なさる皆様へ
前世お疲れ様でした。
こちらのリーフレットを読んでいらっしゃる皆様は転生することが決められております。
ここではその手順と仕組みについてお知らせいたします。
転生とは、再び現世に生まれ、修練に励み徳を積むことです。徳を多く積むことで解脱し、涅槃へと旅立つことができるのです。
手順1
点数を確認し、「体」「環境」「その他オプション」に振り分けを決めましょう。
一番最後のページにある「転生先希望」書類に記入し、「転生課業務窓口」へ提出してください。
選択詳細については、各窓口にも参照用リーフレットもございます。
手順2…決裁がおりましたら、書類を持って「転生室」へ。
手順3…いざ転生
<ポイント制の仕組みについて>
皆様が前生で獲得した徳を換算したものが、ポイントとして算出されています。
これをお好きなように割り振っていただき、次の生を決定します。
「体」…次の転生体
知能の高いもの、徳を積みやすいものほど必要ポイントも高くなる傾向にあります。
「環境」…転生先の環境
良好なほど必要ポイントも高くなる傾向にあります。
こちらは転生先の周囲環境により生後すぐに変化する場合もあり、永続的な環境選択を保証するものではないことをあらかじめご了承ください。
「その他オプション」…「性別」「名前」「才能」「技能」「容姿」等
こちらは希望であり、選択を保証するものではありません。
ただしパーセントポイントを多く振っていただくことで、より希望が通りやすくなります。
以上で手順と仕組みについての説明は終了となります。
ご不明な点がございましたら、お気軽に相談窓口をご利用ください。
それでは、皆様の次の生も豊かなものとなるよう、お祈り申し上げます。
* * *
お昼休憩を終えて窓口に戻って来ると、昼当番だった茜さんがお客様対応をしていた。
「だから~、保有ポイントについてはうちは管轄外なんで、こちらに言われても困るんだってば」
席に着くと、もう一人のお昼当番である小十郎さんが、書類作成をしながらあらましを教えてくれた。
「いつものクレームでござるよ。自分は悪いことなんかしてないんだから、保有ポイントはもっとあっていいはずだっていう」
「最近、日に一人は来ますよね。どこからその自信が湧いてくるんだか」
呆れて呟いていると、茜さんがマニュアル通りの説明をするのが聞こえた。
「ポイントを決定しているのは、あなたも会った裁判官の方々なの。裁判が終わっちゃった以上、どんなクレームつけようがそのポイントもぜーったい覆んないわけ」
下界のお客様相談窓口ならば決して許されない口調と態度で、茜さんが頬杖をついてヘラヘラと笑う。
「それとさ、あなたみたいによく勘違するヤツ多いんだけど、「悪いことをしない」と「徳を積む」ってのはイコールじゃないんだよね。それは徳を積むことの一部、もしくは前提なんだよ」
それをわからないやつがよくクレームに来るのだ。
茜さんのお客様はようやく理解したのかトーンダウンし、「もういい!」と吐き捨てて去って行った。
溜息をつきながら戻ってきた茜さんに「お疲れ様です」と声をかけ、「あのお客様、何ポイントだったんですか?」と興味本位で訊いてみる。
「2000ちょっと」
「「あ~……」」
思わず小十郎さんと声がハモってしまう。やっぱり、と。
――今のお客様は、前世は人間だったのだろう。
クレームをつけてくるお客様は大抵前人間と思わしき輩だ。その行動に躊躇がないのは、前世でよく行っていたためだろう。
そして2000ポイント、というのがまた問題だ。
転生体として選べる「人間」の必要ポイントが丁度2000なのだ。
人は大抵次も人を選ぶ。が、それでポイントのほとんどを使い切ってしまうため、他のオプションがまるでつけられない。つまり、人としては転生できても、どんな国のどんな環境に生まれるかは全く運任せとなる。
現世の現状を知っている者ならば、それがいかにリスキーかわかるだろう。
「欲は尽きませんよねえ」
「だな~。待たせたな、小十郎。休憩行こうぜ」
「応。しかし小毬は?遅いでござるな」
「さっき係長と一緒に課長に掴まったんです。話長そうだから私だけ先に来たんですよ。大丈夫なんで、お昼行ってください」
「んじゃ、悪ィな。あとよろしく」
「行ってくるでござる」
二人を見送り、仕事に戻る。
この相談窓口係は、総勢7名の小さな部署だ。
本来の仕事は、転生に悩むお客様の相談に乗ったり、アドバイスをしたり、資料を提示するというもの。そしてそのために現世を調査したり、資料作成をしている。
のんびりと見えて、それなりに忙しい部署なのだ。
かく言う私も、一昨日から取り掛かっている資料作成のため、図書室から借りてきた本を片手に悪戦苦闘している最中であった。
「ただいま戻りましたー」
「やあ、遅くなってすまないね」
小毬さんと係長が揃って戻ってくる。ふと時計を見れば、2時近くになっていた。
「課長のお話、随分かかりましたね」
すると小毬さんがうんざりしきった顔で頷いた。
「ほんとだよ。お昼からノンストップで喋り続けてさぁ、切り上げるタイミングことごとく外されちゃってさ」
私がいた時は経費削減に伴う愚痴だったが、それから延々続いていたのだろうか?
「うちの視察を減らせないかって経理からちくちく突かれてるって話でしたよね?」
「そう。そんで一人異動させようかとかいう案も出てるんだって。業務窓口に」
業務窓口は転生先希望届の受理と、決済書類の返却窓口だ。
確かに多くのお客様がいらっしゃるから窓口も大きく、職員も多いが。
「今更一人くらい動かしたところで、って思いますけど」
率直な感想を述べると、係長も我が意を得たりとばかりに大きく頷いた。
「100人強の部署にプラス一人と、7人のところから一人削減するのと。どう考えても前者の効率アップよりも後者の効率ダウンのが大きいからねえ」
「ですよね。それに視察減らすって言ってもニーズに応えるためにはどうしても必要じゃないですか」
思わず拳を握った時、「あのぅ、すみません……」と控えめな声が投げかけられた。
「あ、すみません」
慌てて窓口へ向かう。
目の前にいるのはぼんやりと光る人のような形状の存在。このフロアをうろついているお客様は全てこのような容姿をしている。
元人であろうと元猫であろうとも、みんな同様の姿であることから、これが魂本来の姿だと言われている。
表情もないので、見慣れるまではちょっと不気味に思っていた。
ちなみに、ここで働いている職員は全員人の姿をしている。作業をこなすにはやはり人の姿が最適なのだ。
「お待たせしました。ご相談ですか?」
「はい。あの……ここの、転生体のその他って、どんなのですか?」
これはわりとポピュラーな質問だ。
転生体の項目には「植物類」「人類」「哺乳類」「鳥類」「両生類」「爬虫類」「魚類」「昆虫類」があり、それ以外を「その他」と大雑把に分類している。
「その他」が気になって尋ねてくるお客様は割と多い。そして皆様一様に、過剰な期待をしてくるのだ。
「もしかして妖精とかあるんですか!?」
こんな風に。
「あー……それはないですねぇ」
正確には、あるにはある。のだけれど、妖精やら精霊やらの少し高次な生命体は総じて長命で、なかなか空きが出ない。出たとしても必要ポイントが5000以上となるため、保有ポイントが上回っている方のみに別途通知しているのだ。
では実際「その他」に含まれるのはどんなものかと言うと、「微生物」「菌類」など。
「菌類、ですか?」
「種類豊富ですごく短い一生なんで、好んでリピートしてる方もいらっしゃいますよ。以前日本でその手の本が流行った時は、やっぱり選ぶ方増えましたね〜」
流行りに乗って、と言うと軽佻浮薄のように聞こえるが、選択肢が増えること自体はいい事だと思う。
とはいえ、その手の流行りに関しての質問に我々が答えられないというのは問題であるからして、現世の、特に日本への視察は欠かせないのだ。
「あ、あとはUMAとかならありますよ」
「UMA!?」
これもわりと訊かれることが多い。
こっちは単に希少だったり特殊変異だったりするので、多少値は張るが、選択肢に入っているのだ。ただし少数枠なので、やはり場合によっては選択できないこともある。
「今空いてるのはツチノコとビッグフットとイエティですね」
「本当にいるんだ!?」
「ビッグフットとイエティは今の時代ではわりと住みづらいみたいで、リピーターが少ないんですよ」
「あぁ、いたら本格的に追いかける人多そうですもんね」
「捕獲機具とか追跡手段とか発達しているんで逃げるのも大変らしいです。あと仲間がほぼいないんで、ふとした時にさみしさに襲われるそうです」
これは実際現在潜伏中のイエティさんに取材して得た感想だ。
「こちらがイエティさんの体験談です」
体験談をまとめた資料を開いて見せる。イエティの日常やら苦労話が事細かに記載されている。
茜さんが視察で取材したものだが、曰く、他人と話すのが久し振りすぎて、へんなテンションになって喋りまくってくれたらしい。写真で、ダブルピースを決めて満面の笑みを浮かべている彼?を見ると、なんとも複雑な気持ちになる。
「その点、ツチノコはまだ隠れやすいし、蛇友もいるから生活しやすいらしいですよ」
「はぁ……というか、イエティって日本にいないですよね?」
「はい。ヒマラヤ山脈ですね。死後の管理は亡くなった国や地域、宗教観でそれぞれの所轄に振り分けられるんですが、転生先は現代の地球全域なんです。なので次の転生先環境で細かい選択項目があるんです」
「あ、なるほど」
転生先環境欄には国や気候地帯、海域など色々な項目がある。だがこれはあくまでも生まれた時の環境であり、その後突然変化する場合もある。
人であれば、豊かな国に生まれたはずが、翌日突然天災で過酷な状況に陥る、なんてことも有り得るのだ。
「結構運任せなんですね」
「私達ができるのは転生のお手伝いでして、現世の社会や自然環境をコントロールすることはできないですから。その辺はご理解いただければと」
「じゃあこの次のオプションも、選んでもそうなるかわからないんですか?」
「名前」「性別」「才能」「容姿」など、こちらも選択肢は数あるが、これ自体が元々50%くらいの確率になっている。
これも例えば名前を決めておいても、両親が強固にこの名前がいい!と決定してしまうことがある。
しかしこのパーセンテージをあげることはできる。
「ここのパーセンテージアップの欄で100%まで上げていただくと、それは必ず成就されます」
「へえ。じゃあIQ200とかにして100%にすれば、絶対にそうなるんですか?」
「なります」
環境と違い、これは個人設定であるため可能なのだ。
「容姿で美人を選べば、美人にもなれる?」
「あ~それはちょっと特殊でして、国や地域、時代や流行なんかで変わるので定義がちょっと難しく、美人という項目はないんです。容姿で選べるのは髪の色とか目の色などのパーツで、そこでお好みの顔にすることはできます。後は才能の「魅力」項目を選択してパーセンテージ振ってもらえば、モテモテになります。かといってそれが万国共通の美人かと言われるとそれは微妙ではあります」
「そういうことですか」
ここまでの話を聞いていて、流れがなんとなく見えてくる。
「お客様は、美人の日本人に転生を望まれているんですね」
「!!」
表情のないはずの顔の部分に、照れているような表情が見える気がする。
「わかります。私だって転生するなら美人の方がいいですもん」
「……私、多分前世はブスだったんです」
転生待機中の方は皆、前世の記憶はあやふやになっている。よく覚えているのは楽しかった記憶、と辛かったであろう記憶の輪郭。
「そのことを考えると、なんとなくざわざわした気持ちになるんです」
辛かったこと自体の記憶は消えている。だからそれがあっただろうという抜け殻だけが残っているのだ。
「お辛かったですね」
労うと、意外にもお客様は微笑んだような気配がした。
「いえ、幸せでした。最期まで看取ってもらえて、また一緒になろうって、またお母さんの子供になりたいって言ってもらえて、すごく幸せでした。いろいろあったけど、すごく素敵な家族でした。だから私の容姿のことで周りから笑われたり、貶されたりすることが悔しくて、悲しかった。子供たちにも悪かったなって……そんな経験をしたんだと思うんです。だからこんなに容姿に拘るんだと思うんです」
保有ポイントは4522。前世が人類ならば、「かなりいい人」の部類だ。
本人は美醜に囚われていないが、周囲を思いやっての言なら納得がいく。
自分のことで周りが傷つくのは、自分が傷つくよりも辛い。自分の努力で変えることができないならば余計に。
だからこそ今度は、と思うのだろう。大切な家族のために。
「じゃあとびっきりの美人になっちゃいましょう。そしてまた旦那様とお子様に会えるといいですね」
「あ、でも美人になっちゃったら、みんな、私のこと好きになってくれないかもしれませんね」
くすくすと笑うお客様に、私は自信を持ってお応えする。
お客様の指先から伸びる赤い糸。それは証だから。
「大丈夫です!そんな素敵なご家族だったら、きっと次もまた好きになってくれます!お客様がどんなお姿であろうと、絶対です!」
「――そうですね。早く、もう一度、会いたいわ」
清々しい気持ちでお客様を見送って席に戻ると、唐突にぽかりと頭を叩かれた。
振り返ると、小毬さんが丸めたパンフレットを片手に、呆れ顔をしていた。
「え?なんですか?」
「あんたさー、「絶対」とか言っちゃダメでしょ?」
「あ」
つい先ほどの会話を思い出す。
「つい勢いで」
「つい、じゃないよ」
「でもでも、あんな素敵な方ならきっとそうなりますよ。縁結びもまだほどけてなかったですし」
通常、死後には前世の全ての縁は切れ、リセットされる。でも結ばれた者同士が望んでいる場合、それは良縁とみなされ、そのままにされるのだ。
ただ新しい出会いや縁を阻害する恐れもあるので、そのことは本人には伏せられている。
「まあ、でも確かに「絶対」は言っちゃいけませんでした。すみません」
「わかればよろしい」
私達の役目は、転生をサポートするだけ。その後の生には関われないのだから、絶対など口にしてはいけないのだ。
それならば、祈ることはいいでしょうか?
あのお客様の会いたい方々に会えますよう。お客様の来世が幸せなものとなりますよう。
行ってらっしゃいませ。
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