裏山探索

一人で未発掘のダンジョンを発見しようと思って、裏山に向かおうとしたのに…


何故かお兄様が憑いて…

じゃなくて、付いて来た。


しかも、《恋人繋ぎ》と言われる手の繋ぎ方で、私の左手は完全にホールドされてます(汗)


『あ!あそこにUFOが!!』

何て言って逃げる事は出来ません…。



「ルーカスお兄様…?手を繋ぐ必要ありますか?私はもう小さな子供じゃないんですよ。」

細やかな抵抗を仕掛けてみるものの…


「僕と手を繋ぐのは…嫌?」


繋いでいる手に唇を寄せられ、コテンと首を傾げながら言われたら…


「…嫌じゃないです。」


断れる訳ないじゃないかぁぁぁ!


私の心はリカルド様の物なのに…

惚れてまうやろー!!


「じゃあ、このまま行こうね?」


だから、そんなに甘い顔で微笑まないでー!!


真っ赤な顔で、ぷーっと両頬を膨らませてる私を見て、お兄様はクスクス笑っている。


「ごめん、ごめん。何かいつもよりシャルが可愛くてつい。」


…って、わざとか!


お兄様あざといなー!!



はぁー…。


まだ何もしてないのに疲れた…。


まあ、良く分からないけど、お兄様なりに心配してくれてるのかもしれない。

お酒のせいで倒れたばかりだしね。



「お兄様、あっちに行きたいです!」


行きたい方向を指して、お兄様の手を引く。


これ以上、振り回される前に目的の場所に連れて行ってしまおう。












確か、この辺りだと思ったんだけどな…。


ゲームの記憶を頼りに、裏山を進み続ける。



立ち止まって、周りをキョロキョロしていると…


「シャル!こっち!」


グッと強く手を引かれ、茂みの中へと押し込まれた。


「お兄様…どうしたの?」

「しーっ…!」


口を大きな手で塞がれた。

お兄様は自分の唇の前で指を一本立てて見せる。


『静かしろ』って言う事だよね。


私はコクコクと頷き、その指示に従う事にした。


それから数十秒も経たない内には現れた。



…!?


猫位の大きさで、猿の様な顔。筋ばった細い手足を持った生き物だった。


は四足歩行で、私達のいる茂みの前を通り、ゆっくりと、どこかへ消えて行った。





あれから何分経っただろうか。


「もう大丈夫かな?」

そう言って、お兄様が私を解放した。


未知の生物に遭遇した恐怖や衝撃から逃れられた安心感から、無意識に強ばっていた全身の力が抜け…暫くは動けなそうだ。


私は腰が抜けていると言うのに、お兄様は平然と立ち上がる。


辺りをキョロキョロと見回しているから、まだ警戒は続けている様だ。


「…アレは一体…?」


「あれは猿飢えんき。単体では弱いんだけど、群れで行動するタイプの魔物だから少し厄介なんだ。」


魔物!?

そうか、あれが猿飢なのか!


ゲームの中で、やたら弱いくせに、死にそうになると、仲間をこれでもかって位に大量に呼ぶ魔物だった。


私達だけで猿飢を相手にするのは危険でしかない。


「何でここに魔物が居るんだろう…。」


お兄様は眉間にシワを寄せて思案していたが、

「邸に帰ろう。ここに居るのは良くない。」


お兄様はそう言って、動けないままの私を横抱きに持ち上げた。


「お、お兄様…!お…重いから!歩けましゅ!歩きましゅ!!」


突然のお姫様抱っこに、動揺しまくり、咬みまくりの私。


ルーカス様のお姫様抱っこだよ!?

ゲームで彼方がされてたアレだよ!?


スチルで見たあのシーンが目の前にあったら、興奮せずにはいられないでしょ!?


「シャルは重くないから大丈夫。これでも鍛えてるんだよ?」


ニコリと笑うお兄様。

「…で、でも!」


邸まではそこそこ距離があるのに、15歳の少年が3歳しか違わない妹を抱え続けるのはキツイんじゃ…。


「シャル、お願いだから黙って運ばれて?僕も魔物に出会って動揺してるし…シャルをこうして抱き締めてるだけで安心するんだ。」


私の額にキスを落とすお兄様は…






王子様イケメンでした!!


もー!!

さっきから何なの!?

私をどうしたいの!!


私が妹じゃなかったら、普通に恋愛フラグだよね?これ。


「…お兄様、宜しくお願い致します。」


邸に着く前に、恥ずか死ぬのではないだろうか…私。



心を落ち着ける為に、何度も深呼吸を繰り返す。


「お兄様は猿飢を知っていたけど…他にも魔物を見た事があるの?」


恥ずか死ぬ前に話題を変えてみる。


「僕は冒険者ギルドに登録してるから、依頼を受けて何度か魔物を討伐した事があるんだよ。」


お兄様は歩くスピードを緩めず答える。


冒険者ギルドとな。

いつの間に…。


将来、騎士にもなれる様にと、幼い頃から訓練をしていたのは知っていたけど、まさかギルドに登録までしていたとは。


「お父様は知っているの?」


「勿論。父様とはパーティーを組んでいるから、何度か一緒に討伐依頼を受けてるよ。」


何と!

お父様まで。


あー、そう言えば、お父様とお兄様が揃って領地の視察に行くとかで何度も邸を空ける事があった様な…。


あれは魔物の討伐の為だったのかもしれない。




「着いたよ。」


考え事をしている間に、もう邸に到着した様だ。


私というお荷物があった筈なのに…お兄様早い。


邸の扉の前で私をそっと下ろしてくれる。


「僕は父様に報告してくるよ。多分、ギルドから調査が入るとは思うけどね。」


私の髪をくしゃっと撫でてから、邸の扉に手を掛け…

ふと、振り返って私を見る。


「一人で裏山に戻ったら行ったら怒るからね?」

と、私に釘を刺す。


私が素直に頷くのを見届けてから、お兄様は邸の中へと消えて行った。

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