お酒のために乙女ゲー設定をぶち壊した結果、悪役令嬢がチート令嬢になりました

二人で…。

「本当にこんなに近場で良かったの？」

「はい。リカルド様と一緒なら、私はどこでも嬉しいです。」

「…そっかぁ。」

ご機嫌そうに尻尾をブンブンと振るリカルド様と手を繋ぎ、私達はアーカー領内のとある場所を歩いていた。

「うん。ここにしよう。」

リカルド様が立ち止まったのは、少し小高い丘の上で、そこからは湖も一望出来る。

「わー！綺麗な場所ですね。」

「うん。僕のお気に入りの場所なんだ。」

リカルド様はニコニコと笑いながら、持って来たシートを広げてくれる。

「さあ。僕のお姫様、どうぞ。」

シートの上に、小さなクッションを乗せた所に私を座らせてくれる。

リカルド様の小さな心遣いが嬉しい。

私とリカルド様は、昨日無事にアーカー領で行われた【婚約式】と言う、お披露目を終える事が出来た。これでもう私は、名実と共にリカルド様の正式な婚約者だ。

やったね！

私のお父様とお母様は用事がある為に、今朝アヴィ領へと帰って行ったが、私はリカルド様やリカルド様のお祖父様やお祖母様と交流を深める為に、数日間ここでお世話になる予定だ。

嬉しい事に、リカルド様のお祖父様もお祖母様も、私の事を孫娘の様に可愛がってくれている。

…良かった。

好きな人の家族には嫌われたくない。

リカルド様にそれを伝えたら、不思議そうに首を傾げられた。

「お祖父様には『でかした！』って言われたよ。」

…でかした？

私ってそんなに価値あったっけ？

まあ、公爵家の娘ではあるけどね。

「シャルロッテって…自己評価低いよね。」

リカルド様は苦笑いを浮かべた。

……？

私的には嫌われてないなら、それで良いのだ。

因みに、私が学院を卒業したら、結婚式を挙げる予定である。ふふふ。リカルド様のお嫁さんだ！！

「ニコニコしてどうしたの？」

私の隣に座ったリカルド様が、不思議そうに私の顔を覗き込んで来る。

「昨日の事を思い出して…幸せだなあって思ってました。リカルド様と婚約者出来たし、ゆくゆくは結婚も出来るなんて…。」

エヘッと。笑う。

すると、リカルドはシートの上でゴロゴロと転がり、悶絶し始めた。

「…リカルド様？」

キュウッと身体を折り曲げ、顔を両手で隠している。

「リカルド様。」

もう一度、名前を呼ぶと、リカルドがおずおずと顔を上げた。

「…な、何？」

困惑した表情のリカルド様に、私はニッコリ笑いかけてから、自分の膝の上をポンポンと叩く。

「……えっ？」

「膝枕です。どうぞ。」

両手を開いて、おいで、おいでと誘導する。

「え…でも重いし…シャルロッテ小さいから…。」

「大丈夫です。」

躊躇しているリカルド様の頭を無理矢理膝の上に乗せる。

…ふふっ。

これでリカルド様のお耳は触り放題である。

私の真の目的はここに有り！！

膝に頭を乗せたリカルド様は、始めこそ緊張でそわそわしていたが…10分も経てば、のんびりと寛ぎ始めてくれた。

…そろそろかな？

シルバーグレーのサラサラの髪を撫でながら、耳に触れる。

滑らかで、ビロードの様な触り心地の良い耳に触れると、リカルド様か身体がビクリと揺れた。

何度も指先で髪や耳の辺りを往復させるが、リカルド様から制止の声はかからない。

作戦成功。

…モフモフで幸せだ。

「…シャルロッテ。幸せ？」

「はい。幸せです。」

「…僕も幸せ。」

私の膝の上で、恥ずかしそうに顔を赤らめながら微笑むリカルド様…

可愛すぎるだろ！！

早く、こうしてずっと二人で居れたら良いのにな。と、切に思う。

「…昨日の正装したシャルロッテも綺麗で可愛かったけど、僕はいつものシャルロッテの方が好きだな。」

リカルド様は仰向けになり、私の頬に触れて来る。

「…そうなんですか？」

それは嬉しい様な、複雑な様な…。

だって、ほら。きちんと綺麗にした姿を見せたいじゃない？

撫でられる頬のくすぐったさに、身を竦めると、リカルド様はクスッと小さく笑った。

「うん。正装のシャルロッテは綺麗過ぎて落ち着かないんだ。…誰かに取られそうで怖い。」

「そんな事はありません。ほら、私はつり目だし…モテないんですよね。」

苦笑いを浮かべる。モテないのは事実だ。

友達だって殆んどいないしね。

「それは…ルーカスが…」

「お兄様が…何か？」

キョトンと首を傾げると、リカルド様は曖昧に笑った。

「んー。何でも無い。」

変なリカルド様だ。

「…仮にモテたとしても、私はリカルド様だけで…リカルド様だけが私を好きでいて下さるだけで充分です。他の人は要りません。」

頬を撫でるリカルド様のスラッと長い指に、スリッと頬を押し付けると、一瞬、リカルド様の息が詰まった様な音が聞こえた。

「…本当？嘘吐いたら駄目だからね？」

…チュッ。

私の頭の後ろを軽く押して、自分に近付けたリカルド様の唇が、私の額に触れる。

……っ！？

「返事は？」

「………はい。」

「宜しい。」

真っ赤になって額を押さえると、リカルド様は瞳を細めて微笑んだ。

そして、半身を起こして、私の耳元に顔を近付けると…

『本当はシャルロッテの柔らかい頬にキスしたかったんだけど、我慢出来なくなりそうだから、額にしたんだ。』

悪戯が成功した子供の様にペロッと舌を出して見せる。

…………っ！！！

これはまずい。何がまずいって、私の心臓がドキドキし過ぎて爆発してしまいそうだ。

…何でこんなに色気があるのだろう。

「結婚するまで、手を出さない予定だから、僕の事を煽らないでね？」

微笑むリカルドに、私はブンブンと首を上下に振って答えた。

「そうだよ。シャルロッテは迂闊なんだから。幾ら、リカルドの耳や尻尾が好きだからって触り過ぎると襲われるからね？」

……。

「お兄様？！」

いつからここに居た！！

突然聞こえて来た第三者の声に、私はプチパニックを起こした。

お兄様はいつの間にか私の後ろに居たのだ。

驚き過ぎて…心臓が痛い。

どうしていつも神出鬼没なのだ。我が兄は。

「んー？わりと始めからかな？ニヤニヤしながら、リカルドの頭撫でたりしてる所とか見てたよ。」

「お兄様！！」

全くもう！！どうして私達の仲をいつも、いつも、いつも！！邪魔するのかな！

先に帰ったお父様達とは別に、私と帰る為にお兄様は残っていたのだ。

静かだと思って、放置したのがまずかった…。

「ルーカス…。」

「リカルド。ごめんね？でも額にキスはさせてあげたんだから許してね？」

悪びれた様子も無く、お兄様はクスクスと笑う。

「悪いと思ってないくせに。全く…。」

リカルド様は溜息を吐いて座り直した。

「あ、結婚するまでの辛抱じゃないよ？してからも邪魔するからね？」

「邪魔すんのかよ！」

珍しくリカルド様が声を荒げている。

それは仕方無い…。

だって、お兄様だもん。他人を煽る天才だ。

「さあさあ。シャルロッテお手製のランチでも食べようか。」

「おい。…ルーカス。」

「僕は君の未来のお義兄様なんだから大切にしてよね？」

グイグイと私とリカルド様の間に割って入って来る。

…うん。お兄様は今日もマイペースだ。

いつもの様に、お兄（魔王）様に乱入され、二人の甘い時間は中断されたのだった。

次は遠くに行こう。

私とリカルド様は静かに頷き合った。