街探索②
「お兄様!次はこっち!!」
お兄様の手を引いて屋台を練り歩く。
串焼き。クレープ生地に野菜やお肉が挟んだ様な物。イカ焼きみたいな物。かき氷みたいな物まであった。
どれも美味しそうだ。
この世界の食べ物は、食材の名前や形が違うものの、味は殆んど変わらない。しかも調味料も沢山存在するので美味しい。
あぁ…お酒が飲みたい。
冷たいビールをゴクゴクと飲み干したい。
「シャルロッテ、顔。」
はっ!涎垂れてた…?!
慌てて口元を拭うが、涎は垂れていなかった。
ホッ。
流石に公爵令嬢が涎はアウトだよね。
クスクスと笑うお兄様。
…もしかして、騙された?
ぷぅーっと、頬を膨らませる私。
その頬を撫でるお兄様。
「何か食べようか。何が良い?」
た、食べ物でなんか釣られないんだから!
「あっちに、美味しそうなソーセージが見えるよ。隣はスペアリブがある。」
ゴクン。
つ、釣られないんだから?!
「シャルが食べないなら、僕だけ食べちゃおうかなー。」
「お、お兄様!串焼きが食べたいです!!」
慌てた私は、お兄様の腕を強引に引っ張って屋台の方へ向かう。
その途中。
ドンッ!
「キャッ!」
誰かが私にぶつかって来た。
倒れそうになる私をお兄様が支える。
「大丈夫?シャルロッテ。」
「…大丈夫。お兄様、ありがとうございます。」
お兄様に支えられて、体制を元に戻す。
一体誰が…?
ぶつかって来た相手を見ると、その相手は道に座り込んでいた。
私と同じ位の小柄な子供だ。
フードを目深に被っていて、表情を見る事は出来ない。
…あれ?どこかで見た様な…。
「君。大丈夫?」
お兄様がその子に向かって、手を差し伸べた。
その子は驚いた様にお兄様を見上げる。
私の居た位置からその子の顔が見えた。
白い肌に…赤い瞳…?
首を傾げた瞬間に、その子と目が合った。
ハッとお互いに見合う事、数秒。
「…だ、大丈夫だから!」
その子はフードを目深に被り直し、差し出された手を振り払う様にして、走り去ってしまった。
私が知っているよりも少し幼かったけど…。
あの子は【ミラ・ボランジェール】だ。
ゲームの中のミラは、シャルロッテと同い年で伯爵家の次男だった。
肩まで伸びる白銀色の髪を一つに纏めて耳の下に流し、赤みがかかった大きな瞳と、中性的な容姿を持っていた。
アルビノ混じりのミラは、肌が凄く白く、本人はそれを気にしている為、暑くても長袖しか着なかった。彼方が来るまでは。
彼方がこの世界に召喚された後。
学院のクラスメートとして出会いを果たす、彼方とミラ。彼らは様々な経験の果てに心を許し合う。
ミラルートに入らなければ、二人は親友となるのだ。
…そんなミラが何故ここに…?
私と出会うのも学院に入ってからだった筈だ。
答えを聞こうにも、ミラは去って行ってしまったので分からない。
何でこう次から次に出てくるかな…。
自然と気落ちしてしまう。
誰かに追われてる訳でも無さそうだし、元気そうだったから…大丈夫だよね?
これから追い掛けてまで、ミラと関わりたくは無い。ミラも私を断罪する側の一人なのだから…。
「本当に大丈夫なの?」
呆けていた私をお兄様が覗き込んでくる。
「ちょっと…驚いただけ!」
私はニコリと笑って誤魔化した。
そんの私に向かって、お兄様は何も言わず優しく頭を撫でてくれる。
…大丈夫。大丈夫。
私は道を踏み外さない。
だから…大丈夫…。断罪なんてされない。
何度も心の中で呟く。
攻略対象者に出会う度に思い出すのは、私の処刑の場面。
実際に体験した訳でも無いのに…、足がすくんて震えが止まらなくなる。
…怖いのだ。
お兄様は頭を撫でていた手を止め、私の右手を両手握る。
「僕は君の味方だからね。」
説明も何もしていないのに、お兄様には…私の気持ちが分かるのだろうか…。
私を慰める様なお兄様の態度に、グッと涙が溢れそうになる。
大丈夫。私は一人じゃない。
私は唇を噛み締め、涙を堪える。
私にとってものお兄様は無くてはならない、頼もしい…一心同体の様な存在になっていた。
お兄様に裏切られる事があったら…私の心は砕けてしまうかもしれない。
「お兄様!!屋台の食べ物を全部食べたいです!!」
無理矢理に笑って、私を握っていた手を引っ張り返す。
「えー?太っても知らないよ?」
微笑むお兄様。
余計な事は言わずに私に合わせてくれる。
「太る時は、お兄様も一緒だもーん!」
「残念。僕は食べても太らない体質なんだ。」
何だと…!?
それは不公平じゃ?!
思わずその場に立ち止まる。
「まあ、シャルロッテは太ってもコロコロして可愛いと思うよ?」
「無責任な事を!!」
プーッと頬を膨らませる。
「あはは。ほらほら。串焼き食べに行くんでしょ?行くよ。」
私の頬の膨らみをプニッと潰して、今度はお兄様が私を引っ張って行く。
お兄様に誤魔化されつつ…、途中で見つけたクランクランのジュースを飲みながら…。
結局、私は屋台の食べ物を存分に堪能したのであった。
さくらんぼの形をしている、クランクランのジュースは甘酸っぱくて、とても美味しかった!
次はお酒の方を飲みたい!
その後…。
体重が少し増えたのは…成長期だからだと思う事にした。
ドレスのお腹部分がキツいなんて気のせいなんだからね…!!
私は心の中で言い訳を繰り返した。
ありがとう…お兄様。
貴方のお陰で私は笑えます。
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