2019年版この1冊 【漫画編】その2

2019年に読んで面白かった漫画を紹介するコーナー、今回は2冊目をご紹介します。前回のローズ・ベルタンの華やかなフランス王朝時代とは打って変わって、時勢も主人公もハードすぎるハードボイルドです。


【堕天作戦】 裏少年サンデーコミックス 山本 章一 著


最初に言いましょう。画風はグロいと言えばグロいです。ストーリーも明るくはないでしょう。ただ、不思議な話でその手の話、絵柄を普段読まない方も読めてしまう不思議な魅力を持った漫画なのです。


ストーリーは、人間と魔人が長い間戦争をしている架空の世界で、戦闘員だった主人公、アンダーが捕虜として魔人側に捕まる所から始まります。彼は気づいた時にはすでに不死者であり、その特性から戦で特攻隊員をさせられ何度も死に、自分の人生に倦んでいるが不死身のため自殺する事もできません。しかし捕虜として処刑される時にある魔人の少女と出会った事によって、なぜ不死者が存在するのかその謎を解き明かそうと決意しその謎を追う、というものです。


読者として、この主人公の良い所は不死身であるだけだという所。格闘技に優れているわけでも、腕力が人よりあるわけでも銃の扱いに長けているわけでもなく、もちろん超能力も使えません。頭脳も凡庸。その為敵と戦闘するとすぐ窮地に陥ったり実際殺されたりします。ただ死なない為敵が去った後復活しまた行動していくという描写が多い。その為主人公が敵を蹴散らす様を見られるカタルシスは読者に与えてくれませんが、それが良いんです。不死身と言う非現実的な設定であるのに、チート(無敵)ではない分リアルが感じられ主人公に感情移入できるのです。主人公は喜怒哀楽表現が薄いですし、周りのキャラクター達の性格や個性も際立ったものがないのですが、実際に存在すれば皆こうだろうなと言う説得力があります。主人公も周りのキャラクターも話も、画風でさえも淡々としているのに、読み進めるうちに感情移入して話が面白くなってくるのです。そこにこの漫画の一大テーマ、「誰がどういう目的で不死者を創ったのか」の謎をはらみ話の続きが気になって仕方がありません。実写風のイラスト、淡々とした現実に近いストーリー運びは映画作品のようで、漫画が苦手な方にも読みやすいと思います。

大ヒットしている「進撃の巨人」と言う漫画がありますが、それが読める、つまり、絵柄としてこれくらいの残酷殺戮描写はいける、内容としてこれくらい重く暗い内容でもいける、画風として萌えも何もない男も女も素っ気ない描き方でも構わないと言う方はいけると思います。新しい漫画を読みたい方は是非どうぞ。

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