新天地~レオの魔力➂

「で、出来た……!」

私の左手には、優しい白色の光を纏った太めなストローが一本ある。

理想通りの太さに思わず頬が緩む。


光の粒達が協力してくれて出来た大切なストローだ。


「ありがとう!」

潰さない位の強さでストローをギュッと抱き締めると……


「これであるじをよろしくね」

「たすけてね」

「ぜったいだよ?」

「やくそく」

ストローの中から光の粒達の声が聞こえた。


「うん。約束!」

もう一度ストローを抱き締めた私は、ソレを持ってレオの魔力の詰った巾着袋に向き合った。


パンパンに膨らんだ黄色の巾着袋は今も少しずつその容量を増してきている。

いつ破裂するかもしれない危険な状況には変わりない。

虹色の光の粒が溢れているリボンの部分に、このストローを挿し込むのだ。


最善の解決策が浮かんだと思って作ってみたが……いざ実行するとなると、ジワリジワリと心に不安がこみ上げて来る。

不安を少しでも解消しようと何度も深呼吸を繰り返す。


落ち着きなさい、シャルロッテ。

私は一人じゃない。力を貸してくれたこの子達が一緒だ。だから……大丈夫!


最後に大きな深呼吸をした私は右手をかざした。を掛ける事にした。


しっかりとイメージを頭の中で練り上げた私はそう呟いた。


呟きと共に、私の魔力がゆっくりとレオの魔力の詰った黄色の巾着袋を幾重にも包み込んでいき…………。


「よし!保険もOK!」

私はツンとソレを指先でつついた。


私が唱えた呪文は『マトリョーシカバー』。

ダジャレの様な呪文だが、大切なのはイメージだ!!

……と、なんとなくフォローしてみた。


その言葉からある程度は想像出来るかとは思うが……。

マトリョーシカの様な人型の陶器等ではなく、透明な丸い膜の様なもので巾着袋をカバーしてみた。

一見しただけでは、透明な風船の中に巾着袋が入っている様にしか見えないが、実は風船の中は何重にもなっている。

例えるならば……レンズの分厚い眼鏡を横から見た時に、幾重にも層が見える様な状態だろうか。

これで万が一、巾着が破裂してしまう事になっても、ある程度は抑える事が可能な筈である。ただし、あくまでも応急処置として……。

魔力の暴走なんてチート持ちの私でも経験した事がないから、どうなるか分からない。


そうならない為にもこれからは慎重に……っと。


私は右手に持ち替えたストローに、自分の魔力を流して同調させる様に重ねた。

マトリョーシカバーで作った丸い膜が、ストローを拒絶するのを防ぐ為だ。


同調の効果のせいか、丸い膜に突き立てたストローは何の抵抗もなくスッと中に沈んでいったので、そのまま巾着を結んでいるリボンの部分の、虹色の光の粒が溢れている所にストローをゆっくりと挿し込んだ。


入らないかもしれないという不安はあったが、そんな心配は杞憂に終わった。

ストローの太さが変わったからだ。

チートなストロー……。でも、そのお陰でスムーズに事が進んでいるのだから良しとする。


巾着袋にストローを挿すと、虹色の光の粒達はその中を通って次から次へとレオの身体の中に出てくる。


……ちょっと勢いがありすぎかもしれない。


「もう少し、勢いを無くせる?」

「うん!ちょっとぎゅってするね!」

ストローに向かって尋ねると、直ぐに元気な返事が返ってきた。


どうするのかと首を傾げながら見ていると、ストローの真ん中の方がクッと窪んだ。


……成る程。

狭い箇所を作った事で、物理的に勢いを抑えたのだ。


これなら大丈夫だろう。

徐々に小さくなっていく巾着袋を私は黙って静かに見守り続けた。



しかし……。


「あ……!!」

――――アクシデントは最後に起こった。



****


「いっ……ったーい!!」

覚醒した私は額を押さえた。


「シャルロッテ!!」

目の前には、心配そうな眼差しを浮かべた金糸雀の姿があった。


「……金糸雀?……どうしたの?」

私は今もズキズキと痛む額を押さえたままで金糸雀を見た。


この痛む額は金糸雀のせいだ。

私が覚醒するまでずっとくちばしつつかれていたのだろう。

ここまで動揺している金糸雀の姿は、なかなかにレアである。

一体何が金糸雀をここまで動揺させているのか……。


「レ、レオが……!」

「レオ……?レオがどうした……の!?」

状況が飲み込めない中、金糸雀の羽先に促されるままにレオに視線を移した私は……そのまま呆然と瞳を見開いた。


……確かに、は金糸雀でも動揺する。


大きな困惑と動揺をし過ぎて、最早笑ってしまいそうにさえなる。


「シャルロッテ……どうしようー?」

困惑した様な声が頭上から降って来た。



ええと……、どうしてこうなった……。


私は目の前にいるを見上げながら額を押さえた。

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