女子会①
「彼方、久し振りー!」
「うん!久し振りだね!」
私達はギュッと抱き締め合った。
復讐を終えた後、アヴィ家に二日程滞在をした彼方は、その後クリス様と一緒に王城に戻って行った。
別れる前よりも彼方の肌艶は格段に良くなり、頬は少しふっくらした様だ。
……といっても、栄養失調と虐待と影響で心も身体ボロボロだった彼方……。
今も充分に細いままである。
お兄様から、クリス様が『彼方を太らせよう』作戦を考えていると聞いた時には、単純に嬉しかった。
彼方はクリス様の事が恋愛感情として『好き』だと言っていた。
その想い人であるクリス様が自分の為に何かをしてくれるという行為は、彼方にとって色んな意味での救いになる事だろう。
身体に付いていた過去の傷は消せても、心の傷は簡単には消せない。
記憶でも消してしまわない限り……一生心に残り続ける。
何の罪も無かった少女の心に……だ。
クリス様にはこのまま彼方を心から支え続けて頂きたいと切に思う。
彼方へ恋心も芽生えたみたいですし?
お兄様が楽しそうにそう教えてくれたのだ。
っと……脱線してしまった。
今日は二人だけのお泊まり女子会をする為に、王城の中にある彼方の部屋にお邪魔をしている。『冬休みが終わる前にやろうね』と彼方と話していたのだ。
勿論、ここまではアヴィ家から一飛びのゲートを使用させて頂いた!
早くて便利だよ!
彼方の部屋にお邪魔させて頂いている訳だが……。
シルビア様……気合い入れたなー。
私は苦笑いを浮かべながら、彼方の部屋の中を見渡した。
『シルビア様』は、クリス様の母親でこの国の王妃様だ。
私の母と仲が良く、女の子が欲しかったシルビア様には着せ替え人形の如く可愛がってもらったものだ……。
彼方はとても可愛く、素直で優しい子だ。
そんな彼方をシルビア様は大層気に入ったらしい。実の息子のクリス様そっちのけで、まるで自分の娘の様に彼方を可愛がっているそうだ。
……そう、クリス様が苦笑いをしながら教えてくれた。
その為、彼方の部屋はシルビア様の趣味全開の……白とピンクベースのフリフリ、ヒラヒラな乙女部屋に仕上がっている。
「凄い部屋……だね」
「シルビア様が色々と良くしてくれるの」
思わず呟くと彼方は頬を染めてはにかんだ。
「まるでお母さんみたいで……少し嬉しい」
「……っ!!」
寂しそうにはにかむ彼方を私は咄嗟に抱き締めていた。
「……え?どうしたの?」
焦った様な彼方の声が聞こえる。
「よし!彼方!飲もう!!」
私はガバッと顔を上げた。
「えっ!?……私、未成年……」
「大丈夫!!この世界は十六歳から飲めるから!!」
「ええっ!?」
「はいはい。座った、座った」
私は困惑している彼方をふかふかの絨毯の敷かれた床に無理矢理に座らせた。
(……日本では未成年の飲酒は禁止ですからね!?
お酒は二十歳になってから!! BYシャルロッテ)
「凄いね……コレ」
彼方が瞳を輝かせながら嬉しそうに見ているのは、この日の為に用意した特別な料理達だ。
おにぎり、チャーハン、天ぷら、焼き魚、唐揚げにハンバーグ、卵焼き……等々。
日本ではおなじみの食べ物である。
これらが全てはテーブルの上に所狭しと並べられている。
元の世界に嫌な思い出が沢山だとしても……そろそろ日本食が恋しくなるかと思ったのだ。
ソファーではなく絨毯の敷かれた床の上に座っているのは、この方が私達にはなじみが強いと思ったからだ。二人だけの空間なのでそれぞれ自由に足を崩している。
服もしっかりとしたワンピースから寝間着に着替えて準備はOKだ!
「私の手作りだから、彼方の思っている味とは違うかもしれないけど……」
「んーん。嬉しい!」
笑顔の彼方にホッとした私は彼方のグラスにスーリーのお酒を注いだ。
初心者でも飲める低アルコール&微炭酸の苺味である。
同じ物を自分のグラスにも注いだら……
「じゃあ……女子会に乾杯!」
「乾杯!」
私と彼方はお互いのグラスをぶつけ合った。
恐る恐るグラスを傾ける彼方を横目に、自分のグラスをあっという間に空にした私は、早くもお代わり分を注ぎ入れた。
今日は彼方とのおしゃべりがメインなのでアルコールは低くて良い。
ほんのりと楽しく過ごすのだ。
「……美味しい」
瞳を丸くしながら彼方が呟く。
彼方に美味しいと思ってもらえたなら何よりだ。
「アルコールが低くてジュースみたいだけど、一気に飲むと酔いが回っちゃうから、合間にこのお水を飲んでね?」
私はグラスに入った水を彼方に渡す。
「うん。分かった」
彼方は大きく頷きながらそれを受け取る。
お酒を飲んでいる間に飲む水を『和らぎ水』と言う。
本来はアルコールの高い日本酒や焼酎、ウイスキーといったお酒を飲む際に一緒に飲んだ方が良いとされている物だが、お酒初心者の彼方にも必要だと思ったのだ。
この世界は十六歳からお酒が飲めるから、身体がそう作られている可能性がある。私の今の身体もそうだ。
しかし、他世界の彼方の身体は分からない。
なので、万が一の為に万能薬(お兄様には内緒!)も用意してあったりする。
……そんな用意までして無理に飲ませるなというご意見はごもっともです。
しかし、良い子の彼方をたまには解放してあげたいと私は思ったのだ!!
「やっとお米を手に入れられたんだ。そこにはお米だけじゃなくて日本にあるのと同じ様な食材がいっぱいあってさ。しかも島の名前が『ライス島』って言うんだよ!」
「凄いね、その島!私も行ってみたいな」
「あ、今度一緒に行こうよ!ウサギの獣人さん達がいっぱいで癒やされるよ!」
「シャルロッテはモフモフが大好きだよね」
「うん!大好き!ちびっ子達可愛かったよ!」
「あははっ。良いな。私も早く会ってみたい!」
彼方は声を出して笑ってくれていたが……ふと、真面目な顔になった。
「お米が見つかったという事は……出来たの?」
「うん。完成したよ」
ジッとこちらを見つめる彼方に私は大きく頷き返した。
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