飛躍

———数日後


「カラス君の名前はなんですか?」


僕は知らない女から、質問を受けている。


『僕には名前がありません。正確には、カラスの中での名前はありますが、日本語にはできません』


「なるほど!では次に……」


はあ……全く、なんでこうなった!


僕とツヤマは、彼の自宅がある町最大の駅の駅前広場にいた。


大勢の人を相手に、質問に答え続けるということを、繰り返しながら。


ツヤマがしたのは簡単な事だった。カメラの向こう側に向かって、「私は意思疎通が可能なカラスを拾いました」


と言い、僕にカメラを向けて、「名前はなんですか?」「普段していることは?」というような、対人関係でも飛び交う質問をいくつかして、その最後に、「どうしてここに?」

という質問をしてきた。


他人行儀なツヤマには戸惑ったが、インタビュアーというやつだから仕方ない。


質問のすべてに、僕は誠実に答えた。


僕がしたのは、ただそれだけ。でも、ツヤマは大仕事をしたらしい。


彼は、撮影した動画を、ネットにアップしたのだ。


その動画をみて、返された反応はほとんど同じ。ツヤマを嘘つき呼ばわりするものだった。


でも、その全てに対して、ツヤマは言い放った。


疑うのなら、確かめにこいと。


彼はその場所を用意して、だから僕はそこにいて、他愛もない質問に答え続けた。


すると、変化が起きたんだ。


ちらほらといた、ツヤマを信じる人たちが、さらに少しづつ増えていた。


ミイラ取りがミイラになるとはこの事で、ツヤマを信じた人を疑った人が、結局は信じるという流れができた。


彼は、僕という『媒体』を、非常に強力なものに成長させたんだ。


そして、疑う人がいなくなった頃、


ツヤマの計画は、本格始動した。

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