カトラリーは歪ませない

酔浦幼科

第一話

1

 雨は瞬く間に、私を濡らしてしまった。

 4月9日、月曜日、M県M市S町、午後10時。

 外は既に暗闇で満たされて、雲は月が見える隙間もない。

 ゆっくりと、長くて黒い髪の毛、制服、そして下着までもが水に侵蝕されていくのがわかる。

 このままでは私は風邪をひいてしまう。

「………よし」

 一歩を踏み出す。

 容赦なく水溜まりを踏んでいく。

 ローファーの中の靴下も雨水で濡れていた。私が歩くと不思議な音が誰も歩いていない真夜中の街にこだました。


 @


 私は家出した。

 きっかけは些細なケンカだ。

 

 お父さんは五歳年下の会社の後輩と不倫をしていたようで、LINEの通話履歴をお母さんに見つけられてしまった(変態的な言葉の羅列を送信していたらしい)が、かく言うお母さんも十歳年下のイケメンと不倫している(不倫相手の本職は雑誌のモデル)ことを私に自慢していたのでどっちもどっちだ。


 簡単な話、私は、

 少し大きめのリュックサックにお菓子と携帯食料(非常食フェアで安く売っていた)をできるだけ詰め込み、修学旅行に持って行った大きめのキャリーバックに服を大量に入れた。携帯の充電や、パソコンもキャリーバックの中だ。

 あとは親の寝ているスキに、家出するという旨の手紙をリビングのテーブルへ置くだけ。


 あんた達のケンカが収まるまで、私は友達の家へ家出します。(嘘っぱちだけどね)

 学校へは行くので心配はしないで。

 では。 

 標野しめの紫陽花あじさい


 たしかこんなことを書いたはず。()内の言葉は私の気持ち。

 そうそう、私の名前は紫陽花あじさい。あの梅雨時期になると咲く美しい花から、お母さんが名前を借りたらしい。

 因みに、紫陽花の花言葉は「」「」らしい。

 今の私たち家族には存在しない言葉だなー。


 @


 雨は益々強くなっていく。

 このままだと私はこの雨と一緒になって下水道の中へ流れ落ちてしまいそうだ。

 そうじゃなくても私は酷い風邪を引いて死んでしまうかもしれない。今の私に薬は無いし。

 その前に、はやく。

 S町のはずれの小高い丘に、とても大きな洋風の家がある。私はそこへ向かっていた。

 友達の家?私の友達はいい人ばっかりだけど巨大な洋風の家を建てれるほどお金は持っていない。

 親戚の家?親戚にもそんなお金持ってる人はいないし、何より親戚の家に行ったらどこに家出したのか親にバレる。

 もっといえば、

 でも、私はこの家の中に入れる自信がある。

 なぜなら、を知っているから。

 ま、そう言ってもが主だとは限らない。そこは一か八かの賭けだ。


 雨水で濡れたローファーに泥水が入り込み、ピンク色の可愛い靴下が茶色くなっている。左足の皮膚が柔らかくなって剥がれて痛いが我慢する。キャリーバッグがぬかるんだ地面のせいでうまく進まない。

 でも、あと少しなんだ。

 なんとか入口までたどり着いたが、私はヘトヘトだった。そういえば、ここ最近親のケンカが煩くて眠れなかったっけ。急にウトウトしだした。

 やばい、はやくインターホンを押さなきゃ。

 足に力が入らなくなって尻餅をついてしまった。パンツまで湿っているのが嫌というほどわかる。キャリーバッグを支えにして立とうとするけど立てない。

 せめて…せめてインターホンを…。

 私はそのボタンを押せず、そのままその後の記憶がなくなってしまった。


 


 @


 柔らかい。

 やわらかくて、眩しい。

 天国だろうか、ここは。

 大きく深呼吸をする。甘い香りがする。

 眩しさに慣れる。

 そこは巨大なベッドの上だった。人が5人並んで寝ても誰も落ちないほどの大きさほどの大きさ。それでいて、まるで雲の上で寝ているようなふかふか感。毛布も枕もやわらかい。まあ、私的には枕は少し硬めの方が良いのだが。

 身を起こして、辺りを見渡す。

「あ、起きた?」

 。瞬間、私は少し身構えた。確かにこの少年がこの家の主である(私の予想だと)。

 この少年の1番の特徴といえば、髪の毛の色だ。日本人離れした白い髪。どうしても気がそちらに向いてしまう。見た感じ、私と同じ歳ぐらいに見えるが、歳をとっていても若い顔の人なんてたくさんいる。

 実際私のおじいちゃんは顔が若い。30代前半のように見えるのだ。

 服装はラフな感じで、色は緑を主として揃えているらしい。パッと目に入った時ほぼ黒緑だ。そして彼の手のひらから腕にかけて大量の包帯が巻かれている。ヒドイ怪我でもしたのだろうか。私からしてみれば、タダの中二病にしか見えないのだが。


 目が合った。


 今更だが、目の色も特徴的だ。その色は赤色…というかワインレッドに近い。その目の色は、白い髪の毛と嫌でも相俟あいまってしまうのでかなり目立つ。

「大丈夫かな?玄関前で倒れてたのは覚えてる?」

 私が不安がってると思ったのか、まるで怯えた子猫を愛情たっぷりに撫でるような優しい声で、少年は私に声を掛けた。

「………(コクコク)」

 ゆっくりと頷く。風邪をこじらせたのか、あまり上手く声が出ない。出そうとするとガラガラとした音が出るので恥ずかしい。このまま無言で返事を返そう。

 少年は満足そうに頷き、「それは良かった」と小さく呟いた。どうやら本気で心配していたようだ。まあ、そりゃ自分の家の玄関前に死体もどきがあったら心配だろう。

「その、言いづらいんだけどさ…」

 急に、少年がモジモジしだした。

「服…濡れててさ、今着ている服を見てもらったらわかるんだけど、僕が脱がして新しい服に着替えさせたんだけど…、ごめんね、その時に裸見てしまって…、できるだけ見ないようにしてたんだけど…」

 少年が自らの犯した罪に耐え兼ね、頭を抱えているその間に、私は下を見てみる。

 なるほど。私はそう小さく独り言ちた。

 今私が着ている服は確かに玄関前で倒れた時の制服ではなかった。なんともかわいらしい、花柄のパジャマであった。下着も雨でぐっちょぐちょに濡れていたはず。

 つまりこの少年は姿、ということか。

 何故か、私はこの少年に対して怯懦きょうだな不安心を持つことはなかった。少年が本当に反省している素振りを見せていることもそうだし、それをここで自己申告することはかなり勇気がいる(犯人扱いされてもおかしくない)はず。それをこの少年はやってのけた。あるいは、、という可能性は捨てきれないが。

「………(ブンブン)」

 両手を横に振って、そこまで深刻に考えなくてもいい、というジェスチャーをした。その意思表示は少年に通じたようで、彼はまだ罪悪感に苛まれている様子だったが、しばらくして気を取り直したようだ。私に近づいてベッドの端に座った。

 少年が近くに来たからだろうか、彼の白い髪と赤い目が天井に付いてあるシャンデリアによって出来た彼自身の影によって強調され、鷹のように獲物をにらむような印象へと変わっていった。しかし、それでも

 私は、起こした体をもう一度ベッドと毛布の間に挟ませ、地球からの重力を体全体に分散させるような、楽な姿勢を取る。雲のような柔らかさが全身を包み込む。ウム、やはり私は枕が硬い方が好きなようだ。少年は私に、どこから持ってきたのか紙と2本のペンを差し出し、そのうち1本のペンを使って何かを書きだした。

『どうしてココに来たの?』

 と、書いてあった。

 私が声が出ない(と、少年は思ってる。実際はガラガラ声であまり声を出したくない)ので紙とペンで質問に答えてほしい、ということらしい。


 どうやら、ココが正念場だ。


 私がここに家出するためにはこの少年を脅すか説得するかしかないだろう。運良く、彼の秘密を私は知っている。、ということを。

 震える手で、ゆっくりとペンを進める。

『私はあなたの秘密を知っています。』

 少しだけ、少年の顔が険しくなった気がした。

 私は続ける。

『あなたは普通の人間じゃない。』

 少年の様子を見る。さっきとあまり変わってない…ように見える。

 息が詰まって上手く呼吸ができない。


『あなたは。』


 尋常じゃないほどの汗が、握っているペンを落とさせた。気付いた時には遅かった。ペンは私の手から落下し、異常なほどのスローモーションで真っ直ぐ床に敷いてある絨毯に刺さった。

 ポト、と、この静寂を引き起こした音にしては情けない。

 ごめん…!と言おうとしたのだが、ガラガラ声がさらに酷くなって。慌ててジェスチャーで伝えようとする。


 視界が白くなった。


 別に気絶したわけではない。少年が、髪の白い少年がしゃがんでペンを取った。

「ハイ、落としたよ」

 何だ…?

 この少年は私にペンを笑顔で、屈託のない笑顔で渡してきた。私は確かにこの少年を脅しているはず…だよな…。

 私の脳裏には、ある単語が激しく揺れていた。その単語は、今の私に動揺を引き起こさせるのにはピッタリの言葉だ。

『失敗』

 目の焦点が合わなくなる。少年の顔が二重に見えてきて、親のケンカする声が遠くから聞こえてきた。そうだ…。ここでこの少年を脅さないと地獄の家庭に戻らなければならない!


「確かに、僕はカトラリーを食べるよ」


 唐突に少年が言った。

 彼は、正直に認めた。しかも、恥ずかしそうに頭をボリボリと掻きながら。

 その姿を見て私はさらに絶望する羽目になった。彼にとってはカトラリーを食べることは他人に見せても良いぐらい当たり前の食事行為なのか…?

「君は、僕に何をしてほしいの?お金?」

 少年は私をさらに追い込む。将棋でいえば、王将以外全て少年に取られた状態だ。しかしこの少年はなぜこんなに楽しそうなのだろうか? まるで恋の話とか話せる仲間のように親しくする。

 急に少年の手が私の手先へと伸ばした。

 静電気のような、ピリッとした痛みが手に走った。

「痛っ!………?…⁉︎」

 声が聞こえた。誰か別の人間がいるのかと思った。しかし、

 ガラガラ声がこのタイミングで治ったようだ。。彼が何か時間が経ったら治る毒でも仕込んだのだろうか?

「…君も、気づかなかったんだね」

 少年は、包帯の巻いた腕を摩りながら、慰めるように笑った。左腕に巻いた包帯が、少しづつ赤黒く染まる。

「…なにか…やった…んですか」

 どういうことだろう?少年の笑顔が怖くなってくる。

 少年は、おもむろに言った。


「僕は、カトラリーしか食べられない代わりに、『』という超能力を持ってる。ま、全然使わないけどね」


 この少年がいきなり何を言っているのかよくわからない。本当に中二病なのか?

「君の声がこんなタイミングで偶然に治るはずがない。んだ」


 ……はい?


 この少年の顔が急にバカらしくなってくる。信じられない。ひとつ大きなため息をついた。よく考えたら、私は家出するための脅しの情報をひとつ失ったことになる。彼がここまでポジティブでいるのは私にとっては大きな誤算だった。

 しかし、さっきこの少年はなんと言った?確かに彼は私に「何をしてほしいか」といった旨の質問をしたではないか。ならばこのまま信じるフリをしてここに住む、というのも悪くはない。

 よし。

 術中に陥るフリをしよう。生きる為には仕方がない。私は腹を据えた。

「どういう能力なんですか」

 興味有りげに体を起こして膝を乗り出す。

 立ちくらみを起こしたが気にしなかった。目の前がまた二重に見え、目の奥が熱く感じる。

「君は、多分だけど『』というものだろう。あ、いや、傷だけではなくどうやら病気も治る範囲に入るようだ」

 へえ。私は思わず食指が動いた。そのような不思議な能力があるのか。今の世の中は便利だな。心の底で馬鹿にした。

 よし。と少年が立ち上がる。そして出口であろうドアへと近づいていった。

「あ、あの!」

 そういえばここで暮らす許可をもらっていない!そう思ったのだが。

「大丈夫。君の心配事は全部解決している…と思う。そのテーブルの上に置いてあるノートを見てごらん」

 そう言って出て行ってしまった。

 私はひとり、1人分の部屋としては豪華すぎる部屋に取り残された。

 作戦は成功した…?

 ベッドから出る。重力が私の体にのしかかる。やはり人間は重力から解放される日は来ないな。そう思わせるほど怠く感じた。

 テーブルの上には確かにノートがあった。しかしそれは使用済みのノートであるようで、そこには『3-2 ナツ ヒデリ』と書いてあった。少年の名前だろうか。それにしては字が女の子っぽい…。

 中をめくると栞が挟んであるページがあった。あまり気が進まなかった、文字というのは不思議なもので、意識をしていなくても羅列は脳裏に焼き付けられていく。


 改めまして、いらっしゃい。

 僕の名前は奈津ナツ 椿ツバキ。君がいるこの部屋は、ノートにも書いてあった「ナツ ヒデリ」…僕の妹である奈津 日照ヒデリの部屋だ。

 ま、遠慮しないで使って。

 君はきっと、最初に僕から能力の説明を受けた時、戸惑って信じないだろう。

 大丈夫。僕もこの能力が発現した直後は信じなかった。

 でも、「慣れ」なのかもしれない。

 この家は好きに使っても構わない。なんなら一生使ってもいい。

 ただ、条件がある。


 ここまでノートを読んで、身構えた。

 このノートに書かれていることは、今の私にとってはとてもいいことだ。しかし、この少年…椿は、「」と言っている(書いている)。

 なんだろう、条件って。

 考えられるものとして。

 家賃代? それなら「お金が欲しいの?」と聞いてくる?

 メイド? まあ………そういう趣味の人もいるだろう。因みに私はメイド服を着るのは別に構わないし抵抗もない。ちょっとおもしろそう。

 体の関係? うむ………、これは考えさせられる。椿1が、なんとなく怠い。

 眠気を感じた。もう寝よう。

 これからのことは明日考えればいい。

 柔らかいベッドへ体を挟ませると、何も考えられなくなる。睡魔というのは、疲れているとこんなにも早く来るのかと驚きながら目を閉じた。

 何か不安が私の頭をよぎった。

 そういえば

 ま、それは明日でも良い。

 何事もそうだが、終盤に近づくと「どうでもいいや」という考えに陥る。その考えで失敗する、というのに。



 そう、失敗したのだ。「忘れ物」をしたのだ。私はなんて馬鹿だったのだろう。もう二度と戻れない。家に帰れないのだ。

 その「忘れ物」は学校生活を送る上で欠かせないものだ。


 @


「………おかあさん」

「どうしたの?」

「いじめられたの」

「…誰に?」

「すぎしたくんになぐられた」

「そう…、でも紫陽花ちゃん、怪我なんてしてないわよ」

「うん」

「どうして」

「すぎしたくんがなぐったら『バチッ』って音がしてスゴくいたかった」

「『バチッ』?」

「そしたらすぎしたくんが走って帰っちゃった。手から血がでてた」

「………そう。泣いた?」

「ううん」

「偉いわね。強い子になって、お母さん嬉しいわ」

「ほんとうっ⁉」

「うん、えらいえらい」

「えへへ、ありがとっ」

「…」


 @


 規則的。

 火曜日、朝六時半。

 規則的、とても規則的。

 アラームは、不規則的な人間とは違って非常に正確に鳴らしてくれる。それが素敵。ステキで、少し羨ましい。

 アラームを止めてベッドから体を起こす。重厚で豪華なカーテンの隙間から昨日の雨が嘘のような光が差し込んでいる。

 携帯を見る。どうやら親から連絡は無いようだ。全くの予想通りで、少し寂しい。親と子、という関係が、昨日の雨で下水道へ流れたのだろう。もう私の方から『』へ連絡することはもう無い。

 さよなら。

 携帯を真っ二つに折った。人間に例えてもどの部分に当たるのか分からない細かな部品が絨毯に落ちる。

 すでにこの携帯は命が失われてしまった。今までの家族との思い出と一緒に。

 それで良い。

 ベッドから降りる、と絨毯が足元に待っていた。絨毯は気持ちいい。素足を優しく包み、昨日剥がれた左足の皮膚の痛みも落ち着く………。


 ん。


 ふと、椿の言った言葉が思い出された。

『触れた他人に傷をつける代わりに、自分の傷を治す』、か。

 まさかね。ふふ。

 ゆっくりと、視点を左足に定める。

 

 

「なぁーんだ。ちぇ」

 独り言が出てしまう。

 期待してたのか、私は。

 こんな見え見えの嘘に。

 大きなため息を付いてキャリーバッグを開いた。

 キャリーバッグは、やはりあの少年が何かをしてくれたのだろう、きれいになっていた。進行を邪魔した泥は落ちて、新品同様の輝きを取り戻している。まあ、私は数えるほどしか使ったことはないが。

 中を開けると服が中に入っていた。いや、当たり前か。なんせ私が家から持ってきたのだから。

 そして思い出す。

 昨日私が着ていたのは制服だ。それを彼はどうしたのだろう。洗濯してくれているのだろうか。それとも汗の匂いに興奮して”夜の仕事”にでも使ったのだろうか。ま、どちらにしろ洗って返してくれるのならどちらでも良い。好きに使え。

 パジャマのまま部屋の外に出る。広すぎる廊下と出会った。そして迷いながら入り口と思われるドアへと着いた。

「広すぎんだよ…」

 その言葉は私が発したものだろう。馬鹿に広いのでイライラしていたところだ。


「おはよう…、ええと名前を聞いてなかったね」


 後ろを振り返ると、昨日と寸分変わらない格好で椿がそこに居た。

「紫陽花。『むらさき』に太陽の『よう』って書くから知り合いは紫陽しようちゃんって呼ぶ。おはよう、椿…くん」

「椿でいいよ、シヨ。それで…」

 いつの間にあだ名的なものが生まれていた。シヨ? 可愛いなそれ。まるで愛犬につける名前じゃねえか!私は飼い犬ってか!

「…いいかな? それで」

「え、あ…ごめん全然話聞いてなかった」

「そうか、じゃあもう一回」

 失敗した。彼の話をもう一度聞くハメになる(聞いていなかったが)。

「ノートに書いておいた条件は読んだかい?」

「いや」

 そういえばそんなのもあった。すっかり忘れていた。

 。あのとき読んでおけばこんな会話をする必要なんて無かったのに。


「君は、僕に朝、昼、夜の料理を作ってくれ」


 ………はい?

「あんた、……カトラリーしか食べないんじゃないの?」

「だれもカトラリー食べない、とは言っていない。カトラリーを食べる、と言っただけで別にお肉も魚も野菜も食べる、あとスイーツも。でも味は感じない。僕にとっては味のしない粘土を食べている感覚だ」

「じゃあ食べなければいいじゃん!」

「味はしないけど、カトラリーに独特の風味が付いてね。味がしみこむんだよ。食べても味を感じない僕としては、新品でピカピカに磨かれたカトラリーより長年使いこんんだ古臭いカトラリーの方が美味いのさ」

 そんなこと知らねぇよ!

「それに、作ってもらわないとね、ここから追い出すかも知れないよ」

「うぐ………わかった」

 ……仕方ない。気が滅入るが、ここで同意しておかないと追い出されそうだ。

「君は素直で良い子だな。じゃあ、朝ごはんをお願いしてもいいかい?」

 完全に飼い犬状態ですね。

 はあ。

 やってやるか。

「私を子供扱いしないで! じゃないとあんた飯抜きだよっ!」

 呆気にとられたような椿は、開いた口が塞がらないようだ。

「えっ?なんか命令されてる…?」

「今日の飯は何が良いの!?早く言えぇ!」

「は、はぃいいイイイ!」


 こうして、私と椿の同棲生活(?)が始まったのだ。

 問題山積みなのだが、これで上手くいくのだろうか?

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