ライス島③


ギュッと唇を噛み締め、両手を握り締めると……。

お兄様が私の頭を優しく撫でてくれた。


「お兄様……私……。」

「大丈夫。シャルロッテが気にする必要は全くないよ。」

「でも……あんなに楽しそうに……」

「うん。」

「私の方が………好きなのに……」

「うん。」

「……この世界の誰よりも……分かっているのに……」

「うん。そうだね。」

「何よりも愛しているのに……!」

「……シャルロッテ。」


「本当の美味しさも知らないくせに盛り上がるだなんて、米好きとしては許せない!!」

「……うん?」

私の頭を撫でていたお兄様の手がピタリと止まる。


「玄米も良いけど、やっぱりお米は白米なのです!!炊きたてのご飯の匂いといったら……!!それだけでご飯が進むのです!」

「……そっか。」


あれー?

お兄様はどうしてそんな…痛い子を見る様な視線を向けてくるのだろう?

私は何か間違った事を言っただろうか?


思ったよりも大きな声を出してしまった為か、いつの間にかリカルド様とコマチさんがこちらを見ていた。


って……どうしてリカルド様は悲しそうな顔をして……コマチさんは生暖かい笑顔を浮かべながら大きく頷いているのだろう?


「……お兄様。私、何かやらかしました?」

「んー?いつも通りだから大丈夫。」

瞳を細めながら微笑むお兄様。


……いやいやいや!

明らかにリカルド様だけが大丈夫ではない!

泣きそうな顔をしているではないか!?


「リカルドは期待が外れてガッカリしてるだけだから、放って置いて構わないよ。それよりも、どうするの?」

「……どう、とは?」

「この米をどうしたら美味しいご飯に出来るの?」

「それはですね!」

お兄様のその言葉で、私の意識は完全にお米の方へシフト変更されてしまった。


ごめんなさい、リカルド様。

待望のお米への欲望は恋心も上回るのです!!


そう!

私の使命は美味しいご飯を炊く事だ!!


「コマチさん!蓋付きのお鍋と火とお米を下さい!!」

リカルド様とコマチさんの間に割って入り、コマチさんの両手を握り締めた。



*****


沢山の島の皆さん達に見守られながら、サイラスが外にある炊事場で火を起こしている。


コマチさんが用意してくれたのは、大きめの蓋付き鍋が二つ。

何故二つなのか、それは玄米ご飯と白米の二種類を用意しようと思ったからだ。


先ずは玄米ご飯の下準備から。

玄米をさっと軽く洗ってから、お米の量の1.5倍の量の水に浸ける。

本当は一晩浸けておいた方が良いのだが……そんなには待てない。

という事で、一時間位にする。


私のチートさんで時短も出来るが、島の皆さんに説明するのにはきちんと手順を踏んだ方が良いと思う。


そして、玄米を浸けている間に精米をするのだが……。

ここにミラが居ない事が残念でならない。

ミラが居たら精米機を作ってしまえるのにっ!!!


玄米の状態から白米にする為にはをしなければならない。

すり鉢に玄米を入れ、すりこぎ棒で突いて摩擦によって皮を剥がしたり、すりこぎ棒が入る口の大きさの瓶の中で突く様にするのでも良い。

コマチさんの家に丁度良い大きさの瓶と棒があったので、それを借りる事にした。


「時間がかかるかもしれないけどみんなで頑張ってね。」

興味津々の子供達に玄米入りの瓶を手渡した。

昔ながらの精米方法は、なかなかに時間と体力を必要とする。

しかし、子供達なら楽しみながらやってくれるだろう…という計算である。

「最初は僕!!」

「えー?私もやりたい!」

「順番だよ!順番!!」

「じゃあ…次は…」

私の思惑通りに子供達はワイワイと賑やかに作業を進めてくれている。


悪い大人でごめんね……。

ズキッと胸が痛んだが、これも美味しいご飯の為だ。

頑張れ可愛い子供達!!


……と、昔ながらの精米方法をしてもらっている傍らで、私は大きな鍋の一つに玄米をパラパラと入れた。その量はこの鍋で炊ききれる位の量である。

私はその鍋に向かって右手を翳した。

イメージは勿論、玄米の皮が剥がれ落ちた真っ白なお米だ。

そして、呪文はこれしかない!!


「精米!!」

呪文を唱えたと同時に鍋が眩い光に包まれる。

島の皆さんから動揺の声が上がったが、私は仕上がりを想像してにやけそうになっていた。

子供達に頑張って精米をしてもらっているが、皆で試食するには少なすぎるのだ。

その為に私はこうしてチートさんを発動させたのだ。

全ては私がご飯を食べたいが為に!!!


光が消えた後には……。


「おおー!マイが白いぞ!」

「こんなマイは見た事がない!!」

島の皆さんから歓声が上がった。


そうでしょう。そうでしょうとも!!

まだ出来上がっていないというのにドヤ顔をしたくなる。


「白くてキレイなマイを食べてみたいな!」

「ああ。どんな味がするんだろうな!?」

島の大人達が子供の様に瞳をキラキラと輝かせている。


……しかーし!

「これはこのまま食べません!!」

私は胸の前で両手をクロスさせ、バッテンを作った。

このまま食べさせてなるものか!


途端に落胆の表情を浮かべる大人達。

私はそんな大人達に向かってニコリと笑いかける。

「美味しくなる呪文は『はじめチョロチョロ中パッパ、赤子泣いても蓋取るな』です。」

炊飯器という便利なものが無い島では、炊事場のたき火でご飯を炊くのだ。


「良いですか?決してこの呪文を忘れてはいけませんよ?」

だからこそ、この言葉は大切なのだ!!


「ハジメチョロチョロ……」

「ナカパッパ……」

「アカゴ?ナイテモフタトルナ?」

同様した面持ちでお互いに顔を見合わせる大人達。


「シャルロッテ、それどういう意味なの?」

お兄様が私にコソッと耳打ちしてくる。

「それはこれから分かりますよ。」

ニコッと笑うと、お兄様は首を傾げた。

ただ口で説明するよりも実践しながらの方が良いだろう。


すると、タイミング良く子供達が声を上げた。

「出来たー!!」

「お姉ちゃん出来たよ!」

どれどれ?

子供達が嬉々としてとして掲げた瓶の中は、キレイに皮の剥がれた白いお米があった。底の方には剥がれた皮が糠として残っている。

この糠も色々と使い道があるので、後で教えてあげよう。


「ありがとうー!!」

お礼を言いながら子供達の頭を撫でた。

子供達はきゃあきゃあ言いながら撫でられてくれる。

モフモフ天国ー!!最高!!


……はっ!

危ない危ない……。


きちんと状況は分かってますから、お兄様もリカルド様もそんな顔をしないで下さい。


浸けておいた玄米もそろそろ良い頃合いだろう。

「さあ、ご飯を炊きますよー!!」

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