第4話 異世界の戦闘に遭遇


 外に出ると、草原が広がっていた。

 太陽が頭上に上がっているから、恐らくは十二時位なのじゃろうな。

 確か、さっきまでは夜だったはず。異世界は儂らの世界とは時間帯がずれているようじゃ。

 

「うぅむ、地平線まで草原ではないか……。しかも草が腰まで伸びておるから、歩くのは一苦労しそうじゃ」


 絹代さんの幽霊らしき物体によって突然異世界に放り込まれた儂は、後ろを振り返ってみた。

 部屋と思われたものは、木造の小屋であった。

 草原の中に不自然に建っているこの小屋、少し不気味にも感じる。

 見渡す限り草、草、草。木が一本も視界に入らぬ草原。

 儂はおもむろにポケットから絹代さんの手紙を取り出す。

 手紙の裏には、簡単な地図が書いてあった。

 小屋から出て真っ直ぐ進み、草原を抜けた先に鉱山周辺に出来た町があると言う。

 ちなみに、絹代さんの懐かしい字体で「草原に紛れて金品を巻き上げる盗賊がいるから、気を付けて下さいね? 貴方なら問題はないでしょうけど♪」と書かれていた。


「何故、草原で盗賊がおるんじゃ……」


 確かに腰まで草が伸びているから潜みやすいと思うが、こんな所に潜んでいても利点はないだろうに。

 いくら考えても疑問は拭えなかった故、儂は町を目指して歩き始めた。

 しかし草が体に絡み付いてなかなか動きにくいし、何より歩きにくい。

 簡易的な地図でしか書かれていないため、どれ位歩けば辿り着くかなんて皆目検討付かなかった。

 鉈等の刃物類は一切持ち合わせていないので、歩行速度はどうしても遅くなってしまう。

 だが、驚いた事に息が切れない。

 老体だからそろそろキツくなるだろうと思うたが、十五分程歩いたがまだまだ余裕がある。


 さらに歩く事約十五分。

 鉱山らしき山がようやく見えてきた。

 それでもまだ距離はある。これは気合いを入れて進まなければいけないようじゃ。

 すると、草原の中に作られて道に出た。

 石などで整備されておらぬが、人が四人並んで歩ける程度の広さに草を刈り取っており、足跡も無数付いている事から高い頻度で使用されている道だとわかる。

 ならば目的地の鉱山の町へ続く道を作ってくれればいいのにと、心の中で愚痴を溢した。


「ふぅ、流石にしんどいわ……。ちょっと休憩するかの」


 道の端にちょうど良い腰掛けになりそうな石が置いてあったので、儂は「どっこいしょ」と言いながら座った。

 

 ふぅ、異世界に来たおかげか、妙に身体が軽く感じる。

 まだ戸惑いはあるが、魔法やらスキルやらを使う強者と戦える世界なのだ。

 絶対、素晴らしい世界に決まっている。

 だがまずはこの世界に対する知識を入れないといけないから、とにかく人と交流せねばなるまいな。

 後は路銀も稼がねばならない。ならどのように稼げばいいかもしっかり把握しなくてはならない。


「まぁ、あのまま腐って死ぬより、スリリングな異世界を楽しむのもまた一興かの」


 風が吹く。

 あぁ、心地よい風じゃ。

 あぁ、そしてこの血の香りが――――


「血の香り!?」


 随分と久々に嗅いだこの独特の臭い。

 儂は風上に視線をやる。

 じっと見ると、道の向こう側で集団が何やら争っている様子。


「ふむ、ならば早速見学といこうかの」


 何の情報もなしに、いきなり戦いに乱入するのは愚の骨頂だ。

 情報無くして必勝も無し。特に魔法とスキルという、未知の存在があるのだ。勝つのであれば、それらを正確に知る必要がある。

 儂は戦いにおいては負けるつもりは一切ない。

 故にもし盗賊に襲われていて罪の無い人が犠牲になろうとも、自分が死んでしまっては本末転倒。

 ある程度の犠牲も覚悟で、まずは情報収集をする事にした。


 腰を低くして、足音を立てないように踵からゆっくり足裏全体で踏み締めるように歩く。

 呼吸は極力大きく吸わず、空気を吸う量を少なくして近付いていく。

 そうする事で気配は薄れ、気付かれにくくなる。

 草原の中を進むと、草の音で気付かれてしまう為に道を進む。

 徐々に争っている音が聞こえてくる。

 剣と剣が打ち合っている音、断末魔、叫び声。そして、爆発音。


「爆発音!? もしや、魔法というものか?」


 儂は歩を早める。

 そして、ようやく争っている所を明確に見える位置まで距離を詰める事が出来た。

 さてさて、魔法とスキルを是非とも見せてもらおうかの。


「はっはーっ!! さっさとその馬車を俺達に渡しな! じゃないと死んじゃうぜ!?」


「くそっ、今日に限って《赤鬼盗賊団》に襲われるとは……!」


 状況としては、馬車を囲んで三人の傭兵らしき人物が、西洋の両刃の剣――確か、ブロードソードと言ったかの?――を正眼――体の中心で剣を構える姿勢――の構えを取っている。彼らの足元には、恐らく事切れているであろう二つの死体が転がっていた。傭兵と同じ格好をしているから、彼らの仲間であろう。

 そしてさらに彼らを取り囲むように六人の赤いバンダナを巻いた、どう見てもゴロツキとしか思えない連中がいた。

 奴等は片手に短剣を持っており、いやらしい笑みを浮かべている。

 しかし奴等の足元にも三つの死体が転がっている事から察するに、この盗賊団の腕は大した事がないと伺えた。

 何故なら、人数的に不利な場合、相当な技量がない限りは袋叩きにあって一人も倒せずに殺されてしまう。

 しかしどうだ、盗賊団には犠牲者が出ているではないか。

 盗賊団が弱いのか、それとも傭兵達の方が強いのかはわからぬが、どちらにしてもこの盗賊団は大した事はない。


 すると、盗賊団の一人が三人の中で一番体格がいい傭兵に斬り掛かる。

 ついに、異世界での戦闘が見られる。

 儂の心は、未知の戦闘を見る事が出来る事実に歓喜していた。

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