ダンジョン③の3
「随分集まりましたね。」
お兄様とクリス様は仕事が早かった。
私達がじゃれ合いをしていた間の僅かな時間で、幻幽の魔石は山盛りに積まれている。
「この位でいける?」
ミラに確認してみれば、『充分過ぎる』と言う返事が来た。
「…シャルロッテ。」
寂しそうに私を呼ぶお兄様。
「お兄様…どうかしましたか?」
余り見ないお兄様の表情に私はドキッとした。
何かしたかな…?
「褒めて。」
「へ?」
「褒めて欲しいの。」
何この甘えん坊なお兄様!!
なつかない猫がすり寄って来た感動に近い。
何だか良く分からないけど…私はいつもお兄様がしてくれるみたいにする事にした。
「お兄様。ありがとう。大好きです!」
…何か恥ずかしいな。
私は照れながら、背伸びをしてお兄様の蜂蜜色の頭に手を伸ばした。
お兄様は撫で易い様にと、頭を少し下げてくれる。私はその頭をゆっくり優しく撫でた。
「ルーカスばかり狡いぞ!!」
それを見て騒いだのはクリス様。
同じ様にしないと落ち着かないと思った私は、フーッと溜息を吐いた後に、クリス様の頭に手を伸ばした。
王太子にナデナデも不敬だよね…。
内心は冷や汗がダラダラだ。
「クリス様もありがとうございます。お疲れ様でした。」
クリス様の金色の髪は細くてサラサラしていた。
「『大好き』が無い!!」
「はい、はい。クリス様そこまで。」
お兄様が苦笑いしながら、クリス様を諌めてくれる。
「ルーカスばかり…」
「僕の可愛い妹なんだから仕方が無いでしょ。」
「うーっ…」
「嫌われたく無かったらそこまで。」
「分かった…。」
お兄様はチラッと私に視線を寄越した。
『クリス様は気にするな』かな?
私は魔石の山に向き合い、右手をその上に翳した。
イメージを魔力にして送り込む…か。
私は知る限り、覚えている限りのイメージを魔石に送り込んだ。
「ミラー。出来たと思うよ?」
私の言葉を聞いて、即座に《鑑定》をするミラ。
「うん。大丈夫そうだね。じゃあ、ちょっと待ってて。」
ミラは魔石の前に座り込んだ。私と同じ様に右手を翳した後に瞳を閉じた。
ミラの右手によって、透明で硬質な魔石がグニャリと柔かくなったと思ったら、次には全てが纏まって、大きな塊となった。
こうして魔道具が作られるのか…。
自分が思い描いた物が形となったら、それは凄く楽しい事だろう。ミラがハマった理由が分かる。
後で分かった事だが、魔石を加工してそのまま魔道具にするのは高等技術だそうだ。
普通は媒体となる物を粘土やその他の物で作り、そこに魔石を核として使用するらしい。
今回の事はミラだから出来た事なのだった。
思っていたよりも早く、私が思い描いたイメージが形となって行く。
「これは凄いな。」
私達はミラの右手から目が放せなかった。
「完成。これで良いの?」
ミラに手渡されたそれを私は満面の笑みで眺める。
「うん。凄い。イメージと全く変わらない!」
「じゃあ…」
「作戦開始!!」
私は一人で結界の中から飛び出した。
勿論、完全防御結界付きである。
魔道具の紐を肩に掛け、私はそのスイッチを入れた。
キュイーーーーン。ブォォォォォ。
魔石その物を使用した魔道具は高性能で、そこら中にいる幻幽を次から次へと吸い込んで行く。
そう。
私がイメージしたのは掃除機である。
それも、ダイ○ンの吸引力抜群な強力掃除機だ。
これに『近付いたら吸い込まれる』と、学習した幻幽なんて吸引力を上げてしまえば、全く問題無いのだ。
この掃除機の魔石に少しでも反応したら否応無しに吸い込まれるのだから。
ふふふ。
何かのゲームみたいだ。
地下八階にいる全ての幻幽をあっという間に吸い込んでしまった。
お兄様達やお父様達が近寄って来る。
「終わったのか…?」
「はい。後は、この中にいる纏まった幻幽を浄化すれば終わりですね。」
このままゴミ箱に捨てられたら楽なのになぁ。
掃除機はプルプルと小刻みに動いている。
これは幻幽の仕業だろう。
超巨大化した幻幽をここから出すのって無駄じゃない?
バトルは必須になる訳だし。
あ、吸い込み口から聖水流し込んだら良いじゃないか!
「お兄様、例のアレを下さい。」
「ん?飲むの?」
「飲みません!ここに流し入れてみようかと!」
私は吸い込み口をお兄様に向けた。
「成る程ね。それなら良いよ。」
お兄様は私に、液体の入った小瓶を渡してくれた。
ふふふ。
この中身は勿論、聖水だ。
使用を禁止され、お蔵入りにされた《白ワインの女王シャルドネ》の方では無く、誰でも使える安全な聖水を作り出すまでに、お蔵入りになった試作の一つだ。
万が一の為に、一本だけお兄様にお願いをして持っていて貰ったのだ。
【強力聖水。レイスなんてイチコロさ!塵となって消えろ!】
これを吸い込み口から流し込む。
すると中から、
「キューー!!」
と言う、赤ちゃんの玩具の様な声?…音?がしたと思ったら、今までプルプルと小刻みに動いていた掃除機がピタリと止まり、動かなくなった。
………。
恐る恐る、掃除機に付いているゴミの取り出し口をパカッと開け、皆で中を覗き込むと……そこには透明で巨大な魔石が残されていた。
「お、おぉ…!!やったな!!」
歓声を上げ、拍手をする仲間達。
幻幽の討伐はこれで終わった。
地下八階制覇!!
呆気無さすぎてつまらなかったな…と、思いきや…。
ザワザワザワ…。
ゾッと身の毛もよだつ様な気配を感じた。
それは皆も一緒だった様で…一斉に同じ方向を振り返った。
「きゃー!!!!」
私達の背後には無数の手首が這い上がって来ていた。
念の為にと掛けたままだった簡易の防御結界には浄化の効果は無く…。結界の周りを手首が取り囲むというホラーな状況を生み出していた。
さ○子が居ないだけマシ!?
いやいや、そんな簡単な状況では無い!!
それに手首の動きが私の嫌いなアレに似ているのだ…。
そう蜘蛛に…。
…蜘蛛。
プチン。
私の中の何かが切れた音がした。
そこからの記憶は私には残っていない。
ミラに言わせれば、手首より私の方が怖かったそうだ。
無表情で手首達相手に『ホーリー』を唱えまくって、手首を全て殲滅した。
その後、クルリと結界の中で振り返り、中にいる皆をジーッと見つめ…
『悪しきもの…邪なもの…汚い大人は居ませんか?私が全て塵にしてあげましょう。』
そう微笑んだ後に、仲間達に向かって『ホーリー』を唱え始めたらしい。
散り散りに逃げ出す大人達。
…疚しい事があったのだろうか…。
私の体力が尽きて倒れるまで、大人達とダンジョンの中のを走り回っていたおかげで、地下八階は完全に浄化され、おどろおどろしいお化け屋敷状態から、綺麗な花畑に変わったそうだ。
…何でだ。
お兄様は爆笑。
ミラとクリス様は茫然自失だったらしい。
…やっぱり簡単には終わらないダンジョンであったとさ。
因みに今回の件は、大人達の間で『忘却のシャルロッテ』として恐れられる出来事となったそうだ。
…んー、まあ…うん。
私に消されたく無かったら悪い事はしちゃ駄目だからね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。