届けたもの

 それからしばらくして—————


 午後、僕は学校の上を飛んでいた。

 計画を実行するために。


 その日は、女の子の意中の男の子が、転校のため、引っ越す日だった。


 学校の正門には、女の子と、その男の子がいた。


 2人は、しばらく一緒に帰って、帰り道の分岐点で別れた。


 さて、お仕事しますか。


 そのために、何時間もこれをくわえていたんだから。


 彼が家につくタイミングを見計らって、僕は、彼の家のポストにとまる。


 彼は、一瞬、怪訝そうな顔をする。


 よし、注目はされた。


 僕は、頭をもたげ、くちばしにくわえたそれを、ポストの中に入れた。


 俗に言う、ラブレターというやつだ。


 全く、本人が勇気を出せば良かったものの、彼女は恥ずかしいから、と、彼の家に行くことを拒否。それだから、こんな面倒な方法をとることになった。


 一応、この計画には弱点がある。


 男の子、及び彼の家族が、典型的な、カラス嫌いだと、余計に印象を悪くしてしまいかねないからだ。


 でも、この男の子の一家は、転勤族で、土着の風習を気にしない一家だった。


 ラブレターには、女の子の電話番号が書いてある。


 翌日の放課後、神社に現れた彼女は、とても上機嫌だった。


 だけど、幸せな日々は、長くは続かない。


 この土地で、カラスと関わる人間が、よい末路を辿れるはずがなかったのだ。


 ある日、女の子の膝に、あざが見えた。


 その次の日、女の子は、腕をかばっていた。


 次の日、また次の日、女の子の傷は増えていく。


 なのに、彼女はいつも通り笑っているのだ。


 だから聞いてしまった。


『いじめられているの?』と。


 女の子は、顔に浮かべていた笑みを崩して、泣きながら話した。


 クラス内の、リーダー的立位置にいるやつがこの土地、土着の宗教の宗主的立ち位置にいる人物の息子で、女の子が、この神社に来ていたのを見たのだ。


 そうして、女の子に対する、謂れのない誹謗中傷が始まった。


 話を聞き終わった後、僕は何も書けなかった。


 ただ、この小さな体は、怒りに満ちていた。

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