非情①
ダンジョン調査に入る予定だった、あの日。
私とお兄様はミラの来訪のを迎える為にダンジョン調査へは参加しなかった。
そして、ミラはアヴィ家に暫く滞在する事となった。裏山に研究施設が完成したら、そっちに移動をするのだ。それまでの居候。
アヴィ家には研究機材が何もない為、ミラは魔道具の開発も研究も出来てはいないのだが…私のお父様から渡された数十個の魔石を眺めては、幸せそうにして過ごしているらしい。
良かった。良かった。
お父様と言えば…私の立てたフラグが原因だったのか…。
地下八階の魔物を討伐する事が出来ずに戻って来たそうだ。
早めに撤退したお陰で、【リア】のメンバーの皆もかすり傷程度で済んだらしい。
良かった…。フラグ立ててごめんなさい。
お父様達が逃げ出す事となったのは【
実態を持たない相手と戦うには色々なアイテムや装備が必要だ。
だからお父様達は苦戦し、撤退せざるを得なかった。
そんなお父様達は、リベンジの為に攻略の準備を整えている所なのだ。
幽霊か。蜘蛛なんかよりは全然平気だ。
かかって来い!!
次にダンジョン調査に入るのは一週間後との事だ。
その間に自前の聖水でも用意しようかな。
それも、一瞬で消える位に強力なヤツを。
そしたら、苦戦なんかしない筈!!
そうだ。そうしよう。と、決めた。
明日は、待ちに待ったリカルド様が来てくれる日だ。
私は自室にてドレスを選んでいた。
やっぱり私の中の瞳の色に合わせた薄紫のドレスにしようかな…?淡いブルーも捨てがたい…。
リカルド様が来たら…手取り足取りで魔術の使い方を教えるのだ。
そして…あわよくばまたお耳を触らせて貰うのだ!!!
ふふふ。
ニヤリと笑った所で…
「…シャルロッテ様。何か顔が残念…せっかくのドレスが台無しですよ」
誰もいない筈の室内から声がした。
あれ?この部屋には私一人だったよね…?
ギギギ…と、音がしそうな位のぎこちなさで声がした方を振り返る。
入口の扉の直ぐ近くには、何故かミラが立っていた。
「ミラ…様?どうしてここに?」
いつの間に入って来たのだ!!
「ノックをして、普通に入りました。」
いやいやいやいや!返事をしてないのに入って来るなよ!
「…何の用ですか?」
「これにシャルロッテ様の魔力を少し流して貰おうと思って。」
私に近付き、差し出して来たのは、ペリドットの様な黄緑色の石。これは、【キラープラント】の魔石だ。
「…どうしてこれに?」
首を傾げる私。
「魔石に魔力を流し込んだ状態で、魔道具を作ると面白い物が作れると思うんです。だから魔力を下さい。」
魔石を私に無理矢理片手に握らせて、ニコニコ笑うミラ。
ミラって、こんなに強引な子だったんだ…。
それもも…魔道具が絡んでるから?
「ミラ様…ミラ。私と貴方は同い年なのだから、普通に話そう?私の事は『シャルロッテ』で良いから。」
私は一度だけ溜息を吐いた後、ニコッと笑って、魔石を握らされた手ではない方の手を差し出した。
綿の白シャツにチャコールグレーのスラックスのミラ。白銀色の髪は耳の下位に切り揃えられていて、目元が隠れる位の長さの前髪のままだ。
「うん。分かった。シャルロッテ?」
ミラはそう言って私の手に触れた。
私はギュッと手に力を込め握手をする。
…と、見せかけて、ミラが逃げられない様に掴んだ。
「捕まえた。」
「…え?」
ふふふっん。
私と背丈の変わらないミラを捕まえる事なんて簡単だ。
近くにあった椅子の前まで引っ張って行き、そこへ座らせる。
「ち、ちょっと…!」
そんなにジタバタと暴れても逃がしませんよー?
私は速やかに《縛る》といったイメージを練り上げる。
「バインド」
そう呟けば、押さえてもいないのに、ミラの手足が動かなくなる。
「…シャルロッテ?」
プルプルと怯えるミラ。
口はちゃんと動くし、普通に話せるよ。
動けなくなったミラを見た私は、机の方へ有る物を取りに行く。
それは勿論……
ハサミだ!!
私はミラを見た時からずっとこうしたかったのだ!!
「ち、ちょっと、シャルロッテ!話せば分かる!!」
怯えるミラはチワワの様で可愛い。
「大丈夫。痛くしたりしないから…騒がないでね?」
私はハサミを掲げ、恍惚とした表情を作った。
いざ!!
シャキン。
パラリと落ちるミラの鬱陶しくも長い前髪。
「う、わぁぁ!ミラの前髪がぁ!!」
邸にミラの絶叫が響き渡った。
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