新天地〜新薬作製①
「よし!」
必要な道具を異空間収納バッグから取り出し、テーブルの上に並べ終えた私は腕まくりをした。
目の前にあるのは、ビーカーのようなガラスの瓶と水。――そして、『ルア』という薬草だ。
アヴィ家の裏山探索中にダンジョン近くで、私のチートさんが発見したルアは、多肉植物のようなぷっくりとした肉厚の葉で、その葉は緑の宝石の様につやつやと輝いている。
肉厚の葉は無味無臭で、調合方法でどんな効果をも発揮し得る可能性を秘めていると、研究機関が見解を示している。
サイによれば『地中に残った魔素を長く伸びた根が吸い上げている魔植物に近い物だろう』との事だ。
魔力量が多かったダンジョン付近やその跡地にしか生息しない理由もそのせいらしい。
今では王室が管理するようになった程のチート的な薬草であるが、私が所持できている理由は、第一発見者だから。
新たな効能の発見に期待されているのかもしれないが、基本的に自分で何でもできるので、去年新しい物を貰ってから異空間収納バッグに仕舞いっぱなしだった。
……お兄様の許可なく使う事を禁止されているのもあるけれど。
――因みに『滋養強壮』効果は、お父様が既に王室に報告済である。他の人が作ると、私が作るものより効能が落ちるらしいが、それでも普通に使用する分には十分なのだそうだ。
私の
綺麗な茸には猛毒がある的な……?
調合方法でどんな効果にもなり得るという多様性を秘めた『ルア』。
滋養強壮効果の高いヨーメイシュをベースにすれば寿命を伸ばす効果だって得られるはずだ。
水とルアを混ぜただけでヨーメイシュが出来るなら、もっと丁寧に工夫を凝らせば出来るんじゃね?と、私の
流石の私でも、始めから成功するとは思っていない。何度も試行錯誤することになるだろう。
ただの容器であるガラスの瓶は、おいといて。
先ず、手を加えるのは――『水』か。
いつもは新鮮で綺麗な水を私がチートさんで作り出しているけど…………ふむ。
顎に手を当てながら、私は幾つかの方法を思案する。
「……ねえ、彼方」
くるりと振り返った私は、すぐ後ろに立っていた彼方を見た。私がここで振り向くとは思っていなかったのか、彼方はキョトンとしている。
「どうかしたの?」
「あのね、彼方は水を出せる?」
「あ、……ごめん。浄化とか光魔術は出来るんだけど……」
「聞いてみただけだから、そんな顔しなくて大丈夫だよ」
私はしょんぼりと肩を落とした彼方の頭を撫でた。
彼方たん超可愛…………って、金糸雀さん。そんな目で見ないで!?
……コホン。ええと、聖女である彼方は聖属性や光属性の魔術に特化している。
魔力量が多いのを良いことに、全属性魔術のゴリ押しをしている私とは違う。
私はチートだが、彼方もチートである。
私と彼方との力の差を感じてしまうかもしれないが、それは単に人生経験の長さによるものだ。
魔術はイメージが大切で、彼方よりも長生きしている私の方が有利になっているだけ。
彼方もこれから沢山の経験を経ることで、チートっぷりが増すはずだ。
機会があったら特訓してあげよう。
……え?『止めなさい』?
私の肩に手を乗せたお兄様が、真顔で首を横に振った。金糸雀にもジト目を向けられている。
……そんな目をしなくても良いじゃない!
心からの善意なのに……!
分かりました。分かりましたよ!彼方には手を出しませんって……!!
「だから……シャルが水を作ってくれたら、浄化するよ!」
私達が無言の攻防を繰り広げている間に、素直で優しい彼方は色々と考えていてくれた様だ。
「……え?あ、ああ。ありがとう!助かるよ!」
彼方からの提案は、私が思案していた中の一つなのでありがたく協力してもらおう。
「ウォーター」
私は早速ガラスの瓶の中に水を作り出した。
「彼方、よろしく!」
私の横に並んだ彼方の前にガラスの瓶を滑らす。
「う、うん!任せて!」
彼方は胸の前で両手を組み合わせた。
瞳を閉じて、神に祈る様に手を組み合わせる彼方は……正に聖女そのものだ。
思わず彼方の横顔に魅入ってしまう。
彼方が手を合わせてからほんの少し経つと、柔らかく暖かな光が彼方の全身をふわりと包み込んだ。
その光はやがてガラスの瓶に吸い込まれるようにして……消えた。
おお……。神秘的だ。
私もこんな風に見えてたりするのかな?……って、悪役令嬢の私と聖女の彼方は違うよね。
「出来……た?」
彼方がそっと瞳を開けた。
彼方と一緒に覗き込んだガラスの瓶の中の水には、キラキラとした粒子の様な物が混ざって見えた。
『綺麗だね』と私が言い掛けるよりも先に、彼方が驚いた様な声を上げた。
「あれ!?何か混ざってる!?」
「……いつもは混ざらないの?こんなに綺麗なのに?」
「こんなの初めてだよ!……どうしよう。失敗しちゃったのかな……」
首を傾げている私を見つめながら、彼方は泣きそうに顔を歪ませた。
「だ、大丈夫だよ!失敗してもやり直せば――」
「大丈夫よ」
私達の間からヌッとカトリーナが顔を覗かせてきた。
「「え?」」
「失敗じゃないわよ。ちゃんと浄化されているもの」
驚く私と彼方には目を向けず、カトリーナはガラスの瓶の中を凝視している。
「でも、何か混じってて……」
「きっと、貴方達二人の規格外の力が合わさったからだと思うわ。悪いものは全く感じないし、このまま使っても大丈夫よ」
女神であるカトリーナは、こんなつまらない嘘を吐かないはずだ。
それでなくともラーゴさんの命が掛かっているものを作ろうとしているのだから……。
「……彼方。このまま続けよう」
「うん」
視線を合わせた私と彼方は大きく頷いた。
水は浄化出来た。
次は『ルア』の加工である。
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