王都へ①
【サイラス・ミューヘン】は、最後の攻略対象者である。
ハーフエルフのサイラスは、白金色の長い髪に、琥珀色の瞳。長く尖った耳をしている。
エルフの特徴でもある美しい容姿は、見る者を魅力してやまない。
魔術系の攻撃を得意気とした腹黒毒舌キャラ。
「シャルロッテちゃ~ん、可愛い~!あたしの妹にならない~?」
サイラスが私に抱き着いて来た。
私の知るサイラスは決して、ヒラヒラのフリフリのロリータファッションに身を包む様な…お姉さんではなかったのだ!
「サイラス様…!」
「そんな男みたいな名前で呼ばないでよ~!『サイリー』って、呼・ん・で? 」
大切な事だから二回言うけど…
こんなお姉さんじゃなかったのだ!!
*********
ダンジョン地下八階を攻略した翌々日の、まだ日の昇らない内から、私はお兄様と二人で、アヴィ家の馬車に乗り王都を目指していた。
今回の目的は、お兄様が入学をする王立ラヴィッツ学院の制服等々の注文の為である。
貴族なのに自分で王都まで行かなくてはいけないのかって?
これは男子生徒限定らしいが、《自分の事は自分で》と言う社会勉強を兼ねての事だそうだ。
入学までの期間に必要な物を自分で選び、手配する事は、お兄様の様に既にお父様の補助として領地の運営を手伝っている子供ならば、何も問題無くクリア出来る課題なのだが…皆が皆そうでは無い。
今まで親や家族、使用人に任せっ放しだった子供は初めてその洗礼を受けるのだ。
どの道、全寮制の学院で一人で生活しなければいけないのだから、《自分の事は自分で》その為の第一歩と言う事で頑張れ。
そこに、私が何故同行しているのか。
それは、お兄様の制服姿を一足早く、目に焼き付ける為だ。そうすれば簡単にリカルド様の制服姿も想像出来るのだ。正に一石二鳥!
ラヴィッツ学院の生制服…。ふふっ。
って、それは半分冗談だけどね。
…半分は本気ですが何か?
まあ、後は…今後の計画の為に王都に行ってみたかったのだ。お父様やお兄様の許可が下りたので同行する事となりました。
因みに、王立ラヴィッツ学院の女子生徒には、こんな課題は無い。規定の制服の形であれば、ブランドや生地、製作者は問わない為、自宅でのオーダーメイドが可能だ。
それに、女子生徒は一人だけ侍女を連れて行く事が出来るので、身の回りの世話は侍女に任せられる。何も出来ないお嬢様も生活出来ると言う…なかなかにお嬢様に甘い学院なのだ…。
一般生徒には侍女がいない身分の人もいるが、その生徒達は自分で全てをこなせる為に問題無い。
馬車の中。
私の向かい側の席に座って、静かに読書をしているお兄様。
本日のタイトルは『犬のしつけ方』
…はて?我が家には犬は居ない。
この前は猫の飼い方の本を見ていたが…犬を飼う事に決めたのだろうか?
『犬』と言うワードで、一瞬、ハワードが頭を過ったが…フルフルと左右に首を大きく振って頭の中から追い出した。
「どうしたの?疲れた?」
視線を上げると、お兄様は優しく微笑んで私を見ていた。
「おいで。」
お兄様は自分の横をポンポンと叩き、私に向かって手招きする。
私は素直にそれに従った。
立ち上がり、差し伸べられた手を掴むと、スムーズに私を誘導して自分の横に座らせてくれる。
アヴィ家から王都までは半日以上かかる。
単騎で駆ければもう少し時間の短縮は出来るが、私は早駆けが出来る程に上手くは乗れないので無理だ。ゆっくり、ゆっくりのお散歩レベルで限界だ。
何かの為に乗れる様にしようかな…。
ふと、そう思った時に私は思い出す。
王都に向かうこの道は、スタンピードが起こった後に、ルーカスがカイル団長と一緒に早駆けで逆走をした道なのだ、と。
無意識にお兄様の腕をギュッと抱き締める。お兄様は何も言わずに私の頭を撫でてくれた。
私はそれに甘えて、お兄様の肩口に頭を預ける。
「王都に着いたら、美味しい物でも食べようか。」
頭の上から聞こえる穏やかな声。
スタンピードはゲームの中の話…。
今は自分に出来る事をしているから大丈夫。
私は、自分にそう言い聞かせる。
「…王都は何が美味しいの?」
「んー、そうだなぁ。」
お兄様は上の方を見て、考える素振りを見せた。
「あー、《フルッフ》って言う、甘いパンケーキみたいなのがあるよ。」
「パンケーキ!食べたい!!」
「後は《シャロン》って言う焼き菓子かな。晩餐で出るかもしれないよ?」
「晩餐…。」
《シャロン》は食べてみたいけど…晩餐は憂鬱だ。
今夜は叔父様の…この国の王様の住むお城の晩餐に招待されているのだ。
お城にいる重臣達が余計な詮索をしないかが凄く心配だ…。
クリス様とは、何だかんだで仲良くなっちゃったから、『王太子妃に!』とか言い出され兼ねないのだ。
言われても断固拒否するけどね!
でも、シルビア王妃に会えるのは楽しみだなー。
私の母の親友でもあるシルビア様には、娘の様に可愛がって貰っているのだ。
…着せ替え人形とも言うけど…(汗)
「シャルロッテ、起きて。」
考え事をしていたら、いつの間にか寝てしまっていたみたいだ。
「ん……着いた…の?」
小さく欠伸をしながら、目を擦る。
「うん。外を見てご覧。」
お兄様に言われるがままに、小窓を開けて外を見る。
「うわぁー…!」
一瞬で目が覚めた。
アヴィ領の街とは比べ物にならない位の、人、人、人の山だ。
街中が活気に溢れている。
王都らしい、古くて歴史のありそうな建物から、小さな佇まいのお店まで。多種多様な建物が街中を埋め尽くしている風景は大都市を思わせる。
中央には本日滞在する予定の大きな城がそびえ立っている。
…ここが王都なのか。
「ランチの前に制服を先に作りたいんだけど…大丈夫?お腹空いてない?」
お兄様に尋ねられた私は、自分のお腹と相談をしてみる。
『起きたばかりだからまだお腹は空いてない。』だそうだ。
「はい。大丈夫です。」
「そっか。じゃあ、行こうか。」
私達の馬車はそのまま仕立屋に向かった
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