新天地~大きなレオ①
どうしてこうなった?
……ううん。私がやらかした。
私は困った顔をしているレオから、サッと目を逸らした。
これは……アレだ。きっとアレだ。多分アレだ。……間違いなくアレだ。
ジワリジワリと全身が汗ばんでくる。
「シャルロッテー……」
子犬の様な悲しいそうな声が図上から降って来るが、罪悪感がありすぎて直視する事ができない。
このまま誤魔化せるなら……いや、それは駄目だ。子供をこんな姿にさせておいて、中身アラサーの私が逃げて良い問題ではない。
私は目の前の大きな子供をチラリと見上げた。
……『チラリ』なのは罪悪感からだ。
レオは、レオのお母さんのリラさんが竜体になった時の大きさ程になっている。
尻尾は竜のままの……人間の子供の姿。
これでレオが竜の姿であったなら『大きくなったね!』で済まされるかもしれないが、残念ながら人間の子供の姿なのだ。
どう見ても……私がやらかした事態に他ならない。
「それで、何をやらかしたのよ?」
私がやらかした事を見抜いた金糸雀は、私の肩に止りながら溜息交じりにそう呟いた。
「あははははっ」
「笑っても誤魔化せないわよ」
笑って誤魔化してみようと思ったが……バッサリと切られた。
「うっ……」
「寧ろバレない思う事がおかしいでしょう。明らかにあなたの仕業よね?」
金糸雀はヤレヤレという様に羽を真横に広げた。
さっきからずっとレオから降り注ぐ視線も痛いし……。
現実逃避は止めて、この問題を解決しなければならないだろう。
はあ……。
深い、深い、溜息を吐いた私は、取り敢えず……
「説明するから座ってくれる?」
今までずっと立ったままだったレオに座ってもらい、事情を説明する事にした。
*****
「……と、いう訳なの」
私が説明を終えると――――。
「凄いわね……。奇抜な発想と行動力はあなたらしいというか、なんというか」
金糸雀は苦笑いを浮かべながら溜息を溢した。
「お父様にも来てもらった方が良かったかもしれないわね」
「サイに?」
「ええ。魔力を封じられているただの猫だけど知識だけは無駄にあるでしょうからね」
……金糸雀さん。父親の知識を『無駄に』って。
「ああ、誤解しないでくれる?尊敬はしているから……」
おっと!金糸雀さんのツンデレ節でしたか!
だったら、魔王も報われるね!うん、うん。
レオはといえば……。
「すっげー!シャルロッテすっげー!!」
キラキラと瞳を輝かせながら私を見ている。
何故だろう……そんな純真な瞳を向けられると――心が痛む。
「……ごめん。私があの時にミスを犯さなければこんな事にはならなかった筈なのに」
「えっ?」
「いや、だから!私のせいでレオの身体が大きくなっちゃったんだよ!?」
レオは私の言っている意味が分からないという様に、キョトンと瞳を丸くしながら首を傾げた。
「……怒っていないの?」
「怒る?どうして?」
「……へっ?」
次に瞳を見開きながら首を傾げたのは私の方だった。
泣きそうな顔をしていたレオだったから、怒られなくても何かしらの文句を言われてもおかしくないと思っていた。それなのに……。
「シャルロッテは僕の為に色々してくれてたんだもん!怒ろうとなんて思わないよ?」
レオは私の顔を覗き込む様に顔の位置を低くしてきたが――
ごめん、レオ。その大きさで覗き込まれたら……ホラーでしかないんだ。
レオの片目の大きさが私の頭の大きさなのだ。
「……ありがとう。レオ」
私はにこやかに微笑みながら(表面上)レオの頭を撫で、そっと押し返した。
「まあ、爪が甘かったといえばそれまでだけど……頑張ったんじゃないかしら?」
金糸雀はそう言いながら、私の頬に自らの頬を当ててきた。
モ、モフ……!デレた金糸雀さんのご褒美タイムですか!?
調子に乗ってスリスリと頬ずりし返したら……ジト目の金糸雀と目が合った。
……すみません!嬉しくて調子に乗りました!……だからそんなに引かないで!
私の願いも虚しく、金糸雀はレオの膝の上まで逃げてしまった。
ああ……!私の癒やしが……!
っと、本題から逸れてしまった。
私がレオの魔力を解放している最中に犯したミス。
――『たまごアイス』事件とでも呼ぼうか。
レオの魔力の詰まった巾着袋を弾力のある透明な丸い膜で何重にも覆って保険を掛け、そこにストローを差して少しずつ魔力を体内に循環させていったのだが……それが、最後にブシュと飛び出したのだ。
まるで、たまごアイスの最後の様に。
最後にそんな試練が待ち受けているだなんて知らなかった子供の頃は、アイスで手や袋をベトベトに汚したっけ……(遠い目)。
まさか、今回もそんな事になるなんて知らなかった!!
……と、私は結局のところ油断していたのだ。最後まで気を抜いたら駄目だったのに……。
残り僅かだった魔力が一気にレオの中に循環した――
「まあ、半日もすれば戻るでしょう」
本来の落ち着きを取り戻した金糸雀は、レオをジッと見つめた後に首を傾げた。
「本当!?分かるの!?」
「ええ。気の流れを見れば……ね。良かったわね」
ペシペシッと金糸雀はレオの膝を羽で叩いた。
「良かったぁ……」
このまま戻らなかったらどうしようかと思ったよ。
「えー……」
安心した私の声とは真逆に、レオが不満そうな声を上げた。
「嬉しくないの?」
「うん。よく見れば格好良いし!」
「竜の姿で大きくなった方がもっと格好良いんじゃないの?」
「なれるかな?」
レオは今まで小さな竜の姿にしかなれなかった。だから、尻尾を隠し切れなくても敢えて人間の姿でいたそうだ。
レオなりのプライドなのだろう。
「あ、でも、ちょっと待って。ちゃんと魔力が循環しているかを最後に確かめさせて」
何もかもが中途半端な状態で戻って来てしまったので、きちんと後片付けをしないと。
それは、主にストローになってくれた光の粒達や私の力の欠片である。
レオに許可を取った私は、もう一度レオに触れた。
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