まさかの②

「と、言う事で騎士団の研修としてクリストファー殿下にも、このダンジョンの調査に参加して頂く事になった。」


皆の前でお父様により、クリストファー殿下が紹介される。


何が「と、言う事で」だ!!

私は心の中で、やり場の無い憤りを持て余していた。


私を断罪した時よりも若干幼い顔つき。ストレートの金色の髪は襟足より長い位で、まだ一つには纏めてはいない。


確か、クリストファー殿下は13歳から騎士団に入隊している。


新しいダンジョンが見付かった事による、観光等の国の事業にも影響を及ぼす事があるし、ダンジョンがある事で魔物が出現し、被害がの一般国民へ出る等のリスクもある。


それらを考慮すれば、未来の国王であるクリストファー王太子殿下が《騎士団の研修》という名目で視察に来てもおかしくはない。

ましてや、現国王の弟の納める領地でもあるのだから。


「今日から皆と一緒に調査をさせて頂く事になったクリストファー・ヘヴンだ。一応、王太子という立場ではあるが…今回は騎士団側からの研修としての参加させて貰う。皆とは知らない関係では無いので、対等な扱いを希望したいと思う。」


クリストファー殿下は丁寧な挨拶をした後、ペコリと頭を下げた。


王族が簡単に頭を下げて大丈夫なのだろうか??

首を傾げていると、クリストファー殿下のサファイアブルーの目と合った。


げっ!


クリストファー殿下がスタスタと私の方に向かって来る。


「君は…シャルロッテ嬢か?」


一番会いたくなかったとはいえ、王族相手に嫌な顔何て向けてはいけない。

返事もきちんと返さなくてはいけない…。

シャルロッテは曲がりなりにも公爵令嬢なのだから。


「はい。お久し振りです。クリストファー殿下」

ワンピースの裾を持ち、平然とした表情を造り淑女の礼をした。


クリストファー殿下は視線だけで、それに応えた後。


「大きくなったな。」

と、しみじみ呟いた。


親戚の叔父さんか!!

と言う突っ込みは置いといて…。


「はい。もう直ぐ13歳になりますから…殿下とお会いしたのは五年振りでしょうか。」

頬に手を添え、ニコリと笑う。


「もう…」

「…はい?」

「クリスお兄様とは呼んで貰えないのだろうか…。」

捨てられた子犬の様な瞳が私を見つめている。

「…。」


…確かに五年前は、ルーカスお兄様と一緒に遊んでくれたクリストファー殿下の事を『クリスお兄様』と呼んでいた気がする。


五年も会っていなかった従兄弟の…しかも王族を気軽に呼べないよ!!


しかも、和泉としての記憶もあるから、上下関係の厳しさには覚えもある。


そして、何よりも!!

クリストファー殿下と接点をこれ以上増やしたく無いのだ!!


万が一でも、不敬罪で断罪とか勘弁して欲しいし…。


どうしたものかなー。


途方に暮れていると…。


「クリストファー殿下。妹が…シャルロッテが困ってますよ。」


お兄様が私達に近付いて来た。


お兄様!!

私の救世主が来た!


「ルーカスか。これから宜しく頼む。」

クリストファー殿下はお兄様に手を差し出す。

お兄様は差し出された手を握った。

「はい。アヴィの領地の為にご足労頂きありがとうございます。」


「ルーカス。堅苦しい話し方は止めてくれ。」

クリストファー殿下は苦笑いを浮かべた。


「殿下は私の主君になる予定ですからねー。」


お兄様は、少しだけ溜息を吐いて

「全く…クリスは変わってないな。」

笑った。


おお…。男同士の友情が見える。

昔から仲良しだもんね。


私が会って無かっただけで、お兄様達は何度も会って話ししたりもしてるのだろう。



よし!この隙に抜け出そう…。


笑顔を貼り付けたまま、気配を消して動こうとした。



その時。


「それで、シャルロッテ嬢はもう私の事をお兄様とは呼んでくれないのか?」


クリストファー殿下が私の方を見た。


脱出失敗…。






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