赤い星の贈り物
『赤い星の贈り物』
お兄様曰く、私の瞳の中に【赤い星】が見えるらしい。
この星は産まれた時から私の中にあったそうだ。
お母様譲りのアメジストの瞳の中にそんな色が混じっていた記憶は無いのだが…お兄様が言うには《鑑定》という魔術眼を持つ一部の人間にしか【赤い星】は見えないそうだ。
星が見えるお兄様は勿論、鑑定持ちだそうてす。
昨日、倒れた後から赤い星の縁が金色に光って見えるらしい。
これも私には全然分からないけどね。
【赤い星】とは。
この世界にいながら、他世界の記憶を持つ【赤い星の贈り人】の瞳のみに宿る物。この世界に多大な影響をもたらす、聖女とさえ並ぶ稀有な存在。
召喚者とは異なる様だ。
【召喚】は、魔術師が異世界から本人の身体のまま呼び寄せる術であり、生きた人間である必要がある。(女性のみ)。元の世界に帰れない代償として、召喚者は神より莫大な力を授かる。
一方、【赤い星の贈り物】は魂や精神のみを異世界から呼び寄られ、この世界の住人と混じるのだ。(死者のみ)。又、贈り人を呼び寄せるのは女神だと言われてるらしい。別名:女神の愛し子。
この説明だけ聞くと自分がとんでもない者に思えてくる。そんな大それた存在じゃないのに。
「だから、君が特別な存在だって言うのは昔から知っていたんだ。でも、昨日まではそんな素振りも無かったから忘れてしまっていたけどね。」
お兄様は苦笑いを浮かべる。
《特別な存在》
この言葉が胸に突き刺さったと同時に感情が大きく振り切れた気がした。
「何も無いなら、それで良かったし…」
「じ、じゃあ!…今は!?」
言葉を途中で遮った私は、ガシッと、お兄様のシャツの胸元を両手で掴んだ。フルフルと小刻みに震える両手。
お兄様を見上げる瞳がジワジワと潤んで来る。
「倒れる前までは、ここで13年間普通に生活をしていたシャルロッテだった!でも…目覚めた後に…思い出してしまった…!今の私は…」
「…シャルロッテ?」
陸に打ち上げられた魚が呼吸も出来ずパクパクと喘ぐ様に…溢れ落ちる涙と、悲鳴混じりの嗚咽が出るのも構わず、エールを口にして倒れた後に【
和泉が、どう生きて、どうして死んだか。
この世界が和泉が好きだったゲームの世界に酷似している事。
それによれば、一年後にこの邸の裏山にある未発掘のダンジョンから、スタンピードが発生して大量の魔物が溢れ出て来る事。
シャルロッテと執事のマイケル、そして学院にいたルーカス以外の両親を含めた邸の全員が死んでしまう事。
その後のシャルロッテとルーカスの生き死にと、ゲームの結末。
覚えている限りの全てを吐き出した。
全てを話し終えた私は、お兄様の腕の中で泣きじゃくっていた。
「シャルロッテ…不安にさせてごめん。」
背中に回された手が、トントンとあやす様に一定のリズムで叩かれる。
「そっか…。ずっと怖かったよね。急にシャルロッテ以外の記憶が戻って、混乱したよね。」
和泉の記憶を合わせれば半分以上も年下のルーカスお兄様にあやされながら、私は泣き続けていた。
乙女ゲームだった世界に存在していたシャルロッテと、そのゲームプレイヤーだった和泉。この世界はゲームではなくて、現実で…。
まだ1日しか経っていない和泉をシャルロッテが受け入れきれず…和泉の方もまた然り。
『ポジティブに』を繰り返し言ってたのは、自分を勇気付ける為だった。不安で心が折れない様に。
泣いたりしたら、立ち直れなくなりそうで怖かった。
そして、さっきの発言。
捨てられたと思った…。
「君は多分勘違いをしているんだ。それは僕のせいでもあるんだろうけど…」
お兄様発言穏やかな声で話始めた。
「僕にとっても家族にとっても君は大事な家族だよ?そこは信用して欲しいな。」
お兄様の肩口に顔を埋めたまま、黙ってコクンと頷く。
「シャルロッテは和泉さんの記憶が戻ったせいで、シャルロッテでも和泉さんでも無い別人になったと思ってるのかもしれない。」
コクン。
「そして、その二人の人格を一つに纏めないと駄目だと思ってる。でも、それは違うよ。二人は元々一人だったんだから。シャルロッテが産まれた時から、和泉さんも一緒に成長して来た。今、ここに居る君が僕の大事な妹だよ?シャルロッテ。お願いだから、否定しないで…。』
ギューッ。
肩口に顔を擦り付けて、更に泣いた。
今の自分を否定したりせず、肯定してくれた。
シャルロッテとして生きるのに、和泉を捨てなくて良いと。
今の私が妹だと言ってくれた。
「スタンピードか…。」
そして、嘘か本当か分からない未来の事まで考慮してくれる。
「だからシャルは、急に裏山の散歩とか言い出したんだね。」
言葉と共にお兄様の視線が降りてくる。
「うん。今の内なら何とか出来るんじゃないかなって…。」
「その考えは正解。父様と話し合ったんだけど、あそこは近日中に調べる事になったよ。本来居ない筈の場所に魔物が居た事だしね。スタンピードを抜きに放置するのは怖い。」
「…ギルドに頼むの?」
「うん。ギルドに依頼して、僕と父様達で調査に入る予定だよ。ダンジョンを制覇して、原因を突き止めないとね?」
「…危なくないの?」
「慣れてるから大丈夫。シャルに心配はかけないよ。これでも強いんだからね?」
お兄様は私を安心させる様におどけてみせる。
「私も…参加したい!」
ガバッと、俯けていた顔を上げる。
私も手伝いたい。
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