BASTARD
Mirai.H
第1話 想起
こんなものを今書いて良いのかわからないが、心の叫びを書こうと思う。
一度は皆も悩んだことがあるのではないかと思うのだが、自分が生きている意味を探すのって難しいと思わないかい?
齢二十六にして毎日このようなことを考えていて、答えの見つからない永遠のテーマに時間を費やしていること自体が
こんなことをよく考えるようになってしまったのは、とあるきっかけで悩んで、苦しんで、復讐を誓い、その復讐を成し遂げた結果が原因だと思われる。
まあ正直なところ、この話を読んでいる皆も日常を過ごすことが精一杯で、日常の様々なテーマに悩み、考えるのを忘れてしまっているだけで、時間さえあれば私と同じく、このテーマに関して永遠に悩み続けるのではないかと思う。
宗教家は皆、口を揃えてこう言う。
「人が亡くなった後は天国や地獄に行って、生まれ変わるんだ」
実際、自分で見たわけでもないのに、亡くなった後はどうなってしまうのかまったくもってわからないのに、安心感を得るためだけに人は神を創造し、死後の世界まで勝手に創り上げてしまった。
知能が停止し有機物の塊になった後でも、こうであれば良いなという幻想を抱いて、今この瞬間どこかで人の命が消えていく。
今、この話を書いている私自身も虚無の空間に放り出されそうになる感覚へ手を震わせながらキーボードを打っているのだが、書き続けていたらきっと思考の糸がぷっつりと途切れてしまうのではないかと思う。
物書きの性なのか一度書いてしまうとなかなか手を止められない。
書いていると動悸が早くなり、なんだか恐ろしい物に吸い込まれてしまうかもしれないという感覚もするのだが、そのまま書かないでいると、どうしようもなく書きたい衝動に駆られてしまうので、つらつらと書き続けていこうと思う。
私の少年時代といえば、その辺に歩いているような一般の人が経験をしたくてもできないような経験をしている気がする。
経験しようと思えばできることでもあるのだが、自ら進んで経験しようなどと思う人がいるのであれば、それは変態か何かだと例えてしまうことだろう。
まあ中には経験をしている者もいるのだろうが、私のように元気よろしく
未だ忘れぬ、それだけ濃い社会の闇と呼ばれる部分に触れた少年時代だったのだ。
父方の実家は建設業を営んでいた。主に土木工事などを
世間体を気にして母親は周囲の人間に言わなかったのだが、家族の仲はとても不仲だった。
父親は後継ぎだからと大切に育てられてきたのだが、母親と子ども達に対しての祖父母の当たり方といえば、酷い物であったということもよく覚えている。
毎日のご飯といえば、たった一本のメザシにお弁当へよく入っている味の薄いハンバーグと白米のみで、汁物が出てきたことなんて一度たりともなかった。
昼夜通して代わり映えのない毎日のメニューに飽き飽きし、箸を放り投げて泣いたこともあった。
父親だけが豪華な飯を食べていて、それを見て羨ましいと思い、少しでもそれを食べたいと駄々をこねれば、部屋の隅に放り投げられ、尻を叩かれる。
ご飯が喉を通らないときもあった。
そんな時は、無理矢理でも流し込むようにと祖父にグレープジュースをかけられ、泣きながら貪っていると「お前はもう食わなくていい!」と箸やスプーンを手から無理矢理引き剥がされ、台所のシンクへ叩きつけられるなんてこともあった。
思い出すだけでも忌々しい。
ジュースを白米にかけるところから、終始ニヤついている祖父母、母親は恐怖で抵抗できず、祖父母に対して何も言うことができなかったのだろう。
嫌がらせをされるのは決まって父親がいないときだけだった。
まあそもそも父親も仕事で忙しかったり、遊びに行っていたりと、あまり家にいなかったものだから、毎日が嫌がらせの嵐だったと言っても過言ではない。
そういえば、こんなこともあったな。
父親と母親が用事で家をあけるため、離れで留守番をしていたときのことだった。
勿論、母屋には祖父母もいたのだが、特別、祖父母が私の様子を見にくることもなかったため、留守番の間はじっとソファーに座って過ごしていた。
ご飯の時間になっても誰かが様子を見にくることもなく「お腹すいた」と一人で呟きながら、母親の帰りをじっと待ち続ける。
空きっ腹がピークを迎え、ぐずり出した頃、たまたま祖父が離れにやってきて「風呂の時間だから服を脱げ」と命令される。
そこでお腹が空いたと訴えると「ああ、そうかい」と無機質な声で私の訴えをそのまま流した。
そして「クソ面倒クセェ」と呟き、無理矢理服を引き剥がす祖父に、私が手足をバタつかせ抵抗すると、顔を叩かれる。
そのまま祖父に身体を抱えられ風呂に向かう私。
湯船にはお湯ではなく、水が張られており、祖父は放り投げるように私の身体を湯船へと投げ込むと、冷たい水に悲鳴をあげる私を見ながら「ククッ」と笑っていた。
少しの時間そのまま放置され、いよいよグッタリとしてくると、さすがに祖父もマズイと思ったのか、私を湯船から引き摺り出し、身体を拭うこともせず居間のソファーに放り投げる。
祖父がそのまま立ち去ると、私は寒さと恐怖に震えながら泣き、泣き疲れるとそのまま寝てしまった。
ここからの記憶は定かではないが、母親が帰ってきたのは夕刻を過ぎ、時計の針がちょうど七時を指した頃だっただろうか。
私の身体をバスタオルで包みながら、今までに起きた事象を悟った母が泣きながら私に謝っている声に目を開ける。
泣きながら私を胸に抱く母へ、私は「お帰りなさい」と呟いたあと、安心感からか視界が滲みだす。
「わっ」と声を出して
翌日、目が覚めると父親と母親の揉める声が居間から聞こえてきた。
「お義父さんとお義母さんに言えるのはあなたしかいないのよ!」
「ああ、わかってるよ」
「何もわかってないじゃない!」
私がベッドから降りて寝室の仕切りを開くと、喧嘩の声が止んだ。
「おはよう」とにっこり微笑む母の瞳の奥から、うっすらとした怒気を感じる。
それからの日々といえば、なんだかギクシャクとした違和感がありながらも鬱々とした生活が変わることなく続いていた。
だがこの生活にも転機がやってくる。
水風呂事件から数ヶ月が経過し、とある社会現象を引き金に、長く苦しい生活にも終わりの時がきたのだ。
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