星のベッド

星のベッド ①

 フィルバート・スターバウにとって、早朝はだれにも邪魔されることのない神聖な時間帯だった。すぐれた兵士でもある彼は、どんな場所で寝ついてもたいていの場合すっきりと目ざめ、早朝のトレーニングに向かうという日課を送っている。


 久しぶりにタマリスに戻ってきたかと思えば、実兄デイミオンの「お妃選び」などというくだらない余興にまきこまれるはめになった、つい翌日のことである。彼は短く不規則な眠りにつく前、リアナのことを考えていた。夏に彼女と見ることができるかもしれない美しい光景のことと一緒に。


 そして目が覚めたとき、フィルがいくらか夢うつつの状態にあったことは否めない。もぞもぞと腰のあたりで動くものの気配で目を覚ました。部屋のなかはまだ暗く、早朝というより未明といったほうが近いかもしれない。

 小さいが、妙に体温の高いが「おしっこ」と言った。


「……ん」

 フィルは眠気から覚めやらぬまま不明瞭に同意し、その小さなものを自分の簡素な寝台から抱き下ろした。どんな生き物にせよ、ベッドに粗相をされてはかなわない。ほぼ自動的に、を自分ではめったに使わない簡易便器に連れていった。ずっと支えておかなくてもきちんと排尿しているような音がするので、フィルはぼんやりした頭で、「ナイムもだいぶん上手になってきたな」と思った。親戚の子どもと勘違いしていたのである。


 少子化いちじるしい竜族の男にとって、子どもの世話をするのは将来に備えた重要な訓練でもある。また叔母グウィナには、ほぼ母親代わりに面倒を見てもらった恩もあったから、その子どものヴィクとナイムはフィルバートにとっても我が子同様といってよかった。

 軍務で多忙な叔母に代わって泊りがけで面倒を見ることもあったし、もともと子供の相手は得意なほうだから、フィルが子どもを彼ら兄弟と思ったのは無理からぬところだった。


「終わった?」と尋ねると「うん」と眠そうな返答がかえってきたので、フィルバートはその小さい生き物を腕に抱えて寝台に戻り、上かけでくるんで適当にあやしつけ、もう一度眠った。


 フィルバートが目をまんまるに見開いて驚愕するのは、それからわずか一刻後のことであった。

 自己主張の強い寝相で「すよすよ」と健やかな寝息を立てているのは、ヴィクトリオンでもナイメリオンでもなかった。夢のなかでもいいから手をうずめたいと思った、特徴的な金茶の巻き毛が目の前にあった。


 フィルバートの頭の中に、雨後の筍のごとく疑問符が咲き乱れていた。


「……リアナ?」


 兄の妻、そして彼の生涯の主君となるはずのリアナ・ゼンデンがそこにいた。ただし、その寝姿は美しい成人女性ではなく、五歳児のものだった。

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