ライス島④
火を起こした釜戸に蓋付き鍋が二つ並べられた。
チートさんで、さっさと炊いてしまいたくなる衝動を……ぐっと押さえる。
玄米と白米では炊き方が違うので、常日頃ご飯を作っているママさん達に火加減の調整をお願いする事にした。
先ずは玄米の炊き方だ。
火加減は強火のままでも可。吹きこぼれる様な時は火を弱め十五~二十分程。
焦げが気になる時は時々蓋を開けて確認しても良い。
焦げ付くような音がしてきたら、蓋を開けて、ビックリ水を入れる。
柔らか炊きの場合は多めに、硬炊きの場合は少なめに……と調整する。
水を入れたら、よくかき混ぜて蓋して煮立てる。
そこから十分~十五分位で弱火にし、火を止めた後は、蓋をしたまましばらく蒸らすのだ。
蒸らす時間は五分程度でOK。
これは『ビックリ炊き』と言われるもので、簡単に美味しく出来るのでオススメだ!
次に白米の炊き方だ。
先程、『はじめチョロチョロ中パッパ、赤子泣いても蓋取るな』と美味しくなる呪文を伝授した通りに、火加減と蓋を取らない事が大切になってくる。
始めはないから三〜五分程、中火で加熱する。
沸騰したら弱火にし、吹きこぼれない火加減をキープする。
弱火にしてから五分〜十分ほど加熱し、蓋の隙間から出る蒸気が少なくなり、『ピシッ』という小さな音が聞こえたら火を止める。
火を止めてから十分程蒸らしたら出来上がり。
時間が経つにつれて、両方の鍋からご飯の炊き上がる良い匂いがして来た。
……懐かしい匂いだ。
この匂いをかぐといつも思い出す。
『和泉を妊娠してる時は、ご飯の炊き上がる匂いがダメで辛かったわ。だから、てっきりご飯が嫌いな子が生まれるのかと思ったら…和泉ってば姉弟の中で一番ご飯が大好きなんだもの。お母さん驚いたわ。』
そう言って笑うお母さんの顔……。
お母さんの作ったご飯が食べたいな……。
私は遠い昔に食べた懐かしい味に思いを馳せた。
一人暮らしをするまでは、『またこのおかずなの!?』『たまには違う物が良い!』なんて、わがままを言っていたけど……離れてみて両親の大切さを実感した。
何もしなくてもご飯が出てくるありがたみといったら……。
「シャルロッテ。出来たみたいだよ?」
お兄様が手元の懐中時計をこちらに向けて来る。
おっと…それは見逃せない。
ママさん達に木ヘラで優しくご飯をかき混ぜてもらう。最近の炊飯器なら炊きたてのご飯を混ぜる必要はないみたいだが、今回は鍋で炊いたご飯だ。
……何よりも早くお焦げが見たい。
わくわくしながらママさん達の作業を見ていると……
お焦げ来たーーーー!!
思わずそう叫びそうになる口元を押さえた。
艶々のご飯に丁度良いお焦げ。
見ているだけでも幸せだが……。
早く食べて更に幸せになろう!!
皆の分のお皿が足りない為、大きな葉っぱを浄化してお皿代わりに使う事にする。
お皿代わりの葉っぱの上に、白米と玄米のご飯を二種類取り分け、皆に配り終えると……
待ちに待った試食の時間である。
いそいそと木のベンチの様な所に座り、膝の上に葉っぱのお皿を乗せた。
「いただきます!」
パチンと胸の前で手を合わせてから、即席で作った木の箸を使って一口分の玄米ご飯を取る。
これが念願の……念願のご飯ー!!
艶々のご飯は見ているだけでも涎が出そうだ……。
涎が垂れない内に食べなければ。
少し行儀は悪いが、大きな口を開けて箸を運ぶ……………。
うっ……うまっ!!
え?何これ?美味し過ぎる!?
玄米ってちょっと癖があって食べずらかったりもするのに、全然嫌な匂いもしないし、お米の一粒一粒がモチモチで噛んでいて飽きない。
玄米がこんなに美味しいなら白米は……?
白米も同じ様に一口分取り、ドキドキしながら口に運んだ。
…………っ!!何これ?!
玄米程ではないが、これまた一粒一粒がモチモチとしていて……白米のデンプンが甘いっ!!
それに、これは……親戚の家から買って食べていた実家の【コシヒカリ】の味だ。
懐かしい……。私はこの味で育って来たのだ。
じわっ…と、瞳が潤んでいくのが分かる。
私は……ずっとこれを食べたかった。
「シャルロッテ、大丈夫?」
隣に座っていたリカルド様が心配そうな顔で私を見下ろしていた。
私は目尻の涙を拭いながら頷く。
色々と思う所はあるが、悲しい訳ではないのだ。
リカルド様を心配させない様にする為に、私は微笑んで見せる。
「これがマイなのかマイ~?!」
「いつもより美味しいマイ~!!」
「こんな食べ方があったのかマイ~?!」
私からすればこれが本来の食べ方なのだが、ライス島の皆さんは違っていた。
口々に驚きの声を上げている。
小さな子供達は嬉しそうに、キャッキャと笑いながらマイをかき込んでいた。
やっぱりご飯はこれだよね!
「うん。美味しい。普段の料理もパンよりもマイに合う物がたくさんあるよね」
「ああ、肉料理とかはマイの方がお腹に溜まるだろうし」
お兄様の言葉に頷くリカルド様。
「お米…マイを使ってアイスクリームも作れるのですよ。」
二人の反応に気を良くした私はうっかりそう発言してしまった。
…しまった。
そう思った時は既に遅かった。
「シャルロッテ。作って。」
アイスクリームの教祖の目がキラリと光った。
ズイッと目前にお兄様が迫って来る。その有無を言わさない視線に逆らう事なんて、私には出来ない…。
「…はい。アヴィ領に帰ったら作ります。」
失言を反省しつつ、私は素直に頷いた。
「これが……あのマイ……。」
ボソッと呟く言葉の方を見ると、サイラスが呆然とマイの乗った葉っぱのお皿を見つめていた。
まあ…今までマイは…生米のままバリバリとそのまま食べていた訳だし、それが当たり前だった食べ物が、まさかこんなにふっくらモチモチになるなんて想像出来ないよね。
「美味しいですか?」
「はい。とても美味しいです。」
私の質問にニッコリ笑うサイラス。
これならば!
「このマイを定期的に欲しいのですが…」
私は今回の目的をもう一度告げた。
「分かりました。お嬢様には優遇させて頂きます。」
よっしゃー!!お米getだぜ!!!
心の中でガッツポーズを取る。
「その代わりに……」
ん?条件があるの?
「何でしょうか?」
お米の為なら出来る限り叶えちゃうよ?
「先程のマイの炊き方?を譲って下さい!」
「ええ……と、つまりは、マイと一緒にレシピを販売したいという事でしょうか?」
「そうです。」
大きく頷くサイラス。
私には問題ない。
マイが世の中に広まってくれたら、美味しい料理やお菓子と……可能性が無限大に広がるのだ。
寧ろ、これは私が望んでいる事だ。
お兄様をチラリと見ると、お兄様は瞳を細めながらニコニコと笑っていた。
……早く了承して、マイを持ち帰りたいのだろう。アイスクリームの為に……。
ぶれないお兄様は嫌いじゃないですよ?
「分かりました。レシピをお渡しします。」
「…ありがとうございます!では、交渉成立という事ですね!」
「はい。よろしくお願いします。……所で、お値段はどうしましょう?」
そう。大事なのは金額だ。
今までバカ売れした開発商品のおかげで、お小遣いは潤沢にあるが……。
「……値段ですか?お嬢様にお渡しするのは無償でお渡ししますよ?」
「…え?」
「あれ?言いませんでした?」
「た、多分……?」
「マイはレシピ付で売れば絶対に人気が出ます。そうすれば島の人々の生活も潤い、我が領も潤い……で何の問題もありませんよ。」
ええと……お米……無料でgetだぜ?!
まさか、毎月百キロが無料で手に入るとは…。
正直に言えば、今までのんびりとマイを作っていた島の皆さんは嫌がるかと思った。
しかし、ウサギ獣人は楽観的だが真面目で、マイ作り等の労働に向いているそうで、今まで自分達のご飯や家畜の飼料にしか使えなかった物が、売れると知るや張り切り出した、
ライス島の気候は安定しているからマイを定期的に収穫可能である。
田畑を耕す為に魔道具や家畜を投入し、人手が足りない時は手配する様にする。
……等々の話を島の皆さんとサイラスがキラッキラとした瞳をしながら進めていく。
島の皆さん曰く…
『もうマイ無しでは生きていけない』
そうで、何がなんでも世の中に知らしめてみせる!!!
との事だった。
突っ込みどころは満載だが……
一件落着!!
私も皆さんもマイで幸せ!!
私は沢山のマイを貰って帰路についたのだった。
ライス島のお米が『シャルロッテマイ』と名付けられ販売される事になるのを……この時の私はまだ知らない。
どうしてこうなった?!
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